表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/73

21)闖入者たち




 お腹が破裂(はれつ)しそうなほどに満腹なのだが、不思議と果実水(甘いもの)は別な場所に吸収されるように飲めるのだ。


オルンさんが一人前と半分を完食しつつ大きな木のカップに注がれたエールを飲み干すまで、俺は白葡萄(しろぶどう)のやさしい甘さを味わうことにした。





 宿の一階に併設(へいせつ)された食堂は通りに面した場所にあり、窓越(まどご)しに表通りのようすを(うかが)う事ができた。


果実水を飲みながら通りのようすを(なが)めていると、店の前に二台の大きな箱馬車(はこばしゃ)が止まった。


しばらくすると、中からドヤドヤと十数人ほどの男たちが降りてくる。


先頭の男が食堂の入り口を乱暴に開けて、ずいぶん繁盛(はんじょう)しているじゃねえかと言葉を()らす。


「宿の部屋は満室だって断られたが、せめて晩飯くらいは旨いもんが食いてえ。十四人ほどなんだが、何とかならねえか?」


男が強面(こわもて)店主の親父さんに向かってたずねたが、親父さんは首を()る。


「見てのとおりで満席(まんせき)だ。悪いが他をあたってくれ」


きっぱりと断られたというのに、男は不躾(ぶしつけ)に店内を見回した。


(あきら)めが悪いなぁ。


「へぇ、野牛の肉か。なかなか(うま)そうなモノを出しているじゃないか。俺たちゃ今日は森向こうの隣村(となりむら)一寸(ちょっと)ばかり(いや)なことがあったんで、旨いもんでも食って()()らしがしたいんだよ。親父、そこを何とかならねえか?」


「……他をあたれって言ったはずだが?」


「そんなツレナイことを言わずに、なんとか頼むよ。隣村の村長のやつが家を見晴らしの良い場所に新築するっていうから、大口の仕事だと思って飛びついたんだが……今朝になっていきなり契約が反故(ほご)になっちまったんだよ。得体のしれない厄介(やっかい)な草が生えてきて、家を立てるどころじゃなくなったんだとよ」


見に覚えがありすぎる俺は、ドキドキしながら話を聞いた。


これって……もしかして孤児院を解体して村長の家を建てるために雇われていた大工さんたちだろうか。


俺たちの仕業だってバレたら(まず)いので、とにかく知らんぷりでやり過ごす。


もちろん隣の薬師さんも、涼しい顔でエールをガバガバ飲んでいる。


俺も果実水で真似しようとしたが、カップは飲みきって空だった。


気にしないキニシナイ……飲んだふりノンダフリっと。




 宿屋の親父さんが、根気強く肉が品切れになったから無理だと伝えている。


「なんだと? 品切れならば肉は諦めるが、他になにか作れるだろう? 何とかしろよ!!」


納得行かないと言いたげに、大工の男がしつこく言いつのる。


「見ての通りで満席なんだ。何度も言わせるな!!」


うわぁ、ヤメテ。


親父さん(オーガ)(こめかみ)青筋(アオスジ)が。


これは、きっと怒ってるっていうか(いら)ついてるよ。


お構いなしに男が続ける。


ちょっと、ヤバイですって。


「俺たちゃ商都(しょうと)腕利(うでき)きの大工なんだよ。商都のビルズ商会傘下(さんか)の大工を敵に回すと良いことないぜ?」


「ぁあん? 知らねえなぁ。テメエらが何様でも、こちとら客商売だ。道理(どうり)をわきまえねえ奴は客じゃねえ。とっとと()せな!」


「何だと〜!? 飯屋(めしや)ふぜいが生意気(なまいき)な。俺たちのバックにゃ商都の領主がついているんだぜ。業務不良で営業停止を喰らいたくなければ、丁重にもてなせよ!!」


「はぁ!? 巫山戯(ふざけ)んな。どんなに(おど)されたって無理なもんは無理だ!!」


オーガの三白眼(さんぱくがん)がギロリと光る。


持っている包丁(ほうちょう)もキラリと光る。


一触即発(いっしょくそくはつ)


お願いだ……怖いから(あきら)めて他所(よそ)へ行ってくれよ。





 ヒヤヒヤしながら見守る俺と、ノンキにモシャモシャ食事中なオルンさん。


薬師さんはグビグビっと追加のエールも飲み干した。


「プッハーっ!! めちゃくちゃ美味(うま)かった! 親父さん、ごちそうさま〜」


ええっ!? もう食べ終わったの? いつの間に!?


っていうか、空気読もうよ。


食堂中が緊張(きんちょう)に包まれて沈黙(ちんもく)しているっていうのに。


薬師さんの明るい声が、やたらと場内に(ひび)(わた)ってしまったのだ。


「おう。兄ちゃん、良い食いっぷりと飲みっぷりだったな……」


「明日の朝ごはんも楽しみにしているよ〜」


「おう、任せておけ」


殺気立っていたはずの親父さんが毒気を抜かれたように答えを返す。


ゴネていた大工の男は呆気(あっけ)にとられて停止中。




 それからオルンさんは何気なく親父さんにたずねた。


「何やら()め事みたいだね?」


「まあな」


「ちょっと、オレに任せてくれるかな?」


「んあ? かまわないが、大丈夫なのか兄ちゃん……」


「うん、たぶん何とかなると思うよ」


「慝いな……」


「美味しい晩ごはんのお礼だから、気にしないで大丈夫さ」


「ガハハ、それじゃあ頼んだ。朝飯も期待しておいてくれ……」


「ははは、了解っ」


目の前で小声で早口のやりとりが交わされる。


何だか、ちょっと格好いいかも。





 大工の男たちは入口付近で悪態をついている。


ここまでくると完全に営業妨害(えいぎょうぼうがい)だ。


オルンさんはそこまでズカズカ歩いていって、先頭の男の腕をとって(ひね)り上げた。


「はいはい〜、楽しくお食事中のお客さんに迷惑だから、ちょっと外へ行こっか〜」


「なっ、何だお前はっ! イテテテててっ!! 放せっ、痛いだろがっ!!」


一人をグイグイ押し出しながら、他の数人からの攻撃をヒラヒラ(かわ)す。


器用に足で蹴飛(けと)ばして仕返しまでこなしているのだ。


入り口の扉が閉まり、店内に静けさが戻る。


そっと窓から外を(のぞ)くと、オルンさんが襲いかかった数人を(なぐ)(たお)しているところだった。


すげえ……強いな。


大人の(かえ)()ちって、ああやるのか。


何だか、すごく格好いいかも。






 あれでちょっとした怪我人(けがにん)くらいは出ただろうが、そのあとは何やら穏便(おんびん)に話をしているようすだった。


少しすると、(おび)えたような男たちを乗せて馬車は静かに走り去っていった。


同時に、店内にはホッとした空気が漂った。


ヤレヤレ。







 しかしオルンさん、彼らに一体何を言ったのだろう。


店内に戻ってきた薬師さんに親父さんが不思議そうにたずねると、オルンさんはニカッっと笑って答えた。


「何てことはないよ、奴らよりも強力な後ろ盾が居るって教えてやっただけさ。これでも大陸中で商売をしている身だからね、色々と偉い人ともお知り合いなんだよ」


どんな知り合いがいるかは内緒(ないしょ)なのだと彼は言う。


「信用は商売の(かなめ)だからね、お客さまの秘密は厳守(げんしゅ)っていうことで」


誰にも教えるつもりはないようだ。


気にはなるけど仕方がないよね。


気にはなるけど。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] |道理《どうり 》 途中に改行が入っているようで、フリガナになっていませんでした。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