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モンスターテイマー、自由に生きると決意する

「ハリス、もうお前に払う金はない。クビだ」


 人々が行き交う広い街道で、所属するパーティのリーダーが告げる言葉に、モンスターテイマーのハリスは溜め息を吐く。


「話が読めないのだが」


 彼の視線の先にいるのは、リーダーを含む三人の男。

 パーティメンバーの三人はハリスの言葉をひとしきり嗤うと、背中にバスターソードを携えた一人が前に出る。


「お前はいい保険になった。絶対に負けない・・・・・・・ってのは、今まで役に立ったからな」


「でも保険ってのは、必要無くなったら切るモンだろ?」


 乗っかるようにして話すもう一人の仲間が、こけた頬の無精ひげを撫でる。

 三人の下卑た笑みを瞳に映し、腕を組んで考え込むハリス。


 それでも彼等の身を案じる様子のハリスは、顔を上げて尋ねる。


「ここから先の道中は、どんなモンスターがいるかわからないぞ? 俺を抜いて四人・・のメンバーがいるとして、お前達だけで対応しきれるのか?」


「何だ? 今更アピールか?」


「決まったことなんだよ、もうおせえ」


 忠告を鼻で笑い、口々にハリスを貶すリーダー達。

 その対応で情も完全に冷め切ったのか、ハリスは悟った表情で、リーダーに向かって告げる。


「そうか、ならせめて手切れ金をくれ。ここの薄給じゃ今晩の宿も取れない」


 ハリスの言葉に、リーダーが無精髭の男へ顎で指示を出す。

 彼は懐から小さな巾着を出すと、無造作に投げつける。


 金属音の鳴る巾着をハリスは胸で受け止めると、三人は彼の横を通り過ぎ、去っていく。

 巾着から顔を覗かす硬貨は、数枚の銅貨のみだった。


「……結局、宿はとれないな」


 独り言を零し、周囲を見るハリス。

 背の低い建物が立ち並ぶ町に、冒険者や商人たちが行き交う中、彼の視界に町の酒場が止まる。


 数日町に滞在した彼は、酒場が町で唯一のギルド機能を持つ施設だと知っていた。


 ハリスが入店すると薄暗い店内に客はおらず、代わりに数名の冒険者が、小さな掲示板を眺めている。

 カウンターではマスターの男と一人の少女が、何やら話し合っている。


「そうか……キミ程の熟達者なら、このクエストを受けられると思ったんだが」


「ごめんなさい。パーティが急に今日出発することになって」


 灰色のロングコートを纏い、黒いツインテールを揺らす少女が、クエストの書かれた紙をマスターに渡す。

 するとハリスは彼女の隣に歩み寄り、視線を合わせず口を開く。


「モノ、こんなところで何をしている?」


「あ……ハリス」


 突然の呼びかけに動じず、モノと呼ばれた少女は答える。

 会話を始める二人に、怪訝な顔をするマスターの手元へハリスは視線を落とすと、握られたクエスト用紙を見て気付く。


「まだ金がいるのか」


「目標額に届いてないからね。私もあんなパーティ抜けたいけど」


「お前はしっかりした額を貰っているだろう、アイツ等のお気に入りだからな」


 ハリスの口調は優しく、余裕のある声で語る。

 彼女こそがパーティの四人目のメンバー、役職は魔法使いである。


 モノは口元まで隠すコートに顔を埋めると、軽口から一転、重い声色で語りだす。


「……今朝早くに、多数決で決まったの」


「本人抜きで、か」


「うん。せめてハリスの意見を聞こうって言ったんだけどさ」


 彼女は「ごめん」と言葉を締め、コートの袖を握る。


「擁護してくれただけでも有難い。反発してお前もクビにされたら、稼ぎはどうするつもりだったんだ?」


「クビにはならないよ。ハリスの言うとおり、アイツ等のお気に入りだから」


 モノはそう言ってニッと笑い、ギザギザの歯をコートの襟から覗かせる。

 いっぽう二人を見るマスターは、彼等の話から何があったのかを薄々察し、モノに尋ねる。


「この男はキミの知り合いか?」


「うん。モンスターテイマーって珍しい役職だけど、結構腕は立って……」


 言いかけてハッとした彼女は、ハリスに顔を向け目を輝かす。


「ハリス、私の代わりにこのクエスト受けない?」


「お前、金が必要じゃないのか?」


「私はアイツ等追っかけなきゃいけないし、どっちにしろ目標金額までは貯まらないから」


 モノの言葉からマスターも気付き、クエストをハリスに手渡す。

 彼はそれを受け取ると、改めて内容を確認した。


 クエスト内容は『世界樹地下の探索』。

 世界樹とはその名の通り、世界各地に点在する巨大な木で、この小さな町も元は、世界樹の研究者や観光客の為に作られた町である。


 そんな世界樹の根元に、数日前に突如として、内部に続く入り口のような穴が現れた。

 内部の危険度は未知数であるため、なるべく強力な冒険者を求められていた。


 その条件を踏まえて、モノは親指でハリスを差し、マスターに尋ねる。


「ちょうど今朝フリーになって所持金も少ないし、何より私より強いけど?」


「キミ程の魔法使いがそこまで言うなら……」


「だってさ。ハリスはどう?」


 マスターからの正式な許可を取り、ハリスを見上げるモノ。

 彼女の問いに、ハリスは一瞬考えると、口元を緩めて頷きながら告げる。


「……わかった、引き継ごう」


 そう言ってハリスはマスターから羽根ペンを借り、クエスト用紙に署名する。

 紙をマスターが受け取り、それを受理すると、ハリスはモノへ向き直る。


「借りができてしまったな」


「アンタの追放を止められなかった罪滅ぼしだと思ってよ」


 口元を隠したまま笑ったモノは、そう言って身を翻すと、ハリスの手に一方的にタッチし、朗らかに語る。


「折角なんだから自由に生きなよ、私やアイツ等の知らない世界で」


 後腐れなく別れを告げたモノは、そのままパーティを追って酒場を後にする。

 ハリスは彼女に触れられた手を握ると、清々しく微笑む。


「ああ、自由にやらせてもらおう」


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


この作品を「面白い!」「もっと続きを読みたい!」と少しでも感じましたら、

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執筆の励みになりますので、何卒よろしくお願いいたします。


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