ドラゴン娘、巨人を沈める
世界樹に絡みついたリベイルケインの先端。
そこから延々と伸び、巨人の片足に絡みついた鞭の柄は、少し離れたリンゴの手に握られている。
ハリスは目測で冒険者たちと巨人の距離を測り、口を開く。
「リンゴ、冒険者たちがリベイルケインを掴めるよう、もう少し伸ばしてくれ」
「はいっ!」
元気よく返事をし、リンゴは軽く飛んで鞭を伸ばす。
すると魔術師や戦士問わず、町を守るために戦った者たちが、伸ばされた鞭を縄のように掴む。
最後尾のリンゴの近くには、ハリス達が並んで入り、油断する巨人を見て号令を放つ。
「いくぞ、せーのッ!」
掛け声に合わせ、一斉にリベイルケインを引く。
途端に張り詰める鞭に、巨人は勢いよく足を引かれ、バランスを崩す。
『な、何だ!? 何をするのだ貴様等!?』
困惑する巨人。その声を完全に無視し、鞭を引く人々。
彼等の団結によって生まれた力に、大樹のような脚がもつれる。
しかし巨人も一筋縄ではない。
力で負けるわけにはいかないと、ロープの絡んだ足を蹴り上げようとする。
『害虫風情が、我に力で勝とうなど!』
少しずつ揚げられていく足。
途端に鞭を引く彼等は、ズズッ! と引き摺られる。
けれども最後尾を務める華奢なリンゴ含め、転ぶことは無い。
それどころか、再び片足になった巨人の様子を見て、レナが叫ぶ。
「今ですっ!」
張り上げられる彼女の声に、冒険者たちの腕に力が入る。
巨人の蹴り上げる力を逆に利用し、同方向にリベイルケインを引くことで、過剰な運動力がその足に加えられる。
人々の起点により、文字通り揚げ足を取られた巨人は、大きく仰け反る。
『うおおおっ!?』
それでも彼は、片足でバランスを保ち、姿勢を正そうとする。
しぶとい巨人の立ち回りに、視線を鋭くしたレナは、二人に告げる。
「ハリス様、リンゴ! ここはお任せしてよろしいでしょうか!」
「構わないが、どうするつもりだ?」
「実力行使です!」
返答した彼女は、縄を離して地面を蹴り、一飛びで巨人の眼前に向かう。
背面に転びかける巨大な顔の前に現れた彼女に、彼は口を開く。
『貴様は……!?』
「小賢しい巨人めが、口を開くな!」
ドスの効いた声と共に、巨人の顔面へ拳が叩き込まれる。
鼻はへし折れ、白目を剥きかけながら、彼はレナの瞳を見て気付く。
『その瞳の色、まさか貴様は!?』
「ほう、私を知っているか若造。ならば貴様の嘘が通用しないというのも、理解しているな?」
笑みを浮かべ、更なる追撃に入るレナ。
邪悪さすら覗く顔に、表情を引きつらせた巨人は、咄嗟に彼女へ手を伸ばす。
『だが、本調子ではないようだな!』
「何?」
『全盛期の貴様なら、我など吐息の一つで倒せていたであろうものを!』
声を荒げつつ、突き出される巨人の手。
その掌はレナを捉えると、彼女の身体を握り込む。
「しまったッ!?」
『貴様を殺せば、この場に真実を知る者などいないと言う事だ!』
巨人はレナを地面に叩きつけるため、身を反転させようとする。
自由を奪われた彼女は、衝撃に備え顔を顰める。
だがその時、巨人の足元から、ハリスの声がこだまする。
「誰を、殺そうだと?」
次の瞬間、ズドン! という音と共に、鞭が絡まっていないほうの足が宙に浮く。
足元では、怒りの表情を浮かべたハリスが、まさにその足へタックルをきめていた。
空中で一回転し、両足を宙に浮かせ、仰向けに地面へ倒れ込む巨人。
それを見たリンゴは、巻き込まれることを危惧し、鞭を元の大きさへ戻す。
その間に、無防備に宙を舞う巨人に飛び移ったハリスは、レナをその手から救出する。
「ハリス様……」
「話は後だ、行くぞ!」
「……はいっ!」
レナの手を取り、上空へ跳躍した二人。
彼等の眼下で、背中から地面へ落ちていく巨人の姿を見ながら、リンゴは二人へ声援を送る。
「ハリスさん! レナさん! いっけぇーーっ!」
力強い声を受け、顔を合わせて頷きく二人。
直後、レナへハリスが魔力を送り、彼女の胸元の紋章が光を放つ。
そして二人は身を翻し、空を蹴って急降下する。
「『限定解除』ッッ!」
言葉と共に、リンゴを救った時のように、彼女の身体が少しだけ龍の姿へ戻る。
そうして二人は勢いのまま、巨人の胴にダブルキックをかます。
海老反りになり、地面へ叩きつけられる巨人。
大きな頭を強烈に撃ちつけ、意識が混濁した彼は、最後にレナへ問う。
『貴様は人間に相当の恨みがあるはず! なのに何故その男に、人間に力を貸す!?』
巨人の問いかけに、レナの頭には初めてハリスと出会った日、彼にも話した自身の末路を思い出す。
信頼していた人間に裏切られ、暗闇の中で徐々に飢えていく地獄の日々。
――そしてハリスに救われ、リンゴと出会い、過ごした記憶へ繋がる。
新たに生まれた日々の思い出に、彼女は薄く笑って答える。
「私も成長したのだよ、年甲斐もなくな」
満足げに告げるレナだが、巨人に理解できるわけもなく、彼の意識は薄れていく。
それでも二人の蹴りは勢いが止むことは無い。
巨人の肉体が地面に衝突し、強烈な衝撃波が発せられてなお、彼等は叫ぶ。
「「はあああああぁぁぁああぁぁ――――――――ッッ!」」
ハリスとレナ、二人の一撃は、巨人越しに大地へヒビを入れる。
尋常ならざるその威力に、遂に巨人は、自身の意識を手放す。
直後、ドゴォ! と、大地は崩れ、地面にできた大穴へ、巨人は収まった。
……崩れた地面の端から、かつてレナが封じられていた場所に似た、貴石の塊が覗いている。
二人が近くの地面へ着地すると、ハリスは懐に手を入れる。
「仕上げだ」
鎖の描かれたカードを取り出し、指に挟むハリス。
そのまま指鉄砲を作り、詠唱する。
「『キャプチャーステラ』『サモン・チェーン』、拘束力持続」
指先に灯った青い光が、カードの輝きと共に、黄金色へ変化する。
そうして放たれた魔法陣は分裂し、意識を失った巨人の肉体へ降り注ぐ。
金色に輝く魔法陣と、そこから伸びる鎖に、拘束された巨人。
長いようで短かった戦いを終え、一息ついたハリスに、レナが頭を下げる。
「大変お疲れ様でした」
「ああ、互いにな」
頭を上げたレナと共に、ハリスは笑い合う。
そんな二人の元に、激戦を共にしたリンゴやマスター、そして多くの冒険者たちが、勝利を分かち合う為に歩み寄っていくのであった……。
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