52)迷宮は辺境の名物らしい
ご無沙汰しております<(`・ω・´)…皆さまお元気にお過ごしでしょうか。
相変わらずのんびり会話回ですが夏休みのひとときに楽しんでいただけたらと、書きかけだった一話分を手直しして投稿してみまっす☆
健やかで楽しい夏を♪
石の壁に囲まれた旧ルミエール城跡迷宮を通り過ぎ、馬車はいよいよ辺境伯爵領内へ。
とくになんの手続きもなく、何ら風景が変わることもなく……この辺りは我が領地だぞっていうお祖父様の言葉で、俺は自分が生まれ故郷とやらに帰ってきたことを知った。
見覚えのある風景というわけでもないから、思うことや感じることといっても実感がわかないっていう状態で、ただ窓の外を見つめていた。
天気は良好で、青い空と草原が広がるのみ。
もしかしたら十年前の院長先生も、辺境に来るときにはこうして馬車の中からこの風景を見ていたのだろうか。
そう考えたら、この殺風景な景観にもちょっと親しみが湧いてきたような気がするよ。
お祖父様の話によると辺境周辺は迷宮の多発地域なのだそうで、領内だけでも八つの迷宮を抱えているとのことだった。
「不活性迷宮も入れて八箇所ということで、実際に管理が必要なのは半数の四箇所だな」
「……不活性っていうと、活動が止まっているってこと?」
「ああ。簡単に言うと、そういうことだ」
「管理は国じゃなくて伯爵家がやっているんですか?」
「そうだな、基本的に我々で管理をしておる。と、言っても冒険者ギルドという冒険者の組合団体と共同体制でだが」
「ギルドですか。そんな団体があるんですね」
「商人や職人たちが職種別に組合や協会を作っているんだよ。冒険者たちもそれを参考にして互助組織のような組合を立ち上げて、今では大陸全土に支部を持つまでに成長させていている。ギルドに所属しながら国をまたいで活躍する冒険者も現れて、近頃は目覚ましい活躍ぶりだと聞く」
「ふぅん。……そんなに大きな組織と手を組んでいるなんて、すごいなぁ」
「ははは。あちらではダンジョンで採取した素材などが手に入るし、冒険者たちに経験を積ませることができる。こちらは、厄介で難易度の高いダンジョンを安全に管理することができ、領地や領民を守ることができるというわけだ。これは双方の利害が一致しているから成り立つ関係だな」
「なるほど」
そっか。領地を経営する辺境伯側と、冒険者たちのまとめ役であるギルドとの共闘作戦でダンジョンと相対しているんだね。
お祖父様の説明に感心していると、オルンさんに横からツンツンと腕を突付かれた。
「あのぅ〜、一応オレも冒険者としてギルドに登録しているんだよ。これでもソロで難関迷宮の深層辺りで活動できるくらいの腕前はあるから、何か質問があれば受け付けるよ?」
薬師さんの見た目は、背の高い眼鏡の知的なお兄さん。
でも、服の下には筋肉質な身体が隠されているのを俺は知っている。
本人が言うには剣の腕前はかなりのものらしいし、薬師と兼業だというのに冒険者としても活躍しているっていうのは凄いことだね。
「それじゃぁ……オルンさんが辺境で行ったことのあるダンジョンは、旧ルミエール城跡迷宮だけなのかな?」
「いいや。他にもう一箇所だけだけど、南方の『ハーニナ洞穴迷宮』には、よく魔力蜂蜜を採りに来るよ。あそこは虫系魔物ばかりがわんさかと出る場所でねぇ……でも、あんまり人気はないみたいなんだよねぇ。最下層の魔力溜まりが魔蜜密蜂の集団繁殖地になっていて、奴らの巣からは微量の魔力が含まれている蜂蜜が採れるのさ」
「特別な蜂蜜が採れるのに、人気がないの?」
「うん、普通の蜂蜜の方が効率よく稼げるからね。魔力が含まれているといっても、ほんのチョッピリだし。最下層に行くまでが大変で、蜂の魔物は集団で襲いかかってくるし針に毒を持っているから手強いし……蜂蜜を持って帰ってくるのも一苦労だしね」
養蜂っていう、蜂を飼い慣らして蜂蜜を採取する職業もあるんだってさ。
採れた蜂蜜に魔力は含まれないけれど、そちらの方が危険も少ないし実入りも良いってことらしい。
報酬目当てな冒険者は素通りするだろうね、と薬師さんは言う。
「それなら、何でオルンさんは魔力蜂蜜を採りに行ったの? 普通のやつじゃ駄目なの?」
「ん? オレがダンジョンに潜るのは、たいがい素材採取が目的なんだけどさ、……子ども用の薬を調合するときに魔力蜂蜜を使うと苦味が抑えられて美味しくなるんだ。普通の蜂蜜だと甘味と苦味が混じり合っちゃってイマイチなんだよ〜」
