表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/60

モンスターテイマー、魔法少女をデレさせる

 激戦を終えた三人は、弾け飛んだヨルムンガンドの中から、鎧の残骸等の更なる証拠を回収する。

 その頃には日も登りきり、樹上からは遥か遠くまで見渡せる絶景が広がる。


 戦闘の疲れもあり、景色に瞳を煌めかせるリンゴ。

 すると彼女の背後から、ハリスとレナが彼女を労いに歩み寄る。


「お疲れ様、よくやったな」


「……ありがとうございます」


 褒められたリンゴは、それよりも自分の未熟な行いを恥じたのか、帽子を目深に被って返事をする。


 だがそんな彼女を、ハリスは帽子の上から再び撫でる。

 温かく大きく思える彼の手に、満更でもない表情で頬を染めるリンゴ。


 ハリスは彼女を撫でながら、真剣な顔でレナと話す。


「元凶らしき存在は倒したが、昨日リンゴが倒した蛇はアレの子供だと思われる。まだまだ潜んでいるかもしれない」


「それが正しければ、帰路も油断はできませんね」


 同じ懸念を抱き、考え込む二人。

 数秒思考を巡らせたハリスは、ふとリンゴに尋ねる。


「魔術学園では飛行魔術は基礎として教えるらしいが、それで戻れないか?」


「それが……私、飛行魔術が大の苦手で……」


 申し訳なさそうに呟き、再び表情を陰らせるリンゴ。

 そんな彼女に、ハリスは呆れたような優しい笑みを浮かべると、撫でる手を少し乱雑にしてみせる。


「つ、強いです! 撫でるならもう少し優しく!」


「ああ、すまんすまん」


 少し鬱陶しそうなリンゴの声に、軽快な声で謝るハリス。

 彼は撫でる手を穏やかに、ムスッとした表情の彼女へ告げる。


「苦手な事なんて誰にでもある。それにリンゴには、代わりに物凄い威力の光魔術があるじゃないか」


 ハリスが伝え終えると、リンゴは不満げな表情を解き、口元に小さな笑みを称え「はい」と素直に答える。

 威勢のいい彼女の声に、ハリスは満足な顔をして、二人に告げる。


「歩いて帰るしかないな、危険な道中になるかもしれない。気を引き締めてくれ」


「かしこまりました」


「はいっ!」


 二人が返事をすると、ハリスが先頭に立ち、帰路に就いた。


 *


 数時間後。朝から歩き続けた彼等は、夕方には無事に酒場へ戻ってきた。

 帰還したハリスが、マスターに樹上で得た証拠を提示すると、彼は目の前の残骸に悲しげな表情を浮かべる。


「よくやってくれた。残る大蛇の掃討は他の冒険者にも手伝ってもらえるよう、掲示板にも載せておく」


 労いの言葉を語りつつ、鉄塊を見つめるマスター。

 しかしハリスの瞳は、未だ鋭いままだった。


「蛇だけが残された課題ではない」


「……それはどういう事かね?」


 彼が尋ねると、ハリスの左右に立つ仲間も首を傾げる。

 ハリスはマスターに紙と羽ペンを借り、ヨルムンガンドの精巧な絵を書くと、それをトントンと差しながら告げる。


「ヨルムンガンドは本来野生に存在しない。巨人族が様々な大蛇系モンスターを交配させて誕生した、ペットのようなものだ」


「……そうなのか?」


 明かされた情報に、一つの知識として驚くマスター。


 巨人族とは世界にその名の通り、通常の人間よりも遥かに大きな肉体を持つ、人間とモンスターの中間のような種族である。

 生存数は数体と少ないが、彼等のパワーは一個体で小国を蹂躙できるほど。


 それを踏まえ、何故ヨルムンガンドのみが世界樹にいたのか、深まる謎にハリスは尋ねる。


「この辺りに巨人の目撃情報は?」


「ここ数年は一切無い。野生化した個体という可能性は」


