モンスターテイマーたち、巨人と激戦を繰り広げる
接敵まで数十メートル。
最前に腕を組むハリスの前に、太陽を隠すほどの体躯を持つ巨人が、彼等を見下ろし立ち止まる。
『……害虫風情が、我に仇なすか』
巨人視点ではアリのように地面へ並ぶ冒険者たち。
人数は二百人に達さない程度だが、彼等は既に戦う覚悟を固めている。
両者睨み合い、次に話しだしたのは数分後。
鉄を丸めただけのメガホンを手に、マスターが叫ぶ。
「教えてくれ、何でキミは世界樹を欲しがる?」
『何故それを……ああ、あの番の虫か。今はいないようだが』
「キミが怖くて、彼等はとっくに逃げ出したよ」
最初に巨人を目撃した男女を主軸に、会話が広がる。
逃げたという言葉に、巨人は太鼓を叩き鳴らすように笑う。
その笑い声が発せられるだけで、小さな衝撃の波が生まれ、冒険者たちを軽く叩きつける。
『愚か者共め、貴様等は逃げなくて良いのか?』
挑発じみた言葉に、マスターは笑みを作り、アンサーを飛ばす。
「俺達は逃げなかった愚か者ではない。居場所を守るために集まった、腕自慢の戦闘バカさ」
ハリス達を含む多くの冒険者を背に、誇るように告げる彼。
諦めを見せない彼等を、面白く無さそうに眺めた巨人は、拳をバキバキと丸太を折るような音を出して鳴らす。
『本当に、度し難い愚か者共よ』
グ……っと思いきり踏み込み、冒険者との距離を縮める巨人。
中規模の地震程の揺れがその一歩だけで発生する中、彼は弓をしならすように拳を構え、振り下ろす。
『ならば、纏めて死ぬが良い』
風を切り、雲を吹き飛ばし、隕石めいた拳が迫る。
だがその拳を先頭で眺めるハリスは、懐から一枚のカードを出し、おもむろに掲げる。
「『サモン・オーガ』、魔力装甲」
瞬く間に彼の腕へ青白い光が宿り、巨人と匹敵するサイズの腕を形作る。
驚く巨人に、ハリスは腕を前へ突き出し、彼の拳を受け止める。
力の衝突に、草原を切り裂くような突風が駆け抜ける中、ハリスは口を開く。
「まだ質問の途中だぞ」
『何……?』
「世界樹の所有権だ。ここまで凶行に出るということは、よほど正当な理由があるのだろうな?」
答えなかった質問を指摘し、柔らかな声で捲し立てる。
すると巨人は顔を顰め、鋭い犬歯を剥き出しにする。
『何も知らぬ人間め! 世界樹は我等、巨人が各地に撒いた種だ!』
怒りを見せて叫び、拳を押し出す力を強める。
だがそんな中、ハリスの背後から飛び出したレナは、巨人の顔面まで距離を詰めて身を反転させ、殴る。
『ごふっ!?』
繰り出される裏拳が、巨人の顎を強烈に捕らえる。
身をよろめかせ、山のような体躯が崩れ、膝をつく。
(な、何が起こった? 一体、あの小娘に何をされた!?)
困惑する巨人の視線の先で、スカートを揺らし橙色の瞳を伏せる少女。
彼女は腕の巨大化を解いたハリスに背を向けたまま、念話で話しかける。
(ハリス様、彼は嘘をついております)
(嘘?)
