65) 勝負あり!? ……ありっ??
ひたすら防戦一方だったはずなのに、奴の身にいったい何があったのか。
みるみるうちに、険悪野郎の動きが鈍くなったのだ。
「……ゼェ、ゼェ、ハァハァ……、こぉぞぉうぅ……いい加減にっ、降参しろぉぅぅ……ゼェゼェ……」
背中を屈め、それでも上目遣いにギロリとこちらを睨む。
「え? 嫌だよ。まだまだ、これからじゃん?」
こっちはもっと激しい攻撃だって跳ね返してみせると意気込んでいたというのに。
もしかして、もう疲れたとか言うのだろうか。
まさかねぇ、……俺たちよりも何年も多く訓練場に通っていたのだから、こんなもんじゃないはずだよね。
「ひょっとして、もう疲れたとか? いや、そんなはずはないよねぇ……最年長の古株だものさ、もっと色々と攻撃の手段があるんだよね? まさか、終わりにしないよね?」
「ゼェゼェ……う、……うる、せえ。……ハァハァ、……まだまだ、だっ。……な、めんな、よっ……クソ、がぁっ…………」
悪態から始まる三度目の連打。
だが、芳しくはなさそうだ。
どうやら初っ端の威勢は何処かへいってしまったようである。
そして今度は、無闇矢鱈に木剣を振り回すことにしたらしい。
型もへったくれもなく、繰り出されるヘロヘロな剣先。
カカン、カカカ……カツンカツン……カカカカカカ ───────
傍から見れば、未だに俺がけっこうな攻撃をくらっているかのよう、なのだろうな。
しかしながら、実際に受けた木剣の重みは軽くなる一方で。
ううむ。ちょっと前のめりに、突進してもイケそうか?
こう、弾き返しながら詰め寄ってみるのはどうだろう。
カカン、カカカ……カツンカツン……カカカカカカ ───────
木剣を弾きながらズンズンと歩を進める。
カツンカツン……カカカカカカ ───────
ズンズン。
カツンカツン……カカカカカカ ───────
ズンズン。
カツンカツン……カカカカカカ ───────
ああ焦れったいっ、全力で思いきり弾き返してやれっ。
ズイッ。……えいやっ。
─────カッツーーーーン!!
…………カランカラン。
「そこまでっ! 勝負ありっ!!!」
気がつけば訓練場内に、顎割れ先輩の大声が響いたのだった。
一瞬の静寂のあと、訓練場内は大騒ぎ。
見物人たちの大顰蹙に大ブーイング。
ワーワー騒いでいて何を言ってるのかは聞き取れないが、おそらく俺の悪口なのではなかろうか。
こちとら正々堂々と勝負したというのにさ。
だから、誰が何と言おうと苦情は受け付けない。
そう思った矢先に、すぐ目の前に大声でギャンギャン文句を言っている奴が居た。
もちろん険悪ムード野郎である。
束の間、呆けていたみたいだが、どうやら復旧したらしい。
「むっ、無効だっ! こんなの、認めん!! この俺様が負けるわけがない。今日はちょっと体調が悪かったんだっ。日を改めての再戦を要求するっ!!!」
審判係の顎割れ先輩なんか、場外と場内の騒音に顔をしかめて両耳を指で塞いでいる。
ペルタがツカツカと歩いてきて、お疲れさまとでも言うようにポンポンっと俺の肩を叩いてきた。
うん。試合よりも、こっちの方が疲れるかもだ。
正直言って、もう帰りたい。
付き合っていられないとばかりにペルタと二人で場外へ抜けようとしたが、俺たちの行く先に険悪野郎が立ちはだかった。
「いいか、よく聞け。お前らが勝ったワケじゃないからな、俺の体調が悪かったんだから引き分けだ。わかったな!!」
「いや、もう。どうでもいいんで……勝負にならなかったってことで」
ペルタが冷ややかに言い捨てた。
ははは。さらさら敬う気はないが、少しばかり言い方が拙かったんじゃなかろうか。
だってさ、めちゃくちゃ青筋立てて怒ってる気がするんだよ。
そう言ったらペルタの奴、怒らせときゃ良いんすよって……更に冷ややかに言ったんだよ。
何だかこちらも機嫌が良くない。
おやおや? どうしたペルタよ……君ってば、もうちょっと控えめな子だったと思うんだけど。
その台詞が聞こえたらしい険悪野郎。
まるでオーガのような、人間離れした怖い表情になった。
オーガに会ったことはないけれど、たぶんこんな顔なんじゃないかな。
「勝負なんざどうでもいいってか。……ならばガチでぶっ潰す!!」
もはや怪物のように理性をなくした言動だ。
「おい、決着は着いたはずだ。潔く負けを認めろ!!」
俺たちの様子を見ていた顎割れ先輩が、素早く間に入って仲裁しようとしてくれた。
「うるせぇっ! うるせぇ!! うるせぇっ!!! 邪魔するやつはぶっ飛ばすっ!!!」
あれだけ疲弊していたのに、疲れは怒りですっかり忘れているらしい。
だから、思わず言ってしまったんだよ。
「なんだ、まだまだ元気じゃないか。初心者相手だと思って、試合中に手を抜いていたわけじゃあるまいね」
ピタッと険悪野郎の動きが止まる。
おやおや。もしかして失言だったかな。
ペルタに向いていた視線が俺に刺さる。
「俺様は調子が悪いと言ったはずだ。貴様らがそんなに打ちのめされたいのなら、俺様の舎弟たちが相手になってやるっ!! お前ら、この二人を徹底的に痛めつけろっ!!!」
ありゃりゃ、気が短いねぇ。とうとうブチ切れたよ。短気は損気っていうんだけどな。
険悪野郎の号令で、見物人だった候補生の過半数がザザッと木剣を携えた。
ふーん、なるほど。
古株なだけあって、けっこう人望があったんだなぁ。
そう呟けば、隣のペルタが眉をひそめた。
「こんなやっすい奴らに慕われたって、ちっとも嬉しくないっすけどね」
おやおや。まだ機嫌がなおらないみたいだね。
俺とペルタの二人組。
対するは、険悪野郎と舎弟たちチーム。
二人対十数人だ。
残りの見学者たちは、わずか数人ほど。
彼らのほとんどが俺たちと同じ新人である。
それから監視役兼審判係だった顎割れ先輩。
「おいっ、お前たち今直ぐにやめるんだ。こんな騒動を起こして、決してただでは済まないぞ!」
うんうん、そうだよね。
その反応が真っ当だよね。
「あーっと、すいません先輩。どうにも収まりそうにないんで、新人たちと教官を呼びに行ってくれませんかね? 皆がここに居て巻き込まれても危ないし、いい加減に責任者でもある教官に止めてもらわないと……」
……ホント、めっちゃ困るんだよ。
自習時間にして、放置した責任を取っていただきたい。
そもそも、今までこんな厄介者をのさばらせていた責任も追求したい。
この胸の内のモヤモヤを、何処かにぶつけずにいられようか。
うん、八つ当たりは承知の上だ。
そう、とにかく責任者どもを呼んでこいや。
ざんねんながら書き貯め分の底がつきましたww(^^ゞ
続きも頑張って書いておりますので、ぜひぜひまた覗きにいらしてくださいませね。
ここまで読んでいただきありがとうございました(_ _)♪