「聞いたことが無いな……恐らく記録も存在しない」


 互いに質問を投げ合う二人だが、答えに近づけるようなものはない。

 窓から差す夕日が強くなる中、リンゴは突然呟く。


「……蛇は巨人がここに来る前の、偵察役だったりしませんかね」


 不穏な言葉に、三人は一斉にリンゴを見る。

 視線に気まずくなった彼女は、帽子を目深に被り、顔をそっぽに向けた。


 だがマスターとハリスは、世界樹を中心に起こる数々の異変を踏まえ、リンゴの言葉を胸にしまう。


 そうして意見交換を終え、ハリス達に報酬を手渡すマスター。

 気分転換に背伸びした彼は、表情を崩してハリスに告げる。


「何より今日はありがとう。ゆっくり体を休めてくれ……メイド服の替えを買うなりしてね」


 ちらりとレナを見た彼は、そう言って酒場の準備を開始する。

 ヨルムンガンド戦で裂けた胸元から、今にも零れそうになるたわわを、マスターの指摘で隠すレナ。


 少し羞恥して顔を赤らめる彼女に、ハリスは気まずそうに口を開く。


「……戻ってくる前に、買っておいたほうが良かったかもな」


 ハリスの言葉にレナは頷き、揃って酒場を出ようとする。

 日が沈む中、閉まる前に装備屋へ向かおうとする彼等だが、そこに背後からリンゴの声が響く。


「あのっ!」


 場の扉から差す夕日を背に、リンゴへ振り返る二人。

 対する彼女は顔を上げて胸を張り、強気な視線で彼等を瞳に焼き付ける。


「今回はありがとうございました! 私なんかの力で良ければ、また冒険に同行させてくださいっ!」


 深々と頭を下げ、大きな帽子を地面に落としながら、感謝を告げるリンゴ。

 たった一日で成長した彼女は、別れの涙を堪え、礼を続ける。


 そんな彼女の様子に、ハリス達は顔を見合わせ、微笑む。

 するとハリスは引き返し、リンゴの帽子を拾い上げると、彼女に被せて尋ねる。


「リンゴはいつ、学園に戻る予定だ?」


 予想だにしない質問に、頭を上げるリンゴ。

 夕陽で影になる二人を眺め、少し瞼を腫らした彼女は答える。


「何ヶ月か後の予定、ですけど」


「そうか……なら」


 考える素振りを見せたハリスは、彼女の肩に手を置いて告げる。


「今回のクエストだけと言わず、戻るまでパーティを継続しないか?」


「……いいの、ですか?」


 戸惑いながら後ずさりし、ハリスに疑問を投げかけるリンゴ。

 彼は震える少女の肩に、落ち着けるよう促しながら、彼女の不安に答える。


「実力なら十分だ。ヨルムンガンドとの戦いは、リンゴがいたからすぐに決着をつけられた。まだまだ伸び代もありそうだしな」


 力を認められ、褒められたリンゴは、口元を緩めて目を逸らす。

 更にハリスは、追撃とばかりに言葉を重ねる。


「俺達に、力を貸してくれないか?」


 心をくすぐる問いかけに、少し顔を伏せるリンゴ。

 次の瞬間、彼女は小さく笑いだし、ハリスの顔を見上げた。


 そして彼女は、とてもうれしそうな表情で、彼に答える。


「しょうがないですね。そこまで言うなら、お手伝いしてあげます」


 素直ではない言葉で返答し、リンゴはにっこりと笑う。

 ハリスはそれに微笑み返すと、彼女と共に入り口で待つレナの服を買うため、酒場の外へ歩きだした。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


この作品を「面白い!」「もっと続きを読みたい!」と少しでも感じましたら、

広告下の☆☆☆☆☆評価、ブックマークをしていただけますと幸いです。


執筆の励みになりますので、何卒よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