35)烏と十五人の孤児仲間たち
そこは広くて明るい部屋だった。
俺が立っている入り口から向かって正面には一面の大きな窓があり、昼下がりのやわらかな陽の光を室内にとり込んでいる。
窓に取り付けられた薄い垂れ幕がヒラヒラとそよ風にたなびいて、建物だらけで賑やかな外の景色を優雅に飾っているようだ。
俺と窓の間には椅子とテーブルが並べられている。
椅子には、じつに見覚えのある面々が腰掛けていて、皆が揃ってこちらに視線を注いていたのだった。
ほんの一瞬で人数を確認する。
うん、大丈夫。……十五人、ちゃんと揃っていたよ。
皆が孤児院時代の服ではなくなっていて、俺と似たような服を与えられていた。
血色も良く、体調が悪そうな子はいないようで安心する。
手前側に集まっている六歳前後の年少組は、女の子が二人と男の子が三人。
壁際に並んでいた男子ばかりのいたずら盛りは、ソックリな顔をした四人兄弟で……長男が俺と同い年の十歳、次男が八歳、三男と四男が双子で六歳だったはず。
奥の窓辺で深刻そうな顔をしている女子三人組は、俺と同い年の十歳だ。
そして、素早く俺の目の前にやって来た奴ら。
体格が良くて一見元気そうなコイツラは、俺の舎弟たち。
一つ年下のこの弟分たちとは、何だかんだと何時もつるんでいたような。
一緒に村内や森の入口あたりを駆けずり回った仲だった。
三人がかりでギュイギュイっとハグされて、揉みくちゃに。
「クロ兄ぃ! やっと会えたっ!!」
「もー、遅いよ〜っ! ここで三日も待ってたんだよ」
「ぅわーん!! よがっだぁ〜。クロ兄が無事でいでぐれで……よがっだよぅ〜」
それぞれに言いたいことを言いながら涙ぐむ。
思わず俺も目が潤んだんだよ。
束の間に四人で再会を噛みしめたのだった。
そこに、水をさすような硬い声。
「ちょっと良いかしら……」
窓辺にいたはずの女子たちが、こちらにやって来たのだ。
茶色の髪を頭頂部でひと括りにしている勝ち気そうな少女が、ずいっと前に出た。
状況を詳しく説明しろと彼女は言った。
「まさか、アンタだけ抜け駆けして逃げ出したんじゃないでしょうね。皆が大変な目に遭うのを前もって知っていたとかだったら、絶対に許さないんだから」
要するに……俺だけが最後まで孤児院に居座っていたことで、もしかしたら若先生や村長たちと共謀していたんじゃないかって疑われているようだ。
そうじゃなくても、一人だけ難を逃れているのはおかしいと言いたいらしい。
「おれも皆と同じで何にも知らなかったよ。若先生が、あんなことをするなんて……未だに信じられないんだ」
「ふん、どうだかねぇ。アンタは院長先生のお気に入りだったし、若先生とも仲が良かった……それに、普段から村の大人たちにも取り入っていた。村長たちと繋がっていたって不思議じゃないわ」
「何を言ってるんだよ。村長の息子と大喧嘩をしたおれが、奴らと仲良くできるわけがない。どちらかといえば嫌われていて、嫌がらせばかりされていたのに」
村の大人たちは、こづかい稼ぎの雑用でお得意様だったんだよ。
お客はお年寄りばかりだったけどね。
村長の息子には散々邪魔されたから、奴らとは繋がるどころか犬猿の仲だった。
「なによっ、しらを切るつもり? 売られたことを知らされたときの私たちの絶望が、のほほんと孤児院に残っていたアンタにわかるわけ?」
キッっと目を釣り上げてさっきから大声で文句を言ってくるのは、同い年の女子三人組でもリーダー的存在なレナだ。
「ちょっとレナ、クロウは知らなかったって言うんだもの……少しは信じてあげたら?」
レナの後ろから遠慮がちに声をかけたのは、大人しめな性格のアーシャ。
「普段の行いが悪いから文句を言われるのよ。仕方がないんじゃないの? クロウのせいで、いつも村長たちから嫌がらせをされていたのだし。むしろアンタが気に入らないからって、私たちまでとばっちりで奴隷にされるところだったのかもねぇ。あ〜、ヤダヤダ。迷惑な話だわ」
レナに調子を合わせて突っかかってくるのが、お調子者で口達者なイルマだ。
たしかに俺は村長に滅茶苦茶嫌われていたけど、全部俺が悪いっていうのだろうか。
あいつらの言いなりになっていたら、とっくの昔に孤児院は立ち行かなくなっていた。
十年もあの場所に住んでいても、よそ者だからと共同の井戸は使わせて貰えなかったし、森のめぐみを勝手に採るなと言いがかりをつけられた。
そのくせ税金はしっかりと取り立てていたのだから、よそ者云々はおかしな話だったと思うのだ。
「院長先生が立ち退きの話を断り続けていたのは知っているだろ? おれのことは関係なしに村長たちは孤児院を目の敵にしていた。結局、お前らはなんでもおれのせいにしたいんだろうが。こんな仕打ちにおれが加担するわけがない。言いがかりもいい加減にしろよ」
言われ放題なのは我慢ならないし、誤解があるなら解消しておきたい。
若先生はどうだか知らないが、俺は一緒に暮らした仲間の不幸を願ったりするもんか。
そんな気持ちで言い返すと、三人ともが黙ってしまった。
皆が俺たちの会話を聞いていたらしい。
気がつけば、それぞれの場所から投げかけられる心配げな視線を浴びていた。
おまけに室内がしんと静まってしまっていたのだった。
全員の無事を確認できて安心したし、再会できてとても嬉しかったというのに。
俺の心にひんやりとした風が入り込んで、そんな浮かれた気持ちをすっかり沈めてしまっていた。




