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劣悪パーティの魔法使い、酷すぎる環境に愚痴を吐く

 ――世界樹の激闘から二週間近く経った頃。

 ハリスの勤めていた元パーティは、枯れ木の目立つ亜寒帯の平原で、頭部に一角を持つ兎型モンスター・アルミラージュの群れと対峙していた。


 体格が小さく素早く動き回るアルミラージュは、バスターソードを持つ大男の攻撃を全て避け、髭の男のナイフをかわし、リーダーのロングソードに一切掠ることなく無傷を保つ。


「クソッ! 何で当たらねーんだよッ!」


 愚痴をこぼすリーダーだが、そこに髭男が言葉を重ねる。


「攻撃、来るぞ!」


 次の瞬間、アルミラージュは一斉に襲い掛かる。


 小柄な体格に対し、素早く重い攻撃は、彼等の鎧を易々と凹ませていく。

 男達はは可能な限りかわすも、物量に押される。


 一方的にボコボコにされ始める男達……その背後から、モノの声がこだまする。


「下がって!」


 モノのオーダーに、男達は必死な顔で後ろへ飛ぶ。

 彼女は自分の身長と同じ大きさの杖を振り上げ、アルミラージュ達に掲げる。


「『マグネティック・コート』!」


 詠唱と同時に、霧のような弾が放たれ、兎の群れをたちまち飲み込む。

 しかし彼等にダメージが入った様子はなく、攻撃を再開する兎たち。


 迫り来るアルミラージュに、モノは杖を地面に撃ちつける。


「『マグネティック・フィールド・アンチ』!」


 するとパーティメンバーを囲むように、半透明な黒色のドーム状バリアが出現する。

 アルミラージュはバリアに次々飛び込むも、彼等は冒険者達に辿り着く前に、磁石の反発のように弾かれていく。


 得意の磁力魔術を使うモノに、地面に転がる兎たち。

 リーダー達の後ろから様子を見た彼女は、手を突き出して握り込む。


「『マグネティック・クラスター』!」


 彼女の動きに合わせ、アルミラージュは宙へ浮き、抵抗する暇もなく一塊に集められる。


 特殊な磁界に操られる彼等は、互いに引き寄せ合い、身動きができない。

 一塊になった兎たちに、モノは眉間へ皺を寄せ、握り込んだ拳の親指を下に向けて詠唱する。


「……『インフェルノ』」


 直後、アルミラージュの塊は赤白せきはくの業火に包まれる。

 ゴウッッ! と盛大な音を立てて噴き上がる炎に、消し炭になる兎たち。


 炎はモノが手を下ろすと同時に消え、彼等は跡形もない。

 アルミラージュの群れを葬った彼女は、疲れた表情で手を合わせ、彼等へ祈りを捧げる。


 戦いを終え、リーダー達は地面へ腰を下ろすと、やり切った顔で口を開く。


「ふぅ……何とか片付いた」


「チッ、どうしてこんな急に苦戦するようになった?」


「仕方ねぇよ、モンスターが強くなってんだから」


 自分達の実力も理解せず、口々に勝手な事を言い合う三人。

 彼等の背後でモノは、冷ややかな目で見下しながら、内心愚痴を吐く。


(なんでコイツ等、こんな自己肯定力高いの?)


 三人合わせて初心者のタンク以下程度しか活躍していない彼等に、ジト目になるモノ。


 一応モンスターは強くなっているが、普通に立ち回れば苦戦こそしても劣勢にはならず、ましてやモノレベルまでいけば、一方的な戦いになる程度の相手である。


 そんな敵に防戦を強いられる彼等を、別の珍しい生き物のように観察するモノ。

 彼女に振り向いたリーダーは、笑顔で手招きする。


「モノちゃん、回復させて」


「……『ヒール』」


 言われるがまま、三人の体力と鎧の傷を治す。

 ダメージや疲労が取れたリーダー達は、すくりと立ち上がる。


「今回もナイスサポートだった」


「ありがと(倒したの私なんだけどね)」


 感謝の裏で本音を噛みしめ、頭を下げるモノ。

 だが彼女が姿勢を直すと、三人の背後遠くに見える巨大な影に気付き、顔を引きつらせる。


「ヤバい、隠れてっ!」


「あ? どうしたんだよモノちゃ……」


「いいから隠れろっつってんのッ!」


 ヘラヘラしたリーダー含む三人に、モノは顔色を青ざめさせ、彼等を押して近くの岩盤に隠れる。

 息を殺し存在感を消すモノ。だが彼女に、大男が尋ねる。


「なんで隠れる必要が――」


「黙って!」


 言葉の勢いに乗せて大男の口を塞ぐ。

 次の瞬間、遠くから大きな地響きが、遠くから近づいてくる。


 ズン……ズン……! 重々しい音を立て、地面を鳴らす巨大な人影。

 隠れている岩場の横を通り過ぎる、普通の人間の数十倍近くあるそれを見て、リーダーは殺した声を漏らす。


(巨人だ……初めて見た……)


 幸い巨人は彼の声に気付かず、肩を大きく揺らしながら、大きく一歩を踏みしめて進んでいく。

 四人はその圧倒的な姿に、唖然とする事しかできなかった。


 その後、巨人が見えなくなるのを確認し、四人は岩場の影から飛び出す。


「あの方向、ハリスを置いて来た町のある場所だよな?」


 リーダーの言葉に、モノはふと顔を上げる。


 コートの襟の内側で、不安を表情に浮かべる彼女。

 だが三人は、彼女のことなど気にも留めず、その事実を鼻で笑って話しだす。


「助けに行くか?」


「いやまさか。アイツには悪いが、ベリーみたいに潰れてもらおう」


「ハハハ、そりゃいいや」


 下衆な物言いに、モノは遂に怒りを覚え、コートの中で口を開く。

 ……しかし、大金を必要とする自分の目的を思い出し、立場を弁えて悔しそうに言葉を殺した。


 そんな彼女に、巨人とは逆方向に歩き出したリーダーが告げる。


「行こうモノちゃん、次の町に着いたら今月の報酬あげるからね」


「…………今行く」


 リーダーの気色悪い声を聞き、モノは顔を歪めてパーティに続く。

 彼女は懐から、目標金額と貯金額の記されたメモを取り出し、眺める。


(今回と、その次の報酬で集まる……)


 確かめて顔を上げた彼女は、歩きながら心の中で宣言する。


(辞めよう、こんなパーティ)


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


この作品を「面白い!」「もっと続きを読みたい!」と少しでも感じましたら、

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執筆の励みになりますので、何卒よろしくお願いいたします。

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