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63)いざ、勝負?!




 険悪ムード先輩が偉そうに、腰巾着先輩に指示を出す。

「俺様はあとからヒヨッコを(たた)きのめす。お前は前座でソバカスをやり込めろ」

それに対して素直に頷く腰巾着先輩。

隣のペルタは嫌そうに顔をしかめた。

なるほどね。二対二での試合ではなくて、二回戦方式にするようだ。




 有無を言わさず中央に引っ張り出され、所在なさげに立つペルタ。

審判を務めるのは、体格がよく筋肉盛りもりで(あご)の先が2つに割れている顎割(あごわ)れ先輩だった。

「んんと、さっき教官たちに指名されてお前らがサボらないか監視するように言われたんだ。だから、俺がいちおう中立の立場で審判をさせてもらう。そうじゃないと自習という格好にならないからな。皆、それで良いか?」

険悪ムード先輩は気に入らねぇが仕方がないと了承し、フンっと鼻を鳴らした。

それから、あとの見物人も敵味方のどちらもが頷いた。




 顎割れ先輩は、それで皆が納得したと見做(みな)したらしい。

「それじゃ、一回戦はペルタとビリーで。双方位置について、構えっ……」

束の間、場内の声が静かになった。

へぇ。どうでもいい情報だけど、腰巾着先輩はビリーっていう名前なのか。

ちょっと小柄なペルタ(ソバカス)と、ヒョロリと背の高いビリー(腰巾着)先輩。

二人の候補生が、木剣を手に(にら)み合う。

「…………開始!!」

広い敷地内に顎割れ先輩の声が響いた。




 瞬間的に動いて先制攻撃をかましたのはビリー先輩。

ペルタってば、出遅れた。



 そのはずなのに。

ガツンっと鈍い衝撃音のあとで、ふっ飛ばされたのは先輩の木剣だった。

「ほぁっ!?」

ぶっ魂消(たまげ)間抜(まぬ)けな声をあげるペルタ。

「ぬぉ!!」

自分の手元に木剣がないことが、信じられないといった様子のビリー先輩。

手のひらを握ったり開いたりして呆然自失。

見物人の誰もが無言になっていた。




 そこに顎割れ先輩の声が響く。

「そこまでっ。勝負ありッ! 武器の損失により、ビリーを戦闘不能と判断。よって、勝者はペルタ!!」

信じられないような結果である。

そのせいなのか、場内は未だに静まったまま。





 静まり返った場内で、険悪ムード先輩が地団駄(じだんだ)を踏む。

「クソがっ! 何やってんだよビリー!!」

「すまねぇ。ちょっと油断しちまったようだ……」

ズカズカ歩いてきて己の腰巾着の頭を小突(こづ)く。

小突かれたビリー先輩は、バツが悪そうにしながらも仕切り直しを要求してきた。

「イテッ。悪かったって。……おいソバカス、今のはナシだ! これは何かの間違いだ! だから、もう一度やり直す」

いやさ、こういうのは直談判じゃなくて審判に言うべきなのではないだろうかね。

ペルタといえば眉毛(まゆげ)を下げて、えぇぇ嫌っすよぅ……と(つぶや)いている。

小声すぎて相手には聞こえていないみたいだけれど、心の底から嫌そうである。

そのウンザリした様子から、彼の気持ちは明らかだ。

思いがけず巻き込まれたペルタにしてみれば、ボコられないうちに己の役目を終えてホッと一安心したいところだったのだろうしね。




 そんな様子を見ていた審判係の顎割れ先輩。

腕を組んで、すでに結果は出たとばかりに首を振る。

「いや、明らかにビリーの木剣が弾き飛ばされているんだ。やり直しは認めない。一回戦の勝者はペルタだ!」

彼の宣言にブーイングの嵐が巻き起こったが、顎割れ先輩は一切の聞く耳を持たなかった。

場内では、マグレだの、インチキじゃないかだの、こんなことは有り得ないだのと大騒ぎ。

「うるさいぞ、見学者たち。俺が見ていた限り不正も何もなかったし、偶然だろうがマグレだろうが結果は結果だ。文句は言わせん」

なるほど、ちゃんと公平に審判をしてくれているようだ。

さすがは教官に指名されるだけの人物である。




 そんなやり取りのあとで、顎割れ先輩は次の勝負をと言った。

「こんな無駄な試合など、サッサと終わらせる。やらせてみれば見学するにも値しない低レベルな勝負だった。こんなのを見るよりも、自分で一回でも多く素振りをした方が有意義だろ」

険悪ムード先輩を見てから、フフンと鼻で笑った顎割れ先輩。

うわぁ、めっちゃ挑発してますな。

もしかして、この二人ってあんまり仲が良くないのかなぁ。

……まぁ、どうでもいいっちゃ良いんだけどもさ。






 ギロリっと顎割れ先輩を睨んだその目で、同じように俺まで睨まれる。

誰にって?

もちろん険悪ムード先輩だよ。

すっかり仄暗い陰険な目つきになっている。

「ならば秒で終わらせてやるっ。俺がヒヨッコを叩き潰したら、思う存分に素振りでも何でもやりやがれ!!」

覚悟しろ!!! ……っと、木剣の先っちょを俺に突きつける険悪ムード先輩。

ちょ、危ないじゃんかっ。

温厚な俺でも、顔面ツンツンされるのは気分が悪い。

上から目線は仕方がないが、物理で上から顔を狙われるのは身長差を思い知らされて面白くないんだよ。

フンっだ。……俺にだって、まだまだ伸び代があるはずだ。








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