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32)薬師さんとお買い物




 宿屋で昼食のあとに、オルンさんと商都の街中へと繰り出した。


第一の目的は、薬の原料となる薬材を仕入れること。


薬師にとっても商都の問屋街は魅力的な仕入先らしいのだ。


第二は、王都の情報なんかをそれとなく聞き込みすること。


これから王都に向かうのに、新しい出来事や情勢を知っておいて損はないと彼は言う。


第三が、俺の着替えその他色々を調達すること。


これは自分のことなのに何が必要なのかもわからないので、従兄弟にお任せになりそうだ。


夕方までに全部の用事を済ませるとなると、忙しくなりそうだということだけは確かだろうな。





 オルンさんの後ろを足早について行く。


「あれっ。オルンさん、一番はじめに行くのは問屋街じゃなかったっけ?」


「ん? ああ、たしかに問屋街のほうが近いけど、服屋のほうが先だよ。なるべく早く君に暖かい格好をさせないと体調が心配だ」


「おれは風邪なんかひいたことがないし、丈夫なのが取り柄だから大丈夫なのに」


「そうかも知れないけれど、仕入れはついでだからね。今はそれよりも君のほうを優先するべきだ。問屋は逃げたりしないけど、君の場合は気が変わって……やっぱり服はいらないやって言いそうだからねぇ」


「いやいや、おれだって自分が了承したことはちゃんと実行するし。買ってもらえるのなら感謝こそすれ、気まぐれに意見を変えたりはしないよ」


「ははは、それは素直でよろしい。順番はともかく急がないと日が暮れちゃうからね」


「うん」





 


 薬材問屋を通り過ぎ、服飾関係の店が軒を連ねている区域にやって来た。


綺羅(きら)びやかに店頭を飾り付けた店には目もくれず、オルンさんは古めかしい仕立て屋の木製ドアに手をかけた。


簡素な造りの店内では、かなりご年配の紳士が布地を大きな台の上に並べて何かの作業をしていたところだった。


どうやらオルンさんとは顔見知りのようで、紳士はニコリと微笑んだ。


「おや薬師さん、久しぶりじゃのぅ。いらっしゃい」


「こんにちはフーレさん、お久しぶりですね」


「今日はどのようなご要件ですかな?」


「この子の礼服を大至急で仕立てていただきたいのです」


「おやおや、ずいぶんと別嬪(べっぴん)さんじゃの……して、期限はいつまで?」


「できるだけ早く。仕上がり次第に王都のルカート商会に届けていただきたいのです」


「ほほう、王都ととな」


「お手数をかけますが、他にお願いできる腕の良い仕立て屋さんが思いつかなくて」


「いえいえ、わたしでお役に立てるならお引き受けいたしましょうぞ。王都にあるうちの本店までは定期的に商品運搬の荷馬車が行き来しておりますゆえ、できる限り早目にお届けいたしましょう」


「良かった〜、引き受けていただき感謝します。どのくらいかかりますか?」


「ううーん、そうですのぅ……そんなに凝ったものでなければ半月ほどですな」


「わかりました。シンプルで品の良いものをお願いします」


「かしこまりましたぞ」





 簡単なやり取りのあとで、俺は大きな姿見の前に立たされた。


腕の長さや足の長さ、首周りなどなど……身体中のありとあらゆる場所を巻き尺で計測され、事細かに書類に書き込まれる。


「ほほう。手足が長くて姿勢のよろしいお子ですな〜。ええと、お色は如何しますかの?

ほう、こちらに任せていただけるのですか。ふむ、色合いはこの黒髪に負けないように濃いめの色が良さそうじゃのぅ。それにしても少々痩せすぎじゃ。しっかり食べて大きくおなりなされよ」


「えっと、……はい……」


「さて、採寸はこんなものかのぅ。はい、ご苦労さんじゃの」


「……ありがとうございました」


「はいはい。ちょっとだけゆったり作っておきますからの、しっかり食べて育ちなされよ」


「ははは。……がんばります」






 テキパキと採寸作業を済ませて、注文の確認をする。


んっ?


ちょっと待って。


老紳士から手渡された注文書に視線を落とすと違和感が。


「あのぅ、すいません……ドレス丈とかレース飾りとか書いてあるけど、この注文書は女子用の服じゃないですよね」


「へ? ドレスじゃイカンかったですかの? 流行りのレース飾りを使ったシンプルなものをお作りしようと思ったのですがのぅ。髪飾りも揃いでつけたら可愛いですぞ?」


見つめ合う服飾職人と子ども。


隣では薬師さんがお腹を抱えてヒーヒー言いながら笑い転げている。


ちょっとオルンさん、笑ってないで何とかしてよっ。


ちょっと泣きたくなってきた。






 そのあと普段着用の既製服(きせいふく)(あつか)っているお店を何軒(なんけん)か回って色々と買い(そろ)えて(もら)ったが、とにかく男子だっていうことを先に主張することにした。


ボンヤリしていたら、スカートとかリボンとかを(すす)められるんだよ。


店の従業員さんが怪訝(けげん)そうにしていたが、形振(なりふ)りかまっていられない。


みんな何処(どこ)に目ン玉くっつけているんだヨ。


俺は正真正銘(しょうしんしょうめい)、男子なんだヨ。


繰り返すけど、(れっき)とした男の子ですヨ。


ホントだってば。


何なら、ちょっと恥ずかしいけど下着の中身も確認する??


思い切って言ってみたら、オルンさんが焦って止めてきたんだよ。










 商都では、俺の身なりを整えてオルンさんの薬材仕入れもしっかりと済ませることができた。


薬の材料って、草とか粉とかばかりだと思っていたけれど違った。


蜥蜴(とかげ)の干物とか何かの皮とか目玉とか、気味の悪い物体が沢山あったんだよ。


生きたままのミミズや艶々(つやつや)樹脂(じゅし)などなど、どうやって使うんだかわからない。


問屋さんの店内は、一日中見ていても飽きない未知の世界だったのだ。


海も見れたし、大満足で宿屋に帰り……グッスリと休んで充実の一日を過ごせたと思う。


そんな商都の滞在だった。










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