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11)あとに続いた夢と希望っていうか体操っぽい武術?の話


 とりあえず魔力暴走の心配がないということがわかっただけでも良しとしなければ。


でも、つい未練がましく聞いてしまう。


「……安全なのは良かったですが、やっぱりおれは魔法が使えないっていうことですよね……」


「う……ん、今のところは、そうだね。ただ、体内で高速で魔力を循環させられる能力持ちは希少なんだ。才能もあるだろうが訓練が大変なんだよ。魔力循環って、身体の持ち主が意識して訓練しないと通常は高速化しないんだけれど……君、何らかの訓練とかやっていなかったかい?」


「……?? 訓練、ですか? そんなのじゃないですけれど、院長先生に教えてもらった変な体操は毎日欠かさずやってます。それをやらないと調子が悪くなるくらい生活の一部分になってます。先生からやれと言われたのは、それだけですよ? あとは行儀(ぎょうぎ)よくしろとかイタズラするなとか、そんなんでしたし」


「体操……もしかして、三百数種類の型があるアレのことかな?」


「えっ、オルンさんもアレを知っているんですか?」


「ああ、もちろんだよ。師匠直伝の変なポーズばっかりのやつ……そうか、アレが魔力循環の訓練になっていたのか。ははは……納得したよ」


「納得、ですか?」


「ああ。アレはエルフに古くから伝わる鍛錬法の一種なんだ。沢山の型をつなげて身体を動かしていく。ゆっくりとした動きから超高速の連続技まで、組み合わせも方法も多岐にわたって中々に奥深いんだよ。師匠は、とくに重要な三百六十の型を基本にしていたのだけれど……本格的になると千を超える型があるらしいんだ。オレも三百六十しか知らないけどね」


「へぇ……そうだったんだ。おれは教えてもらったとおりの順番で、ゆっくりと毎日同じことを繰り返していただけですよ。高速連続技とかあったんだ……それなら、もっと色々と知りたかったなぁ」


「いやいや、その年でアレを毎日欠かさずやってるだけでもすごいよ。結構キツイ動きが多いからすっかり廃れてしまって、今ではエルフでも全部の動きを習得している者は少数なんじゃないかなぁ。オレも師匠に無理やり叩き込まれた口だから。アレを極めたいだなんて、君も物好きだなぁ」


「……そうですか? 早くできたら格好良いじゃないですか。何かこう……研ぎ澄まされた舞踊みたいっていうか……」


「ああ、なるほど……舞踊かぁ。どちらかって言うと武術なんだけれどね、アレって」


「そうだったんですか!? なおさら格好良いじゃないですか。いいなぁ」


「ははは。エルフの間では、時代遅れですっかり廃れた体術っていう扱いなんだけどねぇ」


魔法から意外な話で盛り上がったのだった。


健康に良い体操だと思っていたものが武術だったなんて。


我ながら落ち込んだり興奮したりと忙しいが、ちょっとだけテンションが上がってしまった。







 体操の話が一段落すると、オルンさんが俺の耳を指差して言った。


「両方の耳たぶを少しだけ強めに押してごらん」


言われた通りにしてみると、コリッとした麦粒くらいの大きさの丸い塊が二つずつ並んでいるのがわかった。


「君の両方の耳には、色のない魔石が二つずつ埋め込まれている」


「魔石、ですか?」


自分の身体なのに、そんなモノが埋まっていたなんてちっとも知らなかった。


今まで気にもしていなかったし、普通に触っただけではわからないほどの大きさなので気づかなかったのだろう。


「それぞれの石に結界と封印の術式が内包されているはずだ。それらが君の魔力を封じる役割を果たしている。単純に魔石を取り出せばいいじゃないかと考えるかも知れないが……ちゃんと解術してからじゃないと術式そのものが暴走して所持者の命が吹き飛ぶ可能性が大きいから、絶対にやらないように」


