27)次の目的地
昼前に宿屋の親父さんと女将さんに見送られ、二人で乗り合い馬車の停車場へとやってきた。
親父さん特製の弁当を持たせてもらったので、昼の時間が楽しみだ。
街外れの街道に、何台もの大型馬車が停車している。
「オルンさん、オレたちはどの馬車に乗るのかな?」
「ああ……先ずは王都にある知り合いの商会に寄って、君の仲間たちの無事を確かめたい。それと、君のご家族は王都のタウンハウスで君のことを待っているんだ。だから王都への直行便に乗る予定だよ」
「知り合いの商会っていうのは、オルンさんが孤児仲間たちを頼んでくれた商人さんの居るところ?」
「ああ、そうだよ。行商人仲間たちはそれぞれ最速の方法で王都に集合する手はずだから、たぶんオレたちよりも君のお仲間の方が先に商会に到着していると思う。そこで皆に会って、改めてお別れをすることになると思う」
行商人さんたちの最速の方法っていうのがどんなものなのかと気になって聞いてみると、各自の得意な緊急移動方法があるらしい。
転移魔術とか飛行術とか空を飛ぶ魔具などを利用するのだとか。
あれ……えっと、行商人ってそんな裏技を使えなくちゃならない職業だったっけ!?
あちこち旅をして商品を売り歩くんだよね。
もっとノンビリ気楽な仕事だと思っていたんだけれどな。
どうやら、オルンさんの仲間は魔法や魔術を使える人たちばかりらしかった。
転移とか飛行とかいう高度な魔術は、滅多に使える人が居ないはずなのに。
王国のお抱え魔術師でも数人居るかどうかだと村の大人たちが言っていたような気がする。
エルフな薬師さんの仲間なくらいだから、きっと優秀な魔術使いなのかも知れないな。
商人じゃなくて魔術師の方が儲かるんじゃないのかって言ったら、あんな理屈っぽい連中と付き合ったら脳ミソにカビが生えると嫌な顔をされてしまった。
オルンさんは、ずいぶんと魔術師を嫌っているみたいだな。
それにしても、心配だったのは孤児仲間たち。
無事を確認できたら、今後のことを話し合えるとありがたい。
皆の行き先がすんなりと決まれば良いのだけれど。
「そっか。おれも皆も、別々の道を行かなくちゃならないんだものね。別れはとっくに済ませたけれど、もう一度会えるなんて夢みたいだよ」
「そうだね。ちゃんと皆の無事を確認したら、君は自分の家族のもとに行くんだよ」
「う……ん。なんだか実感が無いんだよ……家族って、どんな感じなのかな。やさしい人たちだと良いのだけれど……」
皆のことも心配なのだが、じつは自分のことも心細かった。
今更のこのこ出ていって、ちゃんと馴染めたりするのだろうか。
「心配ないさ。長い間君を探していたんだもの、歓迎されないはずがない。まぁ……もし会ってみて気に入らないのなら、オレと一緒に行商の旅に出ればいいよ」
オルンさんは励ますように言ってくれた。
「えっ!? 良いの?」
「ちょうど助手がほしいと思っていたところなんだよ。君さえ良ければ歓迎するよ」
そう言いつつも、家族に会ってからの話だよと念を押される。
まぁ、そうだよね。
依頼を受けて、わざわざ俺を迎えに来てくれたんだものね。
でも、旅に出るのも魅力的だ。
「そうだね、薬師さんの助手にしてもらうのも悪くなさそう。その
ときはお願いしようかな……」
「ははは。お任せあれ」
「うん。よろしく〜」
そんな会話をしながら、俺たちは王都行きの馬車を探すのだった。
そのうちに、いつの間にかちょっぴり気分が軽くなっていた。
王都行きの馬車は沢山の乗客でごった返していた。
「乗車券はこちらで販売しまーす! 大人ひとり八百七ローク、銅貨八十七枚です!」
車掌らしい青年が馬車の前で大声を張り上げている。
「大人一枚、子ども一枚で」
オルンさんが彼に硬貨を渡しながら声をかけた。
車掌さんの手の中に、ジャラリと金属たちが重なる。
「はい。子どもは割引料金なので、二百三ロークと五ヴィタになります。全部で一トルクと十ローク五ヴィタ、銀貨一枚、銅貨十枚と白硬貨五枚……たしかに」
紙切れを二枚差し出され受け取る。
そのうちの一枚を渡された。
「君の分の乗車券だ。失くさないようにね」
「ありがとう。ちゃんと仕舞っておかなくちゃ」
「王都までは必要ないから鞄に入れておいて大丈夫だよ」
「うん」
【東回り商都経由王都行き】
乗車券に記されているのは行き先だった。
薄い文字が並ぶそれを確認してから、肩掛け鞄にしっかりと押し込んだ。
よし、これで大丈夫。
あとはしっかりと鞄を抱えているのが肝心だ。
肩紐を弛ませ、大事そうに鞄を小脇に抱えて馬車に乗り込む俺。
オルンさんは、そんな俺のあとから馬車に乗ってきた。
「そんなに警戒しなくたって大丈夫だよ」
「だってさ、スリとか泥棒とか……田舎者は狙われやすいって、鍛冶屋のご隠居が教えてくれたんだよ。気をつけなくちゃ」
「ははは。その態勢が田舎者まる出しで、余計に危なっかしいんだよ」
「えええっ。じゃあ、どうしたらいいのかな?」
「いや、普通にしていれば良いんだよ」
「え。普通って……どんな風?」
「さっきまでと同じで良いんじゃないのかな」
「さっきまで……おれ、どんな風だったっけ!?」
「はははは。面白い子だよね、君って」
田舎者な子どもと愉快そうな薬師を乗せて、満員な乗合馬車が街の停車場をのんびりと出発したのだった。