(はい。この世界樹の成り立ちに、巨人はさほど関わっておりません)
(……そうか、お前は知っているのか)
少し振り向き、頷くレナ。
戦闘態勢を構える彼女の横で、走り寄ったハリスもリベイルケインを握り、駆け出す。
対する巨人も姿勢を正し、二人を警戒し襲い掛かる。
だがそこへ、前線から下がったマスターが、メガホン越しに叫ぶ。
「魔術師部隊、攻撃開始!」
彼の号礼と共に、ローブを纏った魔術師たちが杖を頭上へ振り上げ、一斉に詠唱する。
「『アブソーブ』!」
瞬間、辺りから突き上げられた杖から、一斉に緑色の稲妻が巨人へ伸びる。
稲妻は巨人の首へ繋がると、その顔へ僅かな苦悶を浮かばせる。
シンクロにより巨人の肉体変化を理解するハリスは、その攻撃で起こる事象に確信を得る。
(微量ずつだが、魔力量が減っている。絞り尽くす事はできないだろうが、蓄積としては十分だ)
敵の魔力を吸収する魔術『アブソーブ』。
一人一人の吸収量は少ないが、数十人が一斉に発動することにより、人間基準で大量の魔力を持つ巨人にも毒のように効果を齎す。
そうして魔力を吸収し、一部の魔術師が術を解くと、他の魔術師が交代する。逆に魔力が一杯になった魔術師達には、再びマスターが号令を出す。
「エンチャント開始!」
言葉と共に、様々な武器を構えた冒険者が、前線へ走る。
彼等の通り過ぎざま、魔術師達は炎や雷など、様々なエンチャントを武器へ与えていく。
ハリスとレナを先頭に、迫り来る冒険者たちに、巨人空へ雄叫びを上げる。
『人間風情が、嘗めやがってえええええッッ!』
そして巨人は身を屈め、タックルするように走り出す。
ズンッ! ズンッ! ズンッ! 一歩踏み込むごとに、地面には小規模な地割れが生まれていく。
両腕を肩の上まで一気に広げ、冒険者を左右から叩き潰そうとする巨人。
だがその両手を、先行したレナの細腕がピタリと止める。
冒険者たちはその腕に阻まれるも、アイコンタクトをしたハリスが、先行して巨人の懐へ走っていく。
圧倒的体格差にも関わらず、レナの身体を叩き潰せない巨人。
更にそこへ、ハリスの声が彼女の内側に響く。
(レナからすれば微量かもしれないが、俺の魔力を二割ほど送った。何とか道を切り開いてくれ)
(……! 感謝します!)
レナの肉体に、ほんの少しの魔力が注がれる。
本来の彼女が許容できる魔力量からすれば、ハリスが送った量など水の一滴に等しいが、その一滴が彼女に絶大な力を与える。
与えられた魔力を応用し、軽く力むレナ
瞬間、彼女を中心に見えない圧が発せられ、地面や周囲の塵を吹き飛ばす。
当然彼女を両サイドから挟む掌も、衝撃で大きく弾かれ、塞がれていた巨人への道も解放される。
なだれ込む冒険者達に対し、巨人は姿勢を立て直し、リーチを減らそうとする。
ハリスはそれを阻止するように、リベイルケインを巨人の首へ巻き付ける。
綱引きのように鞭を引く彼に、巨人は自らもそれを握って振り上げる。
『クソ虫があああぁぁぁぁッッッ!』
リベイルケインと共に、空高く舞い上がるハリスの身体。
彼の眼下では、道を切り開いたことで巨人へ群がった戦士達が、力量差にも怯えず果敢に挑んでいく。
しかし巨人も無抵抗ではなく、彼等を踏み潰さんと大きく足を振り上げる。
――この瞬間を待っていた。言わんばかりにレナが叫ぶ。
「ハリス様、今です!」
同時にハリスはリベイルケインを手放し、カードを二枚取り出す。
「『サモン・ウルフェン』、脚力強化。『サモン・ケットシー』精密性強化」
二枚のカードが光を放ち、脚部に狼のような逆足を、頭部に猫のような耳を光が作り出す。
そして彼は、少し離れた世界樹を見つめ、叫ぶ。
「頼んだぞ、リンゴ!」
オーバーヘッド気味にリベイルケインの柄を蹴るハリス。
瞬間、硬鞭は強化された脚力により音を切り裂き、世界樹へ飛んでいく。
一条の矢のように、世界樹の巨大な枝の一本に迫る硬鞭。
枝の僅か上に逸れ、通過しかけた時、小さな腕がキャッチする。
――硬鞭を手にしたリンゴは、魔女帽を目深に被り、枝の縁ギリギリに立った。
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