20)肉ニクお肉っ♪♪♪
夕方まで部屋で休んで、夕食を食べようと一階の食堂に降りてきた。
厨房では強暴親父が忙しそうに立ち働いている。
食堂内は泊り客や食事客で混んでいて、女将さんが空いているカウンター席に案内してくれた。
オルンさんが注文を伝える。
「日替わりのメニューと果実水を二人分」
「はいよ。どちらも二人分だね」
二人で宿屋と食堂を切り盛りしているため、朝昼晩の全てが日替わり定食のみだと説明された。
飲み物は葡萄酒か発泡酒か果実水のどれか。
他に選択の余地はないらしい。
そんな感じで、店内の人々は誰もが同じようなものを美味しそうに食べたり飲んだりしているのだった。
厨房に面している席から親父さんの仕事ぶりを観察していると、大鍋から手早くスープが注がれ温野菜と肉の塊がのせられた大皿が二人分用意された。
目の前にトトンと置かれた料理は出来たてのホヤホヤだ。
「今日は森の猟師から良い肉を仕入れることが出来たんでな。大サービスで、野牛のステーキだ。サラダも裏の菜園で採れた新鮮な野菜を使っているからシャキシャキして美味いぞ〜」
怖い顔の親父が、にぃ〜っと良い笑顔で教えてくれる。
たまたま知り合いの猟師が野牛を狩ることが出来たのだそうで……料金お高めでも、これを食べられる今日のお客は幸運だったということらしい。
スープは牛と香草を煮込んだ出汁が決め手の特製なのだそうで、湯気まで美味しそう。
見たこともないご馳走が目の前に現れて、俺はちょっと涙目に。
こんな贅沢しちゃって良いのかな……お腹を壊さないかな……。
不安と期待が胸の内でぐるぐる回る。
だいたい野牛なんて、名前くらいは知っていても食べたことがないんだよ。
「……ぉ、大きい。食べきれるかなコレ。おれ、半分くらいで満腹になりそう……」
「なんだ坊主、男ならそんくらいペロリと平らげるだろが? 小食な奴だなあ。それなら、隣の兄さんに手伝ってもらえは良いんじゃないか?」
弱気な言葉に親父さんがフォローをくれた。
「えっと……オルンさん、お願いできる?」
「もちろんさ。でも、君も無理のない範囲でしっかり食べなきゃダメだよ?」
「うん。すごく美味しそうだから頑張って食べるよ」
お隣の協力を取りつけたので安心して食べ始める。
ナイフとフォークを使っての食事も初めてなので、ぎこちなく肉を切り分けて一口。
口の中いっぱいに広がる旨味。
それをムギュムギュ噛みしめて、ゴクリと飲み込み───夢中でそれを繰り返す。
隣の席から指導がはいる。
「ほらほら、野菜も食べるんだよ?」
「ぅんぐんぐ……ふぁい……」
行儀が悪いがモグモグしながら返事を返す。
うん、深皿山盛りのサラダも美味しい。
酸っぱいソースがあとを引く。
「ガハハ。坊主は細っこいから、しっかり食べて体力をつけなきゃな」
「……ふぁいっ……」
肉、肉、お、に、く。
たまにサラダとスープ。
どれもめちゃくちゃ美味しかった。
こんなのは初めてだ。
孤児仲間や院長先生にも食べさせてやりたかったな……。
目頭を熱くしながら、俺は一心不乱に幸運な晩ごはんと向き合った。
そして案の定、志半ばにして脱落したのだ。
涙をのんで半分以上をオルンさんに引き渡す。
目の前の籠に盛られた黒パンは手つかずなまま。
「……くっ……無理。お腹が……苦しい……」
もっと食べたいのに。
もう無理だった。
うぅ、無念。
果実水で喉を潤して、はふぅ〜っと溜め息を吐き出した。
くせのない清々しい甘味が、すうっと身体を通り抜けてゆく。
今は白葡萄の収穫時期で、これは新鮮な果汁と湧き水を混ぜて作ってあるという。
あぁ……何てことだ。
俺は何にも知らなかった。
贅沢は敵で、覚えてしまったら後戻りはできないと、村の婆さまたちが言っていたから……知る必要もないと思ってた。
井戸の水も良いけれど、こんな美味しい飲み物が隣町にあったなんて知らなかったんだよ。
胸いっぱい腹いっぱいって、こういう感じだったのか。
孤児院を巣立ったこの日。
俺は美味しいごはんという幸せを、うっかり知ってしまったのだ。




