不本意な職業事情というわけで
アイシス=フォルテイスは騎士になりたかったわけではない。
むしろ、こんな荒っぽい命がけの仕事なんて、真っ平御免だったのだ。
彼は、とにかく穏やかな職場を希望していた。
王国の学院を卒業した時は、確かに治療師として国が運営する治療院に就職した筈だった。
治療魔術どころか魔術系統は殆ど使えないことになっている出来損ないではあったが、見習いの新人治療師として忙しくもやりがいのある毎日を過ごしていたのだ。
どうして治療魔術が使えないような出来損ないが、治療師になれたのか。
治療に用いる技術である治療魔術は、適性を持った人にしか使用できない。
そして、適性がありその技術を習得できる者はものすごく少なかった。
適性がある者は万人に一人ともいわれ、技術を習得するためには高額な学費を支払って高等学院で専門的な勉強をする必要があり、才能と財力の両方を備えたものは極めて稀だ。
そんな訳で、国立の治療院でさえも慢性的に人手不足だったのだ。
似非治療師でも、落ちこぼれでも、とにかく猫の手でも借りたいくらいの悲惨な現状だったりする。
それを少しでも改善するために、最近では魔術以外の治療法を採用するようにもなったのだ。
魔術に頼らない方法────薬学、医学、衛生管理学、整体学……はては民間療法まで。
そんな学問や技術を身につけた者たちも、治療に有用だと判断されればなんとか治療師として取り立ててもらえるというわけだった。
彼はたとえ見習いの下働きだとしても、治療師として職につけたのはとても幸運なことだと思っていた。
雑用しか仕事が無くても、上司に使えない奴だと馬鹿にされても、命を取られる心配のない平穏な職場に十分満足してもいた。
何ごとも生きているからなせるのだ。
“命を大切に”それが小心者な自分の基本方針なのである。
・・・・・ ・・・・・ ・・・・・ ・・・・・ ・・・・・
それなのに、どうしてこのような黒くて重たい装備に身を包み、物騒な長剣を振り回す羽目になってしまったのだろうか。
個人的には、甚だ不本意なのだった。
あのとき、狸上司が体のいい厄介払いとばかりに自分を戦地の救護班に送り込んだりしなければ。
あのとき、最前線のボンクラ将軍が敵軍に手の内を読まれて総攻撃をされるなどという失態をやらかさなかったら。
──────もしそうだったなら……もしかしたら状況は違っていたのだろうか。