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モンスターテイマー、町の危機に立ち上がる

 翌朝、酒場の二階から降りてきたハリス達は、奇妙な光景を目撃する。


 十数人近い冒険者に囲まれ、中心で腕を組むマスター。

 対面には以前レナが懲らしめた、男女一組の冒険者がいた。


 大きく身振りをして話す彼等に、マスターは尋ねる。


「その話は本当なのか?」


「ああ、嘘なんかじゃない!」


「私達は見たのよ! 北のほうから、大きな人影が来るところを!」


 必死に訴える二人だが、周囲の冒険者達は訝しむ。

 ただ一人、話を真正面で聞くマスターを除いて。


 彼はハリス達の気配に気くと、振り向いて小さく手招きする。


「いいところに来たな、ハリス」


「……どうやらそのようだ」


 ハリス達は聞こえて来た話から殆どを察し、歩み寄る。


 人々を掻き分け、円の中心に三人が立つと、男女の顔が少し引きつった。

 特にその目は、ハリスの隣に立つリンゴへと向けられる。


「アンタ、なんでこの二人と一緒にいるの?」


「ハリスさん達は、今の私の仲間です」


「フン、今度は彼等に寄生か。火力バカで役立たずのお前らしい」


 自分達からパーティを追い出したにもかかわらず、リンゴに悪態をつく男。

 しかしレナが彼を橙色の瞳を輝かせ睨むと、途端に大人しくなった。


 威嚇するレナをハリスは制しつつ、二人の冒険者に尋ねる。


「話は聞いていた。本当に巨人が迫っているのか?」


 信用している様子の彼に、二人は顔を見合わせ、詳細に語りだす。


 酒場でレナと対峙した日の翌朝、北への長期クエストを受け、しばらく町から離れていた彼等。

 数週間は何事もなく過ごしたが、昨夜になって突如、巨人は二人の前に現れた。


「そんな至近距離にいたのか? 良く生き残れたな」


「私達は二人とも『高速移動』のスキルを持っているの」


「足の速さには自信があった……だから俺は、尋ねた」


 どこへ向かうのか、何が目的か。

 男の質問に対し、巨人は雷鳴のような笑い声をあげ答えた。


『全ての世界樹は、我等巨人に所有権がある。周囲に住むお前等のような害虫は、一匹たりとも生かしはせん』


 それだけ告げて、隕石の落下に錯覚するような拳を振り下ろす巨人。

 だが二人は間一髪で攻撃から逃げ、一晩かけて町へ戻ってきた。


 二人が全てを話し終えると、先程まで冗談のように聞いていた冒険者達が、彼等の真剣な様子に騒ぎだす。


「本当に、ここに巨人が来るのか?」


「世界樹の所有権ってどういうことだよ!」


 疑問を持ち始める人々に囲まれながら、二人の言葉に確信を得るハリス達。

 レナは彼等の前に立つと、少し威圧的な声色で尋ねる。


「距離や地点など、巨人と出会った場所を説明できますか」


「あ、ああ。地図さえあれば」


 男の言葉を聞くや否や、マスターはカウンター裏から、大きな地図を取り出す。


 マスターは男に羽根ペンを渡すと、町からかなり離れた、北の高原地帯にバツ印を書き加える。

 すると今度はハリスが前に立ち、指をコンパス代わりに距離を測る。


「巨人の歩行速度を考えれば、おそらく到着は三日後だ」


「三日、ですか……!」


 ハリスの試算にリンゴは驚きつつ、覚悟を決めて息を飲む。

 昨晩彼女が一瞬話題に出したように、巨人は一国の軍事力に匹敵する力とも言われる、トップクラスの危険存在である。


 突如もたらされる事態に戸惑う冒険者達だが、ハリス達とマスターだけは、もう動揺していなかった。


「マスター、もし装備屋に必要なものが無いとしたら、何日で取り寄せられる?」


「町から西に一時間ほど歩いた場所に、長距離列車の駅がある。食料も武器も、それで一晩かけて運ばれてくる」


「次の出発は?」


「……もうすぐだ」


 察したマスターがハリスに告げる。

 タイムリミットを聞いた彼は、近くにあった無地のクエスト用紙を取ると、羽根ペンを取ってメモを書く。


 冒険者たちが鬼気迫るハリスを見守っていると、彼は顔を上げて尋ねる。


「万全の装備を整えるにあたって、何か欲しいものは無いか?」


 迫真の声に、冒険者達の困惑も少しずつ収まっていく。

 やっと状況を飲み込んだ彼等は、一様に悩みを断ち切って声を上げる。


「魔術用の長杖に、新しいローブを頼む!」


「特大サイズの鎧をくれ! 鎖帷子もだ!」


「私は今のままでいい、他の奴等も連れてくる!」


 店を飛び出した女性冒険者が、酒場にいなかった町の同業者を呼び出すと、彼等も話を知って注文を始める。


 一気に頼もしさを増し、勇猛に注文を投げかける冒険者達。

 書き終えたメモを束ねたハリスは、巨人を見た冒険者達に、握った注文を押し付ける。


「足の速さが自慢だと言ったな?」


 ハリスの一言で、その後の言葉を察する二人。

 彼から視線を横にずらせば、そこには自分達が「経験値不足」として追放したリンゴが、以前より凛々しい表情で立っている。


 切り捨てた彼女の前で、彼女の仲間の頼みを聞くという行為に二人は屈辱を覚え、話を逸らそうと叫ぶ。


「あんな怪物と戦うなんて、馬鹿げてる!」


「そーよ! 早く逃げましょう!?」


 必死に声を荒げる二人だが、冒険者達は一切反応を示さない。

 それどころか逆に、憐れむような視線を向ける彼等に、狼狽する男女。


 するとハリスの隣に立っていたリンゴは、魔女帽を深く被り前に出て、帽子の隙間から睨むように二人を見上げる。


「町を捨てて逃げるなんて〝私たち冒険者〟の選択肢には無いのですよ」


「お、お前……っ!」


 半人前であるはずのリンゴに、暗に冒険者失格と言われ、息を荒くする男。

 隣で女もしかめ面をしていたが、周囲のアウェーな雰囲気に、彼の肩を叩いて制止する。


 男もそれに気づき唇を噛むと、ハリスからメモを奪い取る。


「駅まで行けばいいんだろ……っ!」


「その通り。そこにいる商人にメモを渡せば、明日には買い付けてくるはずだ」


 補足説明するマスターに、彼等は眉間に皺を寄せる。

 やがて男が低く舌打ちすると、一瞬にして酒場から二人は消えた。


 勢いよく開き、静かに閉まっていく酒場のドアを見る冒険者達に、マスターは咳をして注目を集める。


「何も言わずに協力してくれてありがとう。報酬は俺が責任をもって、しっかり研究者共から集めてみせよう」


 冗談めかした言葉に、ハリス達を含む冒険者一同は、良い笑顔で返した。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


この作品を「面白い!」「もっと続きを読みたい!」と少しでも感じましたら、

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執筆の励みになりますので、何卒よろしくお願いいたします。

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