「げ!?」


そんな物騒なモノを勝手に人の耳に取りつけないでほしい。


今まで存在すら知らなかったモノのせいで、耳たぶがズシッと重たくなった。


「それと、どの石かはわからないが……君の記憶にまで干渉していると思う。恐らくだけど、魔石の影響で忘れちゃっていることがあるかも知れないな……」


「……そんな。……おれは、一体何を忘れているんです? もしかして、勝手に頭の中や心の中までいじられてるの?」


うっかり物忘れをするとかならば自分の責任だ。


それならば仕方がないと思う。


けれど、知らないうちに誰かによって理不尽に思い出を奪われていたかも知れないと聞かされて、言いようのない複雑な気持ちになったのだった。


オルンさんが自分の推測を語る。


「ごめんよ。それはオレにもわからない。……たぶんだけど、グリセラ関係のことを知ってしまって、その部分を封じてあるんじゃないかな」


ううん……。


もしかしたら、そうなのかも知れない。


俺はよく院長先生の部屋に忍び込んでいたから、都合の悪いものを見つけちゃったりしたのかも。


院長先生が居なくなってしまった今では、確かめたくても無理な話だ。


忘れている何かがあるということすら忘れているのだから、お手上げなのだ。


信じていたはずの院長先生が、ちょっと怖いと思った瞬間だった。


「えっと、これって解術しなければ……ずっとこのままなのかな?」


「……うん。そういうことになるね」


俺の問いかけに、オルンさんは言いにくそうに重たく答えた。


そして、院長先生が仕方なくそうしたのだろと言った。


「おそらくだけど、君の記憶か命かのどちらかを選ばなくてはならない状況になったんじゃないかと思う。むやみにそんなことをするような人じゃない……どうか信じてやってほしい……」


「……そっか。きっとおれは、知っちゃいけないっことを知ってしまったのかも知れない」


「師匠に直接聞けなくなっちゃったからな。真相はわからないけれど、推測としてはそんなところだよ。力不足で申し訳ない……」


思いがけない話を聞くことになって動揺してしまったが、まず落ち着かなくては。


落ち着け、自分。


そう。ちょっとした事実が判明しただけだ。


別に今までと何かが変わるわけじゃない。


いや、色々と当初の予定から外れまくっているのだけれど……決して悪いことじゃないはずだ。


行き先も将来も、夢も希望もないはずだった俺を、こうして迎えに来てくれた人が現れたのだ。


ごねたり()ねたりじゃないだろう? ありがたいことなのだもの。


心のなかで、そんな自分なりの結論を出すことができたのだ。





 そうだ。


ならば、言う言葉は決まってる。


「オルンさん、話してくれてありがとう」


俺の反応に、薬師さんはちょっとだけ面食らったようだった。


でも、すぐに気を取り直して答えてくれる。


「……全部を語ることができなくて申し訳ない。今、オレが君に話せることはここまでなんだ。師匠との契約とか一族とのしがらみとかに(しば)られていて、これ以上は情報を()らすことができないんだよ」


「本当は、教えちゃいけないようなことまで話してくれたのでしょう? ……おれみたいな子ども相手なら、いくらでも誤魔化せたのに。オルンさんが叱られたり処罰されたりするのはいやだから、ここまでで十分だよ」


そんな会話の後で薬師さんが困ったように笑う。


「まったく、君ってば子どもらしさが足りない子だよ」


「それって、()れっ()らしっだて言いたいの?」


「いや、()めてるんだよ……一応は」


「ううん、ちっとも褒められた気がしないんだよ」


結局は憎まれ口を叩きあって、二人でハハハっと笑いあった。







 気がつけば夕日は山の向こうに沈みきり、辺りはすっかり暗くなっていた。


魔道具だという魔石ランプに明かりを灯して、薬師さんが持参していた堅パンと干し肉を分けてもらって夕食に。


台所の食材はお昼のときに全部を使い切ってしまっていたからね。


歯ごたえのある堅パンをモギュモギュと噛み締めつつ、沸かした井戸水を喉に流し込む。


塩味が効いた干し肉を咥えてグイーッと引き千切るのも野性的でちょっとワクワクしてしまう。


オルンさんにとってはこれがわりと日常な食事風景らしいのだが、俺には中々に面白い食事体験となったのだった。






 食事のあとは寝るばかりとなった。


田舎の村には暗くなってから楽しむような娯楽はないし、たとえあったとしても孤児である俺たちには縁のなかった代物だった。


明かりを消してさっさと眠ってしまうに限るというわけだ。




 だがしかし、色々ありすぎて眠れそうにない。


どうやら俺は自分では冷静なつもりでも、少しばかり興奮状態なようだった。


多少は疲れているはずなのに、一向に眠気がやってくる気配はなかった。


寝室の薄い寝具の上で、無駄に寝返りばかりを繰り返していたのだ。


そんな俺のようすに気がついたのか、オルンさんは旅の話や自分のことを遅い時間まで離して聞かせてくれたのだった。





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