モンスターテイマー、犬耳少女の正体を知る
翌朝、四人は再び探索のために宿を出る。
しかしそこに、前日のように狩人の姿は無かった。
ハリス達から話を聞いていたリンゴは、その状況に嫌な想像をする。
「ひょっとして、狩人さんも……」
「心配なさらず。彼女の匂いは最後に会ったときとあまり変わりません」
レナの言う匂いをリンゴが嗅ぐことはできないが、説得力のある声色に、彼女の言葉を信じる。
しかし状況が一刻を争う異常事態である事には変わりない。
ハリスは覚悟を終えた三人に、再確認するように告げる。
「急ごう、いまは何が起きるかわからない」
三人はそろって頷くと、さっそく霊峰へ向かった。
*
探索は、昨日と同じく二組に分かれることになった。
狩人に一人で来て欲しいと頼まれたハリスだったが、彼はリンゴと行動する。
さっそくケットシーの召喚符を使った彼は、リンゴと共に昨日の異常な地点を目指した。
「ハリスさん。本当にアンデッドを悪用している人がいるとしたら、どのような方なのでしょうか?」
道中、リンゴが疑問を投げる。
ハリスが彼女のほうを見ると、今までにない緊張感が漂っていた。
前に向きなおった彼は、緩い勾配の雪山を登りながら答える。
「何を企んでいるのかは見当もつかん。ただ、戦力のために無差別にアンデッドを作っている辺り、狂人であることは違いないだろう」
「狂人、ですか」
「……少し語弊があるかもしれないな」
そう言うと彼は、リンゴの心理を理解したうえで話しなおす。
「リンゴは他人を深く知ろうとする節がある。それ自体はとてもいいことだ。たまに鋭すぎる質問もあるが」
「そうなのですか? 気付きませんでした」
「ああ。ただ世の中には、煮ても焼いても理解することなんてできない、危険な人間も多くいる」
ハリスからの警告に、リンゴも危機感を覚えて身を引き締める。
彼女自身、そのような人物がいるのは承知していたが、異常事態の首謀者が危険人物であるという予想はしていなかった。
「そんな人間を理解しようというのは時間の無駄――いや、下手をすれば自分の生死にかかわりかねない。気を付けておけ」
「……わかりました」
返事と共に、リンゴの首輪が鈍く光る。
しかし今回は意識をなくすような事もなく、彼女の意思表示に呼応しているだけのようであった。
二人は倒木を頼りに道を外れ、山へ分け入る。
獣道すらない順路を、リンゴをサポートしつつ更に奥へ進む。
やがて目の前に、異常が明るみになった開けた場所へたどり着く。
少し雪が積もり、昨日ほど荒れている印象はないが、それでも壮絶な戦いの跡を見る者に想像させる。
「局地的ですけれど、これほどの被害が生まれる戦いって……」
不安げな声をあげ、口元を抑えるリンゴ。
だがそのとき、ハリスはリンゴの肩を叩き、開けた場所の奥にある木々を示す。
木陰に隠れた、犬耳が頭頂を飾る、大きな弓を担いだ少女の影。
隠れていた狩人は、二人が気付くと同時に姿を現す。
しかしその外見に、リンゴの表情は引きつった。
「狩人さん……その血は、一体……!?」
彼女の驚くとおり、狩人は渇いた血に全身を汚し、虚ろな表情をしていた。
取り乱すリンゴの代わりに、ハリスが注意深く彼女を観察する。
おぞましい血の量ではあるが、狩人にケガの痕跡はない。
加えて飛沫痕もなく、何かと戦ったというわけでもないようだ。
ではなぜ、狩人は血まみれなのか。確かめるためハリスは尋ねる。
「何があった? その血はどうしたんだ?」
「……おひとりで来てくださらなかったのですな、ハリス殿」
会話が通じない。問いかけに対し、彼女はそれだけ呟く。
リンゴだけでなく、狩人も錯乱していると気づいたハリスは、作戦を変える。
「ああ。この状況となれば、一人は危険だと判断した」
