41)烏、王城へ行くらしい
☆気まぐれ自主開催中のGW連続投稿イベント二日目でございます☆
5月5日まで毎日投稿予定でっす(>ω<)ヨロシクオネガイシマス~♪
王都での十日目。
オルンさんに朝から風呂でガシガシ洗われて、髪型を整えられ礼服を着せられた。
どうやら俺のためだけに風呂の用意がなされ、近所の散髪屋が呼ばれたようだ。
部屋に通された年配の紳士が、手慣れた感じで鋏を操る。
シャキシャキと小気味良い音を頭上に聞きながら、床にこぼれ落ちる自分の黒髪を眺めて首を傾げる。
わざわざ商会まで出張してもらわなくても俺が店まで行ったのにと言ってみたが、貴族のご子息さまにご来店いただくような店ではございませんのでとか何とかと、畏まった返事をいただいてしまった。
彼はその道では有名な職人で、商会の偉い人や貴族たちの自宅に呼ばれて腕を振るうことも多いのだそうな。
散髪屋の店ってどんなところなのか、ちょっと興味があったんだけどなぁ。
今まで院長先生に適当に切ってもらっていたので、散髪屋に行ったことはない。
っていうか、髪の毛を整えるといったこんな商売があることを今日初めて知ったのだ。
だって、村にそんな店はなかったんだよ。
そんなことをボンヤリ考えているうちに、小綺麗な髪型が出来上がっていたのだった。
これでちょっとは男らしくなったかな。
玄関ホールで待機していると、店の前に立派な馬車がやって来た。
待機中に、お世話になったルカート商会の皆さんに挨拶を済ませておく。
「エリゼさん、商会の皆さん、ありがとうございます……色々とお世話になりました。」
「辺境伯爵家にはご贔屓にしていただいております。私も商談などでよく伺いますし、今後もちょくちょくお会いするでしょう。そうしたら、また沢山お話いたしましょうね」
「はい。また色々と教えてください」
「ふふふ。喜んで」
敏腕副商会長は俺の手をそっと握って、優しく送り出してくれたのだった。
「それでは、またお会いする日まで」
「はい。お元気で」
オルンさんと二人で店の入り口へ。
扉の近くには孤児仲間のソックリな顔の長男次男コンビが並ぶ。
「おい。クロウ……お前、もしかして……」
長男が何か言いたそうにモゴモゴしている。
次男はじっとこちらを見ているだけ。
「ダング。……ごめん。なんて話したら良いのか自分でも状況がよくわかってなくて、俺の口からは上手く説明できないんだ。詳しくはエリゼさんから聞いてくれるかな。……それから、孤児仲間の皆には俺のことは黙っていてほしい。ただ、辺境に行ったことにしておいてくれないか?」
「……わかったよ。皆にはとりあえず黙っておくさ。常々お前は只者じゃないとは思っていたけど、あんな立派な馬車が迎えに来るなんてなぁ。びっくりだよ、まったく。エリゼさんにも話を聞くけれど……後でお前からも詳しく話してくれるんだろうな?」
「ははは。ありがとう……頼んだよ。うーん……いつか話せる時が来たら、ちゃんと説明するよ。ダングとベルムと双子たち、皆元気でな」
「ああ、お前もな」
「……クロウ、またな」
「ああ……またな」
最後にベルムの髪の毛をワシャワシャして、互いに手をパシっと合わせて再会を約束したのだった。
店の前に停車していた立派な馬車から、誰かが降りてきた。
矍鑠とした総白髪のご老人。
鼻の上には小さな金縁の眼鏡が乗っている。
「はじめまして。私は辺境伯爵家の執事でベルモンドと申します。本日は当家の五番目の坊ちゃまをお迎えに参りました」
「お久し振りです、ベルモンドさん。こちらが辺境伯爵家のご子息です」
薬師のオルンさんは、この老紳士と面識があるようだ。
「おお、この方が。……なんとお可愛らしい」
いや、ちょっと……可愛いって言われても嬉しくないんだよ。
ニコニコ笑顔を向けられて、複雑な男心をゴクリと飲み込む。
悪気はなさそう。
このくらいのご老人には十歳の子どもなんて男も女もないのかも知れないね。
「えっと……よろしくお願いします」
「どうか畏まらんでください。こちらこそよろしくお願いいたします。ささ、こちらへどうぞ。オルン殿も、中へ」
慣れた仕草で馬車の中へ誘導される。
オルンさんも素早くあとから乗り込んできた。
店の前に見送りに出てきていた人たちと軽く挨拶を交わした執事さんも乗り込んで、車内は三人になった。
御者席へ出発の合図が出されると、馬車は静かに動き出す。
十日間もお世話になった商会とも今日でお別れだ。
窓からそっと手を振って、もう一度そっと皆に心のなかで別れの挨拶を呟いた。
車内は思ったよりも広々としていた。
執事さんは、こちらに向かって深々と頭を下げて言った。
「本来ならばこの老いぼれが直接村までお迎えに上がりたかったのでございますが、貴方様の身の安全や生い立ちの経緯を鑑みて、オルン殿に依頼するかたちを取らせていただきました。ご無事に王都に到着なされ安心いたしました」
「えっと……ありがとうございます。オルンさんに迎えに来てもらったときには驚いたけれど、こうして迎えに来てもらえてよかったです。それで……おれたちは、これから何処へ行くんですか?」
「はい。この馬車は王城に向かっております。そちらでご両親が貴方を待っておいでですので」
「へっ!? おうじょう? って、王城ですか!?」
「はい。さようでございます」
「おれ、あの白くてでっかい建物に行くんです?」
「はい。あの白亜の城でございます。貴族子息としての手続きがありますし、母君さまのご実家でもありますから」
「あれ……おれの母親って、そんな身分の人だったの?」
「今代国王陛下の一番末の妹王女様であらせられます。たしか……先代陛下の最後の側室様のお子さまだったはずでございます」
「ほぇ……よくわからないけれど、偉そうな……そうでもないような」
「今代陛下とは母君が違いますから、微妙なお立場ではあるのでしょうね。しかし、今では辺境伯夫人として気丈に振る舞っておいでです。貴方の母君さまは立派なお方ですよ」
「えっと、ありがとうございます?」
記憶にあるはずもない母親のことを褒められて、少々複雑な心境になりながらもモゴモゴとお礼を言ってみる。
商会を出たら真っ直ぐ辺境領に向かうのかと思っていたが、まさか国の中心ともいえる場所に行くことになろうとは思わなかった。
田舎村出身の自分があんな豪奢な場所に行って大丈夫なのか。
もしかして、十日間の商会での礼儀作法はこのためだったのか。
礼の仕方や歩き方、名乗り方、座り姿勢などなど……エリゼさんの特訓を思い出す。
ちょっと不安になってきた。
えっと、お茶を飲むときの茶器はどうするんだっけ?
受け皿も一緒で良かったんだっけ……いや、それとも皿は置いておくべきだったか……いやいや、やはり一緒に持ち上げるんじゃなかっただろうか。
グルグルと思考回路が迷走したまま固まっている俺。
それを苦笑しながら見ている付き添いの薬師さんと、心配そうな執事さんを乗せて────馬車は軽やかに王城へと進んでいったのだった。




