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43)何ていうか……こんな時はどうすりゃ良いのさ。




 偉い人らしい爺ちゃんの背後に居並ぶゾロゾロを、どうかお気になさらずと気軽に扱われ……内心でそんなの無理じゃんかってツッコミまくっている。


チラッと、水差しを持っているお弟子さんが纏っているローブの内側に、物騒なモノが見えてしまったんだ。


剣にしては少し短めで、大振りな短剣のようなものが。


何だかわかんないけどグッサリやられたら痛そうなやつなんだよ。




 気がつけば完全に魔術師団員たち(紺色ローブ)に包囲されていて、すぐ近くにいる辺境伯爵家の人たちも今のところ味方とは言い難い。


臙脂の爺ちゃん(筆頭魔術師)はニコニコと見ているばかり。


俺は一人で大勢の大人に囲まれて涙目だ。


何となくだけど、大勢で大きな獲物を解体するときみたいな、室内にそんな異様な空気が漂っている。


俺は猪や熊じゃねえ。


何する気だよっ。


瞳をらんらんと光らせて、ダイジョウブコワクナイヨーースグニオワルカラネーーって、二人の魔術師がじりじり迫ってくるんだよ。


ウソつけ。


怖いよっ。


何かされるのも嫌だが、お前らが怖いんだよっ。


あっち行けっ。


無理無理無理ムリムリムリ。


ムリったらむりっ。


数歩ほど後退(あとずさ)ったが、俺に拒否権はないようだ。


紺色(こんいろ)ローブの一人に、むんずと腕を捕まえられた。


やーめーっ。


アンタは見学者の一人だったはずだろが。


そもそも、身分確認って何するんだよ……ちゃんと説明してくれよ。






 ギュッと目を閉じ眉間(みけん)に力を込めた。


どこかを短剣でグッサリ刺されるのかと、思いきり身を固くする。


(うやうや)しく()()をとられ、そっと柔らかい生地の上に置かれた。


意外と丁寧(ていねい)な扱いに、どうやらいきなりグッサリされる危険はないらしいと判断する。


いや、まだわかんないけどさ。


警戒心丸出しで、そっと薄目を開いて利き手を見てみる。


目の前には(ひざまず)いた紺色ローブ……この人はたぶん、部下その三だったか。


彼が手にしている小さいながらも豪華(ごうか)なクッション。


その上に、チョコンと|載せられている自分の利き手。


自分の隣には……先ほどから反対側の腕を捕まえたままの、もう一人の紺色ローブ。


そして、おもむろに近づいてきた筆頭魔術師爺ちゃんの部下二人……えっと、その一と二だな。


「すぐに終わりますから、じっとしていてくださいね」


「痛くもないし毒もないですよ。ちょっと冷たいですが(こら)えてくださいね」


身動きできずに混乱状態な俺を気遣いながら、手早く作業を進める。


ホントに痛くない?


信じていいのかな?







