映画を観る
ピコッ
『ちょっと映画付き合え』
家でゴロゴロしていたら、ひらりんからレインがきた。
『やです』
とりあえず御断りしたら、すぐに返信が来た。
美味しそうなハンバーガーのチラシの画像だった。
『いつです?』
速攻返した。
『なるはや』
ふーむ。
『じゃあ、1時間後に』
『おけ』
そうとなれば準備だ。
飲み物は持参しよう。
何度か行ったので、ひらりんの家にあるのは水とペットボトルのお茶と炭酸ぐらいだとわかっている。キッチンに行って、粒の麦茶を沸かし始めた。炭酸はそもそも好きじゃないしペットボトルのお茶よりこっちの方が私は好きだ。
次に洗濯物を洗濯機に放り込む。全自動だと濡れたまま放置にならないのがいい。皿を棚にしまって部屋をざっくり片付けた。
よし、これで今日やらなきゃならないことは終わった。
程よく冷めた麦茶をポットに入れ、乾燥トウモロコシとグレイシーソルトをバッグに放り込んで部屋を出た。
ピンポーン
ガチャ
「おう、上がれ」
部屋に入ったら早速メニューを差し出されたので、食べたいのを選んだ。
海老アボカドとかテンションあがるー!
ひらりんには邪道だとか言われたけど、今日はこれの気分だからいいのだ!
ひらりんはスパイシーソースの肉厚ダブルバーガーを頼んでた。隙を見て一口もらおう。サイドも何品か頼んだし楽しみだなー!!
ウキウキしながらテレビのあるリビングに入ったところで、今日見る映画が発表された。
ヘッドセメタリー
「ちょ!ひらりん!ホラー映画とか聞いてませんよ!?」
ホラー映画ははっきり言って好きじゃない。
「でも来たじゃないか」
「帰ります!もう帰ります!」
急いで玄関に向かおうとする背中に悪魔が囁いた。
「あーあ、あと30分もすればハンバーガーが届くのになぁ」
「くっ!食べ物を盾に取るなんて卑怯ですよ、ひらりん!」
振り返ってひらりんを睨む。
「俺だって一人で見たくなんかねぇんだよ!付き合え!」
えー、なんですかそれ。
「じゃあ見なければいいのに」
「そうはいかない。番組の企画で最近見たホラー映画ってのがある」
わー、芸能人も大変。
ってちょっと同情したのが運の尽きだった。
「今かわいそうって思ったよな?かわいそうな人には優しくしてくれるんだろ?ん?」
なんかムカつく煽り顔をするひらりん。
殴りたい、この笑顔。
「くっ!卑怯者めー!」
でもじいちゃんの言いつけはなるべく守りたい。
「なんとでも言うがいい!こんな怖そうなの一人で見るのはゴメンだ!」
……胸張って言うことじゃないですよ。ちょっと怒りが削がれちゃったじゃないですか。
「はーーーーーーー」
呆れてでっかいため息が出た。
「仕方ないですねー」
あきらめて見ますかー。
「お、付き合ってくれるか?」
「付き合いましょう。これも注文済みの海老アボカドタルタルMAXバーガー(期間限定バージョン)とデス辛ポテトサラダのためです」
「そこは俺のためじゃないんだ」
「ひらりんなんて夜中に目が覚めたけど怖くてトイレに行けなくて、でももう一度眠れもしなくてガタガタ震えながら朝を迎えればいいんです」
「ヤケに具体的に呪うのやめろ」
そんな気軽な言いあいをしながら、ひらりんが再生ボタンを押した。
映画が終わった。
スタッフロールが流れ終わっても、しばらく動けなかった。
ホラーは好きじゃないけどそこまで怖がりでもないから大丈夫、そんな風に思ってた時が私にもありました。でも。
鳥肌がすごい。
背筋がめちゃくちゃゾクゾクする。
後ろを振り返るのが怖い。
拳を握りしめた。
…これは、断固抗議だ。
「なっんでっ!よりにもよってこんな怖いの選ぶんですかー!」
「うっるせえ!ここまで怖いって知ってたら他のにしたわ!」
叫び返してきたひらりんは涙目で顔面蒼白だった。
その夜は、ひらりんと朝までめちゃめちゃレインした。
ブルーライトが目に染みた。