オレは冒険者であり薬師でもあるからねって、オルンさんは得意げに指先で眼鏡の位置を持ち上げた。
なるほど。薬師さんならではの需要なのか。
そう言ったら、普通の薬師はわざわざ自分で採りには来ないけどねってニヤリと笑う。
そうでもしないと手に入らない材料なのだとか。
「あのダンジョンが冒険者たちに人気がないせいなのか、市場に魔力蜂蜜が出回らないんだよねぇ。仕方がないから数年に一度くらいで周期的に採取に来ているんだよ」
苦笑交じりで、滅多に使わない材料なんだけど在庫として持っておきたいんだとオルンさん。
子ども用の薬なんて、庶民は買わない。庶民には薬自体が貴重品で中々手が届かないんだ。
飲みやすい薬を求めるなんて、きっと王侯貴族くらいじゃないだろうか。
この薬師さんって只者じゃないのかも。
ひょっとして貴族のお抱え薬師とかなのって聞いたら、たまにしつこく付きまとわれて高く売りつけたりはするけれど、偉い人は苦手だから滅多に付き合わないって言うんだよ。
ちゃんと商売が成り立っているのか気になるけれど、気楽な独り者だから問題ないっていう謎発言で躱された。
モテそうなのにって言ったら、人付き合いが面倒くさいんだってさ。
とりあえず質問を変えてみる。
「辺境で他に行ってみたいダンジョンってある?」
「うーん……、そうだねぇ。奥地渓谷迷宮なんかは面白そうかな」
「渓谷があるの?」
「うん。領地の奥地がなだらかな山間部に差し掛かっていてね、そこにはちょっとした谷があるらしいよ」
「へぇ〜」
女子二人はダンジョンの話に飽きたらしく……侍女さんは外の景色を見ているし、ユリアナはといえばウトウトと居眠りを始めていたよ。
俺とオルンさんの会話にお祖父様が介入してくる。
「ああ、あそこは魔野牛と魔羊の一大産地でね。我が領地の大きな収入源でもあるんだ」
「食べたことないけど、聞いたことがあるかも。……牛も羊も食肉用の魔物ですよね。ダンジョン内で冒険者が狩ってくるのを領地で買い取っているんですか?」
「それもあるんだが……辺境伯領の騎士団も狩りに入っておるんだよ。その分は、丸儲けだな」
「ふーん。騎士っていうか狩人集団みたいです」
「ははは。まぁ、そういう一面もあるな」
お祖父様がニヤリと笑う。
オルンさんはウンウンと肯きながら、説明を付け足してくれる。
「ああ、ダンジョン産の肉も辺境の特産物でしたよね。辺境騎士団は強者揃いで有名なんだよ。肉を切らせたら大陸一だって言う話だから、彼らのおかげで大陸中に野牛肉や羊肉が供給されているといっても過言じゃないのさ。そんな経緯もあって辺境のダンジョンが有名になってるんだよねぇ」
「うむ。大陸で消費される高級魔物食肉の三分の一が我が領地で狩られた獲物だと言われておるぞ。だが、これは騎士団だけの成果ではなく冒険者たちの貢献があっての功績だな」
薬師さんの説明を自慢げに肯定するお祖父様。
うわぁ。辺境の騎士団って、めちゃくちゃ忙しそうで危険な仕事かもしれないよ。
領地に到着したら旨い肉をたらふく食わせてやるぞって、お祖父様が俺の頭をガシガシ揺さぶったのだった。
それは楽しみだけどさ、オルンさんも肉が目的で渓谷ダンジョンに行きたかったのかな?
気になって聞いてみたら、魔羊の毛が欲しいんだって。
「羊の毛……って、毛糸が必要なの?」
「毛糸っていうか、フェルト生地が必要なんだよ。普通の羊よりもきめ細やかで良質の毛から作るのさ。薬剤を漉したり、怪我の手当てに使ったり、けっこう役に立ってくれるんだ。あと、寒い時期の装備をつくる原料にもなるから沢山あると便利かな」
山羊は田舎の村で飼われていたけど、羊は見たことがなかったな。
モフモフな動物だっていうのは聞いたことがある。
そのモフモフから毛糸を作るんだって院長先生が言っていた。
ちょいっと捕まえて、バリカンっていう大きな鋏みたいな道具でバリバリと毛を刈るらしいんだよ。
毛を刈られた羊は元の牧場にかえすんだって。
また毛が伸びたら周期的に捕まえてバリバリするらしい。
そして、ときにはお肉としていただくこともあるんだってさ。
この時は、ふつうの羊の話をしてくれたのだと思うけれど……先生は、もしかしたら辺境のダンジョンで魔羊を見たことがあったのかもしれないよね。
連載の書き貯めは、マジこれで底をつきました……(T_T)エヘッ☆
九月再開を目標に引き続きチマチマと書いてまいりますので、のでのでノデのでNnnn……
今後ともどうぞよろしくお願いいたします〜(_ _)♪