受け手に回り、まずは狩人を落ち着かせる。
彼のとった作戦は、さっそく効果が出たのか、冷えきっていた狩人の表情に温かみが戻る。
「ですな、賢明な判断だ。いまこの山を一人で歩くのは自殺行為に等しい」
「すまないな、お前の意思を尊重できなくて」
「いえ、良いのですよ。それに……」
言いながら狩人は、視線をリンゴへと移す。
乾ききったその瞳に見つめられ、彼女はビクリと警戒する。
だが狩人は、そんな彼女の様子を見て、落ち着けるように可能な限り優しい表情を作る。
「ハリス殿が氷狼さまに会いにいらっしゃったのは、リンゴ殿の呪いを解くためにございましょう?」
言い当てるように指摘され、頷くハリス。
ここに来た理由について彼は、女将にだいぶ濁して伝えた程度で、村の誰にも話していない。
しかしそのとき、狩人の雰囲気はどこか人ならざる神聖なもの刻々と変化しており、心を読むような彼女の言葉にもハリスは驚かなかった。
すると狩人は二人へ背を向け、顔を合わせずに告げる。
「私に続いてください。拠点へ案内します」
そう言うと彼女は、木々の中へ、より山奥へ向かって歩きだす。
ハリスとリンゴは顔を合わせ、従おうという意見で一致し、頷き合う。
二人は狩人の後を追い、さらに険しい山道を協力して進む。
そんな道を軽々と先導する狩人に、ハリスは先んじて尋ねる。
「こんな場所に拠点を作ったのか? もっと村に近くても良いだろう」
「そういうワケにもいかないのですよ、ハリス殿」
狩人は少し振りかえり、ハリスを見て告げる。
「私にはもう一つ、守らねばならぬものがある故」
*
歩き続けて、一時間近くが経過する。
ハリス達は山頂付近まで登り、隠された氷穴の中へ案内される。
二人はそこにいたモンスター達を見て、狩人の言葉を察する。
「フェンリル……」
名前を呟くハリス。
実物は見たことがなかったが、レナのドラゴン姿とほぼ同じ巨大な銀毛のオオカミは、一目でそれだと彼に理解させた。
目の前に聳えるフェンリルは、全身に生傷を作り、横になって寝ている。
そんな銀狼に、寄り添って眠るアルミラージュの姿もある。
雪原でハリス達が出会い、治療したものと同じ個体だ。
狩人はフェンリルに歩み寄り、心配そうに体表を撫でる。
そんな彼女に、ハリスは意を決して質問を開始する。
「狩人、お前は何者だ? どうして俺たちに良くしてくれる? フェンリルの居場所は……最初からわかっていたのか?」
たたみかけられる質問の数々に、狩人は少し苦笑いする。
その問いを整理し、彼女は小さく頷くと、まず最初の問いに返す。
「ハリス殿。私の正体は、察しているのでは?」
問いを返す狩人に、リンゴはハリスのほうを見る。
彼の表情は複雑そのもので、疑念はあるが、あり得ないといった雰囲気を醸していた。
それでも彼は、狩人にうながされ、口を開く。
「生まれ変わりや転生を、俺は深く信じてはいない。だがもしそれがあるとするのなら。狩人のように勇猛な、賢き犬を俺は知っている」
ハリスは顔を上げ、彼女の名を告げる。
「ダーニャ。俺と共に故郷の村をサラマンダーから救い、唯一命を落とした……俺の、かつての相棒だ」
瞳をゆらめかせ、過去を回想しながら答える。
答えを聞いた狩人もまた、彼と同じ顔をして告げる。
「……お久しぶりです、御主人」
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
本日18時より、新しい連載作品の開始します。
それにあわせてこちらも本日二回目の投稿を予定しておりますので、お楽しみください。
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