『順応』とイレギュラー『不死者』
再び目を覚ますと次は打って変わって真っ白な部屋だった。先程と同じく先は見えない。
「こんにちは〜」
急に後ろから声が聞こえた。振り返るとそこには女性がいた。腰まで伸びる綺麗な髪の毛。容姿がとても整っているのは分かるがハッキリと認識できない。顔に薄くモヤがかかっている感じだ。
「俺って死んだのか?」
いや死んだはずだ。さすがにあそこから生き残れるとは思っていない。
「うん、しんだよ。」
「やっぱりそうか。ここはあの世なのか?」
「この場所に名前はないけど君たちの言うあの世とこの世の間ってところかな」
女性は楽しそうだった。悪巧みをしている子供のような表情をしているような気がするがやっぱりハッキリはわからない。
「俺はこの後どうなるんだ?」
「それがね、普通は人が死んだら地球の人間としてもう一度転生させるんだ。けれどごくたまに、まあ確率としては100年に1度くらいに死んでから転生までの間に力を授かってしまう者がいるんだ。それが君。」
「力?それを授かったから俺は転生できないのか?」
「まあそういう事だね。このまま地球に転生させたら地球が大騒ぎになってしまう。」
確かにそうだと思う。力とやらがどういうものかは分からないが瞬間移動出来る人間がいたら大事じゃ済まないだろうからな。
「どうして俺なんだ?」
「いい質問だね。君は死んですぐなのに冷静だ。」
「死んじまったんだから今更騒いでも仕方ないだろ?」
「確かにそうだけど...まあいいやどうして君なのかだったよね。それは僕にもわからないんだ。君たち人間にも解明されてないことがあるように僕ら神にも解明されてないことがある。これがそのひとつ。授けているのは僕らなんかよりもずっと力のある存在なのは確かだね。僕らにそんなことは出来ないから。」
「授かるってもしかして黒い部屋が関係あったりするのか?」
「?なんだいそれは。授かる時間は刹那だ。君たちが認識できるような時間じゃないから黒い部屋とやらはわからないね。」
俺はこの部屋に来る前に聞こえた声を思い出す。ならあれはいったい誰の声なんだ?
「どちらにせよ君に力が授けられたということは君は気に入られたという事だね。どちらにせよ地球には転生させられない。」
「そうか。ちなみにどんな力なんだ?」
「君の力は『順応』だね。あらゆること、物への適応。つまり君を火の中に放り込んでもしばらくしたらその中で生きられるようになるってことだね。」
「なんだその力。なんかしょぼくないか?」
「はぁ。この凄さが分からないのか...」
「なんだよ説明してくれよ。」
「生き物は長い長い年月を経て進化する。足が生えたり翼が無くなったりさまざまだ。それが君は1分にもみたない時間で出来る。やはりこれは異常だよ。」
「そう言われると凄いな。それで結局俺はこの後どこに転生させられるんだ?」
「そうだね、そろそろ時間だね。君がこれから行くのは剣と魔法の世界だ。日本とは比べ物にならないくらい血にまみれた世界だ。まあ『順応』があればなんとかなるだろう。
それじゃあ少し待って転生者は背中に能力を刻んだ紋章を入れなければならない。安心していいよ人間には読めないし神の中でも読めるのは数人だ。」
その女性が裸の俺の背中に手を当てる。瞬間眩い光が広がった。それが納まった瞬間女性が固まった。
「あの、どうしたの?」
「ちょちょちょっとまって何これおかしい。こんなはずは...」
明らかに取り乱している。俺からしたらこんなに不安になることはない。もしかしてやっぱり普通の人間でした。とか言われても覚悟を決めた今更は困る。
「なんかあったのかって!」
少し強めに言ってみた
「い、いえそれがさっきまで異能は『順応』しかなかったはず。それが今は...これは『不死者』?」
女性の言っている意味がわからない。パッと見は『順応』だけだったはずなのに紋章を刻むと『不死者』が現れたってことか?てかなんだ『不死者』って。死なないってことか?無敵ってことか?
「不死者ってまさかあの方の能力。あの方が魅入られた?まさか、そんな。っ!!時間が無い!とにかくあなた!名前なんでしたっけ!のぞむ?のぞむくん!あなたには何故か力が2つある。ひとつは『順応』で2つ目が『不死者』。2つ目は能力が何かに隠されていて全く見えなかった。向こうの世界に神殿があるからそこを尋ねて像に向かって私に会えるように祈って!そしたら会えるから!その時にもう少し詳しく説明するわ。そろそろ時間だね。君は不思議だ。僕はここから君を見ていよう。」
喋り口調がぐちゃぐちゃになっているがそれだけ焦っているのだろう。
「あ、ああ分かった必ず神殿に行くよ。」
「君がこれから行くのはノワールって大陸だ。君の向こうでの幸せを祈って」
瞬間また意識が無くなった。なんかすごいドタバタしたけどこれから異世界に行くのだろう。どんな所でどんな出会いがあるのか少し楽しみだったりする。
誰もいなくなった空間で生命を司る女神は呟く。
「黒い部屋、それに『不死者』。まさかあの方が力を授けたってこと...」
次回から異世界へ