魔法少女、実力を見せつける
二人の仲間を連れ、一日ぶりに世界樹へ来たハリス。
揃って樹を見上げる彼等の前に、二羽の青い小鳥が舞い降りる。
ハリスがそっと手を掲げると、小鳥はそこへ止まり、可愛らしく鳴く。
小鳥の声に応じて頷くハリスは、ポケットから巾着袋を取り出すと、そこから穀物を出して彼等に与える。
「危険な中で協力ありがとう、お前達も気を付けるんだぞ」
彼の言葉に、餌を啄む小鳥は返事をするように鳴き、再び飛び立っていく。
それを見送ったハリスは、彼等の言葉を二人へ伝える。
「マスターの言う通り、周囲にも樹上にもモンスターがほぼいないようだ」
「ハリス様は種の違う者と会話できるのですか?」
「そうだな。生き物で理性があるなら」
何気なく答えたハリスだが、付け加えられた説明に、初対面で暴走していたレナはショックで胸を撃つ。
そんな彼女の気も知らず、手に握ったリベイルケインで世界樹の根元を差す。
「異常事態は世界樹を中心に起こっているとみて間違いないようだ。樹上へと登るルートは、この裏の――」
一から説明していた彼だったが、リンゴが彼の言葉に被せるように話しだす。
「裏の根を回るようにして登れば、外側を歩きながら、樹上まで登れる……ですね?」
「その通りだが、どうしてそれを?」
「聞くだけの動物会話なら、独学で勉強済みですので」
腕を組む彼女は、張り詰めた冷ややかな声で答える。
二人を警戒している様子のリンゴに対し、ハリスはすました顔で言葉を受け取る。
「独学とは凄いな。なかなか会得できるものでは無いぞ」
「え……そ、そうですか……お褒めいただき、どうも……」
誉め言葉に頬を赤らめ、帽子で顔を隠すリンゴ。
しかしレナは素っ気ない彼女の様子に、唇を尖らせて可愛らしく不満を表現した。
だが空しくも彼女の思いは伝わらす、三人は世界樹を登り始める。
木登りというよりは岩山登山に近く、木の幹に刻まれた大きな溝や、人が乗っても落ちる気配のない葉などを歩いて経由し、着実に登っていく三人。
ツンケンしていたリンゴも、この時には協力的になり、険しい道を進む。
道中、誰の身長よりも高い段差に直面する三人。
二人が跳躍して上へ飛び移る中、一人苦戦するリンゴに、先に登ったレナが手を差し出す。
「つかまってください」
「……! ありがとうございます!」
手が繋がれた瞬間、リンゴを勢いよく引き上げるレナ。
あまりの勢いに驚いた彼女は、目を丸くしてレナを見る。
するとレナは胸を張り、双丘をぷるんと揺らして鼻高々に自慢する。
「私、パワーには自信アリですので」
「なら尚更、何故メイド服を……? 格闘家衣装のほうが……」
「それは私が、ハリス様の従者だからです」
堂々と答えるレナの言葉に、リンゴが意味深な目でハリスを見ると、彼は訂正する。
「立場上は主従だが、関係は対等なつもりだ……少なくとも俺は」
持論を答え、二人が体勢を整えた後、再び出発する一同。
そんなこんなもあり、道中を探索しながら歩き続けた三人は、数時間かけて世界樹の八割がたを踏破する。
眼下の地面は遠く、少し傾いた太陽を見て、ハリスは少し立ち止まる。
「今から降りても、暗くなって危険だ。一番上まで登って野宿にしたいが、二人はそれで大丈夫か?」
「ハリス様が望まれるのであれば」
「私も構いません」
二人の意見を聞き、安心したハリスは、再び歩き出そうとする。
しかしその時、彼は何かを察知し、頭上に広がる枝葉に目を向ける。
瞬間、ハリス達を待ち構えていたかのように、樹上から丸太ほどもある大きな蛇が二匹、勢いよく襲い掛かる。
いち早く気づいた彼は、振り向いて二人を押し倒し、大蛇の攻撃を回避する。
レナからは蜂蜜のような、リンゴからは名前通りの甘い香りが漂うも、今は彼女達の芳香に気をやる時間はない。
「完全に俺達を食うつもりだ。和解はできそうにないな」
立ち上がって戦闘態勢に入るハリスに、遅れて立ち上がったレナも並び立つ。
拳を握りしめ、共に迎え撃つ準備を整えるレナ。
だがその時、二人の間を縫うようにして、短い杖を握ったリンゴが単身で飛び出した。
勢いよく大蛇へ迫るリンゴに、レナは慌てて叫ぶ。
「一人では危険です!」
「私に任せてくださいっ!」
息巻いた声で告げたリンゴは、杖の先に乳白色の光を灯す。
対する大蛇も、餌自らが駆け寄ってくる事態に、身体をバネのように伸ばして彼女へ牙を剥く。
その時、リンゴの杖に宿った光は輝きを増し、周囲を強く照らす。
「『ライトレイ』!」
リンゴが叫ぶ呪文と共に、杖の先から放たれた極太の光が、蛇の頭部を消し炭にする。
足にブレーキをかけ停止したリンゴだが、そこにもう一匹の大蛇が攻撃を仕掛ける。
対してリンゴは前へ跳び出し、蛇の顎下へ潜り込むと、再び杖に光を灯す。
「『ライトレイ・メス!』」
刹那、杖の先に形成された光の小刃が、蛇の腹部を掻っ捌く。
干物のように開かれた蛇は、そのままリンゴに覆いかぶさり絶命した。
たちまちのうちに二匹の大蛇を倒したリンゴに、ハリスは彼女の名を呼ぶ。
「大丈夫か、リンゴ!」
すると呼び声が届いたのか、腹を開かれた蛇がぶつ切りに両断され、息を切らしたリンゴが姿を現す。
乱れた服を直した彼女は、蛇の中から何かを拾い上げ、二人の元へ駆け寄る。
「恐らく、消化しきれなかった残骸かと」
リンゴがハリスに手渡したのは、冒険者のものらしき鎧の残骸。
大蛇の中から見つかったそれに、ハリスは真相を察する。
残骸についた体液を拭きとり、証拠として懐にしまったハリスは、今一度リンゴを見つめる。
「今回は無事だったから良かったものの、もし――」
「私の戦い、見てくれましたか?」
注意を遮り、ぼそりと呟くリンゴ。
普段の声色より数段低いその声に、ハリスは唇を噤むと、代わりに彼女が早口で話しだす。
「あれくらいの敵であれば、私一人でもなんとかできます。魔術師として、十分戦えるんです」
拳を握りしめ、経典でも唱えるかのように、リンゴは張り詰めた表情で呟く。
ハリスはその異変に、彼女が落ち着くまで、静かに見守り続けた。
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