24)室内での追いかけっこは想定外
白い布が解かれ、くすんだ色の金属が現れた。
如何にも年季の入った感じの、古めかしい剣。
きちんと鞘に収まって行儀よく佇んでいる。
えっとね、立ってるっていうか浮かんでるっていうか……何ていうか。
……こう、佇んでいるんだよ。
で、こちらに向かってスルスルーっと寄ってきたかと思ったら、ぐいんと加速した。
前言撤回。
剣に、行儀作法がどうのこうのは通用しないらしかった。
「え”っ。ナニコレ……ちょっ…………やだっ……」
怖くなった俺はとっさに後ずさったが、ポゥっと輝きながら執拗に追いかけてくる。
「ぎゃーっ!? オルンさん、止めて〜!!」
部屋中を逃げ回るが、とうとう壁際に追い詰められた。
助けを求めたオルンさんは、先ほどからあんぐりと口を開けて呆けている。
「まさかと思ったが……マジか、これ……」
マヌケ面して呟いてないで、とにかく何とかしてほしい。
「やだやだっ。こっちへ来るな!! オルンさん、いい加減に止めてよ!!」
「っ……おう。ちょっと待ってろ」
我に返ったらしい薬師さんが、光る剣を捕まえようと立ちはだかった。
はしっ……っと、両手で捕まえたはずの剣が、薬師さんの手中から姿を消した。
────そして、いきなり俺の目の前に。
「ぉわっ!!」
「みゃッ!?」
ピッカーーーーーっと、目の前が真っ白に。
「「ーーーーー!!!」」
そのあと、どうなったのか……俺は知らない。
剣はオルンさんを躱して、そして俺に何かをしたらしい。
それは確かだ。
確かなのはそれだけだった。
気がついたら寝台の上に横たわっていて、部屋の中は真っ暗で。
そして小机の上に灯るランプの明かりがぼんやりと浮かんでいた。
オルンさんが椅子に座って付き添ってくれていたみたいだが、俺の枕元に突っ伏して眠り込んでいる。
「……いったい、……どうなんたんだ?」
かすれた声でひとり呟く。
寝台からそっと起き出して窓の外を見れば、月明かりもない暗い夜空が広がっていた。
辺りはひっそりと静まり返り、星さえも雲に隠れているようだ。
見えるものもない外の景色を諦めて室内を振り返ると、物音でオルンさんが目を覚ましていた。
「やあ、……お目覚めかい?」
「……うん、おはよう? っていうか、もしかして今は夜中かな?」
「そうだね……たぶん、日の出までもう少しかな」
「そっか。どうりで辺りが真っ暗闇なわけだよ……」
「ははは。君、身体の具合は大丈夫かい? あのあと、ずっと意識がなくって眠っていたから心配したんだ」
「う……ん、今のところは何ともないかな……」
「そっか。……とりあえずは良かったよ」
「おれは、どうなったの?」
「うん、……まあね。ちょっと気絶しちゃったんだよ……詳しい話は朝にでも。とにかく、もう少し寝ておいたほうが良い」
「ぅん? 朝になったら教えてくれるの?」
「ああ。今はとにかく休んでおこう。朝食の前に、きちんと話をしよう」
「うん、……わかった」
「ふぁ〜。それじゃぁ、おやすみ」
「おやすみ、オルンさん」
あの剣が自分に何を仕掛けてきたのか、何で気絶なんかしたのか、気にはなる。
けれど、従兄弟の薬師さんは眠たそうにもう一つの寝台に潜り込むと、グーグーといびきをかきはじめてしまった。
ちょっとわざとらしいので寝たふりの可能性もあるが、真夜中に騒いでいても仕方がない。
素直に朝を待つしかなさそうだった。
多少は疲れていたのだろうか。
まとまらない思考に身を任せているうちに微睡みの誘惑に負けたらしい。
いつの間にか俺も、寝台の中で再び寝入っていたのだった。




