70) 教官殿、俺は薬師か治療師になりたいんですって
三人の元教官たちは、晴れ晴れとした表情で失礼しますと退出していった。
え、あの、ファサード教官殿は置いていっちゃうの?
用件が済んだのならば、忘れずに連れて帰ってくれませんかね?
「いえいえっ、まだ要件は残っております故っ……」
困り顔で居残りの彼が言う。
えぇ?
そうなの??
コホンと軽く咳払いしたあとに、教官殿が俺に問う。
「末若様は、将来的には騎士を希望されるのですかなっ?」
「えっ!? おれが、騎士ですか? ないない、それはないですよ。教官殿、おれは薬師か治療師になりたいんです。育ててくれたひとが腕利きの治療師だったらしくて憧れがあるんです。それに薬師さんに手ほどきをうける幸運にもめぐまれたので。思いがけず貴族子息だったことが明らかになったので、こうして辺境伯爵家の慣例に従って騎士団で稽古をつけてもらいたかっただけですから」
本音を言うと、できれば怖い思いや苦難の道は避けたいんだよ。
四人の兄上たちも騎士団に入っている人は居ないみたいだし、俺もそっちの道は考えていなかった。
それでも貴族として騎士のことを理解しておく必要がある。
要するに俺にとっても、教育の一環としての訓練なのだ。
思いっきり否定してしまったからか、ファサード教官殿はガックリと肩を落とした。
「そうでしたか。せっかくの才能だと思うのですがっ。うぅむ、非常に残念でありますねっ」
言葉どおりに、とっても残念そうだけど……自分の将来はそっち方面じゃない。
「ええと、……なんか、ご期待に添えなくてごめんなさい?」
思わず謝ってしまったよ。
ファサード教官殿の要件は、辺境騎士団への勧誘だったらしい。
ありがたいけれど丁重にお断りさせていただいて、それから他の候補生たちの話になった。
「あの訓練場は、ちょうど正規団員採用試験の直後に末若様をお迎えしたかたちになったので……例の残り滓どもと、年少の者たちしか在籍していなかったんですよっ。あえて一人だけ残留してもらった監督役のルドルフは特例で正規団員入りが決まりましたし、他の年少の者たちも次の入団試験で合格とする予定なのですっ」
ん、ルドルフって誰?
もしかして顎割れ先輩かと聞いてみたら正解だった。
そうです、あの日に審判役を買って出た者ですねっ……って言っていたよ。
「それと、ペルタにも話を持っていったのですがねっ」
「おお。ペルタならば真面目だし、良い騎士になりそうです」
「いや、それが、彼も辞退をすると申しておりましてっ」
「えっ、そんな……なぜです? あんなに一生懸命に訓練を積んでいたのに」
意外な話だった。ペルタは、たしかに騎士を目指して頑張っていたはずなのに。
「そうなんですよねっ。わたしも彼ならば二つ返事で入団を希望してくれると確信していたのですが、聞けば領主邸の採用試験を受けたいと言い出しまして。ええ、……非常に残念に思っておりますっ」
へぇ。うちの採用試験をねぇ……ペルタの心境にいったい何があったのだろうか。
これは、あとで本人に直接しっかり確認しておかねばだ。
それから、例の残り滓ども……険悪野郎と愉快な仲間たちの話になった。
「領都では名の通った大商会の一人息子なもので、奴は我が物顔でやりたい放題やらかしていましたからっ。まぁ、反感もそれなりに溜まっていたのでしょうねえ。舎弟たちのほとんどが怪我が治ったら真面目に家業を継ぐことにしたようで、奴から離れていったみたいですよっ」
騎士団としてもやる気のなかった者たちまで面倒を見る気はないので、収まるように収まって良かったと教官殿がため息をつく。
「そうすると、あの険悪ムード先輩は……今後どうなるんですか?」
誰からも見放されたらしい派閥の主だった奴が、また何か騒ぎを起こさないとも限らないので少しばかり心配になった。
「さぁ、どうでしょうね。おそらくは実家で過ごすのではないでしょうかねっ」
ただし……と、ファサード教官殿が続ける。
「アイツの実家は辺境産の商品を各地の貴族向けに卸しているのですが、どうやら雲行きが怪しくなっているようですねっ。今回の件では正面切って貴方様と母君様の両方を貶める発言をしましたし、そのことが何故か領都どころか各地方まで広まってしまったみたいでしてっ。たとえ辺境に嫁いだ後妻様とはいえ、王女殿下とご子息様を敵に回したことになりますから……今後の商売は碌なことにならないんじゃないでしょうかねっ。イケズール商会といえば辺境で有名でしたが、今後は取引を差し控える商人や貴族家が続出しそうですなっ」
フフフッと、ニヒルな笑顔で説明をしてくれたのだ。
ぽそりと、いい気味ですねっとか言ってるのが聞こえちゃった。
うわぁ。この人やっぱり、けっこう腹黒いかも知れないよ。
皆さま、ここまで読んでいただき誠にありがとうございます(//∇//)♪
週末に書き貯め文書を放流いたしましたが、ここまでで品切れと相成りましてございます(^^ゞ
ここからまたコツコツ生産に勤しみたいと思います。
作者の都合により次までの間の期間があいてしまうかもですが、カタツムリ走行で進行予定ございますので……今後とも、どうぞよろしくお願いいたします(_ _)




