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12)里の民と森の民

 



 深夜の寝室で長々と二人で話をした。


寝室といっても、孤児たちが思い思いに雑魚寝するだけの部屋である。


隣同士で横になり、寝具は薄い毛布だけ。


それでも、俺たちにとっては安心して眠りにつける古巣のような場所だった。


建て付けの悪い閉じっぱなしの窓からは、優しい月明かりが差し込んでいた。





 大陸中を旅して歩いている現役の薬師さんは、話題が豊富で話し上手だ。


かつて交流のあった海沿いに住んでいたという海洋種族の話や、地下深くに坑道を掘り進んで広大な地下都市をつくっているという小人族の話など次々に話題が移り変わって、ついつい眠気も忘れて聞き入ってしまう。


そして、遺跡の話に。



 

 オルンさんの話によると────元々はエルフなんていう種族は存在しなかったらしい。


エルフどころか獣人族も小人族も。


古記代(こきだい)と呼ばれる最古の記録が残る大昔の話。


其々(それぞれ)の特性をもった人はもちろん存在していたが、種族ごとに別れていなかったということらしい。


犬っぽい人もエルフっぽい人も、小さい人も大きな人も、ゴチャ混ぜで仲良く暮らしていた時期があったのだという。


人間族にしか会ったことがない俺には、ちょっと信じられない話だ。


そう言ったら、目の前にエルフの薬師が居るじゃないかと言い返された。


さっき耳を見せてはもらったが、未だに現実味がわかないんだよ。


現実を飲み込めない俺を置き去りなままで説明が続く。


「諸説あるんだけれど、初期の人類は里の民と呼ばれた社会性を持ち集団で暮らす人々の集まりだったと考えられているんだ。彼らは住みやすい場所に里というコミュニティーを形成して各地の条件に適応しながら生活していた……この大陸にも様々な遺跡が残っているから、里はたしかに存在していたのだと思う。オレもあちこちの遺跡を見て回ったけれど、中々に面白い場所だったよ」


大昔の人たちが暮らしていた場所を掘り起こして調べている学者さんがいるっていうのは、院長先生に聞いたことがある。


考古学とかいう分野の学問なのだとか。


住居の跡とか倉庫の跡とか、ゴミ捨て場や墓場跡まで調べるって聞いたときには驚いた。


そこから沢山の埋蔵品(まいぞうひん)が発掘されて、その資料を使って学者先生方が色々な推測をしたり本をまとめたりするんだって言っていたな。





 ぼんやりと思い出している間にもオルンさんの話が続く。


「……その集団には大きな身体の者もいれば小さい者もいたし、魔法を使える者も使えないものもいた。ありとあらゆる特徴をもった人たちが、一緒くたに暮らしていたらしい。そこに、段々と同じ特徴や考え方を持つグループができあがり其々が里から独立して別れていったのが各種族の始まりなんじゃないかっていうことになっているんだよ」


俺は遺跡に行ったことがないから本当かどうかはわからないが、そういうことにしておこう。


「オレたちエルフの先祖たちも、里の民から離れて森で暮らすことを選んだんだ。だからエルフは森の民とも呼ばれいるし、自分たちもそう名乗っている。きっと森の暮らしがエルフの特性に合っていたんだね……森のエネルギーを取り込んで、森の民は魔力と長寿を手に入れた。森さえあれば他に必要なものはなかったのだろうね……権力闘争を好まないエルフは、他の種族と交流を持たずに森の中だけでひっそりと暮らしてきたんだよ」


「ふ〜ん……それじゃぁエルフって森に沢山いるんだね」


森の中で賑やかに暮らす彼らを想像した。


「いや、残念ながらそういうわけにはいかなかったんだ。膨大な魔力と寿命を手に入れた代わりに、エルフは繁殖力を失った。時が経つほどに生まれてくる子どもの数が極端に減ってしまったんだ。オレは生まれて数十年なのだけれど、これでもまだまだ若い方っていうか子ども扱いなのさ。近頃では、百年に一人くらいしか赤子が生まれた話を聞かないな」


はっきり言って絶滅危惧種族(ぜつめつきぐしゅぞく)なんじゃないかと薬師さんが苦笑する。


「森に残っているのは超保守的な年寄りどもと、奴らが過保護に囲っている甘ったれた若いエルフばかりだよ」


「えっと、この村も若者が出て行っちゃってお年寄りばかりになったって大人たちが言っていたけれど……同じようなものなのかな? 過疎化? 少子高齢化? ちょっと違うかな?」