 俺の利き手のすぐ上で硝子瓶(がらすびん)が傾けられた。


(そそ)がれた琥珀色(こはくいろ)の液体が、俺の手の甲とクッションをグッショリ()らす。


あれ……何となく既視感(きしかん)を感じる。


そういえばつい最近も、こんな風に手の甲を濡らされたっけ。


田舎村の孤児院での薬師さんとの出会い。


あのときの俺は、軽く混乱状態に(おちい)って騒いでいたなぁ。


頭の中に、オルンさんの話してくれた言葉が(よみがえ)る。



『双子には、生れてすぐに辺境伯家の子どもであるという印が(ほどこ)されたんだよ。それが、コレなのさ』   



……そうか。


これは、あのときと同じことをしているわけなのか。


そう納得したら落ち着いた。


この琥珀色(こはくいろ)のやつは、きっとお高い酒なのだろう。







 やがて、自分の手の甲に鮮やかな濃紺色(のうこんいろ)が浮かび上がってきた。


それはくっきりと輪郭(りんかく)を現して────そして、緻密(ちみつ)な魔法陣の姿となった。


ほぅーーっと、室内の誰もが詰めていた息を吐き出した。


筆頭魔術師の爺ちゃんがササッと進み出てきて、ジィっと魔法陣(手の甲)を見つめる。


沢山の色石がはめ込まれた小さな(つえ)を俺の手に向けて、(おもむろ)に呪文を唱える爺ちゃん。


「走査*感知***フォルティス□□□エグランタイン□エル***□□*□鑑定」


その瞳がポゥっと黄金に輝くのが不思議で綺麗だなと見とれたのちに。


筆頭魔術師は目をつぶって眉間(みけん)にシワを寄せ、(しば)し考え込んでいた。


この場の全員が、固唾(かたず)をのんでそれを見守る。


その沈黙に耐えられなくて、俺はシゲシゲと自分の手を見る。


あのときと同じように、手首から甲にかけて見惚れるような綺麗(きれい)で細やかな紋様が浮かび上がっているのを再確認することに。


自分の身体にこんなモノが(かく)されていたなんてと、再び思う。


正直いうと、未だに信じられない気持ちなのである。






 パチリと開眼した爺ちゃん……筆頭魔術師が、室内をぐるりと見回し……最後に辺境伯爵夫妻に視点を定めた。


室内は先ほどから静まり返ったままで、誰もが聞き耳を立てている。


爺ちゃん以外は身動きする者すらいなかった。


「十年前にフォルティス辺境伯閣下が直々に施された紋章魔法陣(もんしょうまほうじん)、このルドフィオ=ヘンリッケが(しっか)りと確認いたしました。また、この良き日に立ち会えたこと恐悦至極(きょうえつしごく)に存じます。ベアトリス第八王女のお子様で王位継承第二十四番目にあられます辺境伯爵家のご子息さまのご帰還、魔術師団一同心よりお慶び申し上げます」


重々しく告げられた言葉たちに、辺りは騒然となった。


「ヘンリッケ殿、間違いないのだな? 誠に、この子が我が家の五男坊なのだな?」


辺境伯閣下の問いは(もっとも)もなことだろう。


それに対して、胸を張って答える魔術師爺ちゃん。


「この生命にかけましても間違いございません。閣下の魔力痕跡(まりょくこんせき)と正式な紋章とを、これ以上ないくらいに(しっか)りと鑑定しました」


その様子を、呆気(あっけ)にとられて見てる俺。


再び()(くず)れ、侍女さんたちに介抱(かいほう)されている辺境伯夫人。


呆気にとられて固まったままの俺の利き手は……陶器の水差しから水が注がれ清潔そうな布で丁寧(ていねい)(ぬぐ)われて、気がついたときには通常の状態に戻っていたのだった。



「おめでとうございます」


「御目出度うございます」


「誠におめでとうございます」


「ご無事を、心よりお喜び申し上げます」


「ご帰還、おめでとうございます」


「……………………」


「…………」


「……」


口々に言祝(ことほ)ぎの言葉を贈られ、戸惑うばかり。


何ていうか……全くもって自分の身に起こっている珍事に困惑気味だ。


どうしたら良いんだろ、これ。


こんな時は、どんな受け答えをするべきなのか。


商会のエリゼさんも、オルンさんも、流石にこんなことまでは教えてくれなかったんだよ。









自主開催のGW連続投稿イベントでしたが、本日で最終日でございます☆

読者の皆さま、ここまで読んでいいただき誠にありがとうございます。

このあともゆっくりながら書き進めてまいりますので、お気軽ノンビリとお付き合いいただけると、とってもとっても嬉しいです。

今後ともどうぞよろしくおねがいいたします(_ _)

後半も楽しく充実したGWを♪


2020年5月 吉日

     代 居玖間


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― 新着の感想 ―
[良い点] 「実は赤の他人でした」とか言われたら大変だとヒヤヒヤしました。 良かった、良かった。
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