46)王都のタウンハウスで兄たちと妹に会う
王都の一等地でも端の方。
馬車はその一角に到着した。
先に着いていた辺境伯爵夫妻の馬車の後ろに停車して、老執事さんの案内に従って下車をした。
そして、広い敷地の中に存在感を放つ二階建ての大きな建物を見上げる。
重厚な煉瓦造りで、ぱっと見で孤児院が十個くらい並んだ広さはありそうだった。
「ここが我がフォルティス辺境伯家のタウンハウスだよ」
辺境伯閣下がにこやかに語る。
「皆が貴方を待っているわ。さあさあ、中へどうぞ」
夫人も笑顔で手招きしている。
「お二方、先ずはお部屋へ案内いたします。お荷物を置いて、休憩なさってはいかがでしょうかな」
老執事さんが提案してくれたので、案内をお願いすることにした。
身体はいたって元気だが、気疲れが酷かったからありがたいよ。
「そうだな。謁見のあとで疲れているだろうし、少し休んでくると良い。ベルモンド、頼んだよ」
辺境伯閣下の言葉に、老執事氏がかしこまりましたと礼をする。
何はともあれ、休憩時間が貰えるらしい。
老執事さんの先導で、入り口に広がるホールを通り抜け……ようとしたが無理だった。
階段の辺りに待ち伏せていた輩がゾロゾロと存在していたのだ。
貴族風味な四人の男と一人の少女。
おそらくは、彼らが俺の兄妹たちなのだろう。
真面目そうな目つきの背の高い男は、俺と目が合うとスッと手を差し出して握手をしてきた。
「やあ、末の弟よ。やっと会えたね」
タレ目がちで優男風味な男が、俺の背中側から腕を回してくる。
「うわぁ〜、思っていたのと違ったなぁ。この子、予想以上に可愛いよ」
ちょ、ま? 可愛いって俺のことか??
ちょ!? 頭グリグリはやめてほしい。
横からのほっぺツンツンもご遠慮願いたいんだよ。
「うん。……意外とちっこいな」
ガッチリ体型な奴の言葉に、王城でうけた心の傷が疼く。
だから大きくなるって決めたんだよ、俺は。
取り囲まれてわちゃわちゃされて、只々困惑するばかり。
そこに、おっとりした感じの優しそうな人が割って入ってくれたのだった。
「……おいおい。皆がいきなり構うから、びっくりして固まっちゃってるじゃないか。兄さんたち、ちょっと落ち着けよ」
おっとりさんが一番若そうだ。
でも落ち着いた物言いで、他の兄たちを止めてもらえてありがたい。
なるほど。
この人達が、やはり辺境伯家の兄たちらしい。
そして最後の一人は女の子。
俺と同い年らしい。
クリリとした大きな目でジッとこちらを見つめている。
目が合うとにっこり微笑んだ。
「はじめまして。双子のお兄さまってどんな方なのかなって、ずっと想像していたの。うふふっ。予想以上に素敵な人で嬉しいです。お会いできるのを楽しみにしておりました」
俺とは似ても似つかぬ愛らしい姿。
烏などと呼ばれるくらいには黒々しい見た目な自分。
同じ母親から生まれたらしいのに、彼女は栗色の髪に焦げ茶の瞳を持っていた。
双子の俺よりも、周りを取り囲んでいる四人の兄たちと似ているような気さえする。
そう。全員が多少の濃淡の差はあれど茶色っぽい頭髪と瞳の色で、ちょっとくせ毛だ。
はぐれていた迷子だけが異質な黒なのだった。
世間には黒目も黒髪も沢山いる。
だけど、兄弟姉妹の中で自分一人だけっていうのは、けっこう疎外感があるなぁ。
双子の片割れとも、あんまり似ていないみたいだし。
俺って、ホントにここの家の子で間違いないのだろうか。
今更だけど、ちょっとばかりじゃなく、かなり不安になってきたのだった。
そんな俺の心中など知る由もなく、兄妹たちは和気あいあいと語り合っている。
そこに老執事さんがキッパリと解散の宣言をした。
「さて、坊ちゃま方にお嬢様。末坊ちゃまは王城から戻られたばかりでお疲れでございますので、少しお休みいただくことになっております。つもる話もございましょうが、一先ずお部屋にご案内したく思いますので……ご歓談は夕食の席にてお願いいたします」
懐からキラリと光る時計を取り出し言葉を続ける。
「夕方まで数時ほどはそれぞれに過ごしていただきまして、夕食の支度ができましたら皆様方にもお声をかけます」
上は成人しているような大柄な長兄から下は俺のようなチビにまで、ぐるりと視線を行き渡らせた老執事。
彼は直立の姿勢から優雅に礼をして、それでは後ほどと言いながら俺とオルンさんを案内しつつ見事に兄妹たちを蹴散らしたのだった。
二階へと階段を進みながらオルンさんに話しかけた。
「兄と妹がいるって聞いてはいたけれど、こんなにゾロゾロいたとは思わなかったよ」
「あれっ、おかしいな。オレはちゃんと説明したと思うんだけどなぁ」
「そうだったっけ? もしかしたら、聞いていたのに俺が忘れちゃっているのかも知れないな。とにかく……あんまり賑やかで驚いたんだよ」
「ははは。まぁ、あんな風に囲まれて歓待されたら誰でも面食らうだろうなぁ」
「まあね。……でも、おおむね歓迎してもらっているみたいで、ちょっとホッとした」
「うん。そうだね……じつはオレも安心したよ」
「そりゃ、どうも」
「ははは……」
軽口を叩き合うように会話しながら先に通路を行く執事さんのあとに続く。
つき当り南側の隣同士の部屋を割り当てられた。
俺が右側でオルンさんが左側。
それぞれ別の部屋に通されて、熱々のお茶を淹れてもらって、美味しい軽食をいただいた。
「それでは、どうぞごゆっくり……」
老執事さんが静々と扉を締めて退出したあとの俺は、いつの間にかソファで眠り込んでしまっていたのだった。