人間族はエルフと比べればかなりの子沢山なはずだけれど、みんな大きな街へと移り住んでゆく。


人間族全体のことは知らないけれど、村では若い世代と幼い子供が減り活気がなくなっているのは確かだった。


田舎に残されるのは年寄と貧しい家庭の子どもたちだと言ってみる。


オルンさんは、エルフの場合は種族全体の深刻な問題が原因なのだけど共通点はあるかもねと(うなず)いてくれたのだった。


「詳しいことは教えられないが、グリセラ大森林はゆっくりと破滅に向かっているんだ。年寄りどもにそれを何度訴えても、ちっとも聞いちゃいなかった。しきたりだの(おきて)だのに(しば)られて、誰一人として森の現状を理解して調べようとはしなかった。あのままだと遅かれ早かれ森全体が枯れてゆくかも知れないっていうのにさ。……そんな奴らと付き合っているのがバカバカしくなっちまってね。オレたち兄弟は森を抜け出して、他種族と交流して生きてきたんだよ。いわゆる変わり者で異分子な、はぐれエルフっていうわけさ」


ここの村の若者たちも、もしかしたら年寄りどもに愛想を尽かしたのかもなぁと彼が言った。








 異種族同士の婚姻なんていう話にもなった。


「はぐれエルフはオレたち兄弟の他にも沢山いてね、君の父上……オレの叔父でもあるのだけれど、彼もその一人だったんだ。何人ものはぐれエルフが森を出ていって、他の種族と恋に落ちて結婚したりしたんだよ」


「ふうん……俺の両親もそんな感じだったのかな。っていうか、今更だけど種族が違っても結婚できるんだね」


「まあね。同族同士で結婚するのが一般的だが、よほど種族間の相性が悪くない限りは可能だよ。人間族はエルフと似たりよったりに保守的だから他種族との婚姻は珍しいだろうけれど、他の種族同士ではわりとあるみたいだね」


そうすると、違う種族の二人の間に生まれてくる子どもはどちらの種族になるのだろうかと質問をしてみた。


人間族同士の夫婦にしか会ったことがないから、人間族の子どもしか知らない。


他種族の赤ちゃんって可愛いのだろうかと、ちょっと気になったのもある。


「両親のどちらかの種族として生まれてくるよ。いわゆる混血、両方の特質が混ざるということは基本的にはないんだ」


兄弟姉妹で別の種族ということもよくあるらしい。


隔世遺伝と言って、祖父母とかの特性を受け継いじゃう子もいるらしい。


もしそうなったら、ややこしいことになりそうだ。



「そういうことは滅多にないだろうし、エルフと他種族との間にエルフの子どもが生まれたっていう話は聞いたことがないんだよ。だから、おそらく君たち双子も人間族っていうことで良いんじゃないかなと思っている」


俺の双子の妹は、母親似の可愛らしい女の子だと教えてもらう。


「君の黒は、きっと父親ゆずりなのだろうな。叔父は深い夜色の髪と目を持っていた」


「そうなんですか……俺とおんなじ黒髪だったのか。……会ってみたかったなぁ」


「ちょっと短気なところがあったけれど、優しくて綺麗な人だった。彼を亡くしてしまったなんて……本当に残念でならないよ」


グリセラの話は秘密事項が多くて、他種族である俺にはたとえ父親のことだとしても詳しくは教えられないのだと謝罪された。


「そして、これも申し訳ないのだが君たち双子がエルフの子どもだということも秘密にしてほしい。君たちの母君やご家族も、この件については了承済みなんだ」


「……わかりました。あと、オルンさんがエルフでグリセラの出身だっていうことも秘密ですね?」


「ああ、そうしてくれると助かるよ。できれば契約魔術(けいやくまじゅつ)守秘(しゅひ)を誓ってもらいたい」


「わかりました。それって、どうやるんです?」


「オレが唱えた呪文に、同意すると答えてくれたら完了だ。大丈夫かい?」


「わかりました」


オルンさんは小声で長々と呪文を唱え、俺はそれに同意の答えで応じて契約魔法が成立した。


それは、今日ここでの会話の内容を誰にも明かさないという内容のものだった。





 すっかり深夜まで話し込んでしまい、いよいよ眠くなってきた。


隣に横たわる人におやすみなさいと言えば、ワシワシと髪の毛をかき混ぜられて、おやすみと上掛けの薄い毛布をかけられる。


孤児仲間は年下ばかりで自分が面倒を見る立場だったものだから、何となくこそばゆい。


兄貴や父親って、こんな感じなのだろうか。


ほんのりと嬉しい思いがこみ上げた。


寝付く俺の枕元で、オルンさんは叔父さんをとっても誇りに思っていると力説し、君の父親は素晴らしいエルフだったと囁いた。







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