遭遇2回目
三週間後
夕暮れ、自分のマンションに着きエレベーターに乗りこむ。
やれやれとため息を吐いていると、閉まりかけていたドアが再び開いた。誰かがボタンを押したのだろう。
……一台くらい待てばいいのに。
こっそりもう一度ため息を吐いていると、乗り込んできた男の人が声をあげた。
「あ!おまえ!」
「どちら様です?」
顔を上げて見ると、その人はマスクにメガネに帽子っていう完全に顔を隠した不審者だった。当然私はできるだけ距離を取る。
でも不審者は変なことを言い出した。
「ストーカーか!!!」
「……は???」
最近は不審者側が相手を不審者呼ばわりするのが流行ってるんだろうか?そんなニュース聞いたことないけど。ああでも頭がおかしいから不審者なのか。やだなー早く着かないかなー。でも不審者に住んでる階知られるのもやだなー。別の階で一旦降りようかなー。
なんて考えてたら
「無視してんじゃねえよ!」
不審者がキレた。でも迫力がないので危機感が湧かない。
「だからどちら様です?」
「…惚けてんじゃねえよ。わざわざ俺と同じマンションに引っ越してきたんだろ?」
何の話だ。
「よくわかりませんが、私一年以上ここに住んでますけど」
「は!?デリバリー女程度がこんな高級マンションにホイホイ住めるわけがねえだろ!」
デリバリー女……うーん、仕事でこのマンションに来たのは…………ああ、この前のひらりんかな?
「ひらりんです?」
「やっぱり分かってんじゃねえか!」
私の返事に勢いづく不審者もといひらりん。
「いえ、分かる訳ないですよ。その不審者スタイルで誰か当てろだなんて、イントロ当てよりよっぽど難しいですよ?」
「む、そうか…」
でも言い返したらマスクを手で押さえて頷いた。
その時ちょうど自分の階に着いたのでサクッと降りる。そしたら何故かひらりんも一緒についてきた。ええ……
「……警察呼んでいいです?」
胡乱な目で警戒する。
「なんでだよ!」
「ひらりんの階、ここじゃないですよね?」
何階かは忘れたけど、同じ階じゃなかったことは確かだ。これは警察案件だ。
「ふん、じゃあ俺が何階か言ってみろ」
「そんなもの覚えてるわけないじゃないですか」
「なっ!?」
偉そうな不審者を切って捨てたら、なんかよろめいた。なんだこの人。
「余計なことにメモリーは割かない主義なんで」
まともな知り合いでもない人が何階に住んでるかなんて、心底どうでもいい。それよりも
「そろそろ本気で気持ち悪いんで、自分の部屋に帰ってほしいんですけど」
「気持ち…悪い…」
何故かショックを受けている。けど顔面隠した格好で人をストーカー呼ばわりした挙句部屋まで付いてこようとする人を他にどう言えと言うのか。
早いとこ立ち去りたいけど、思ったより変な人だから部屋まで知られたくないので私もその場を離れられない。とりあえず、エレベーターの上下のボタンを両方押した。どっちでもいいから早く来た方に押し込もう。
「で、なんでこんなとこに住める金がある」
あ、ちょっと復活した。
めんどくさいなー。
「兄が転勤でその間住んでるんですよ」
「あー、そういう」
納得したみたいだ。よし。エレベーターもちょうど来た。
「じゃあまあ、そういうことで」
何がそういうことなのかわからないけど開いたエレベーターの扉を指差すと、ひらりんは素直に乗り込んだ。よかった。同じマンションとはいえ、今後そうそう会うことはないだろう。
ホッとしながら、エレベーターの位置表示ランプが上へと移動していくのを見送った。