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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

シュークリーム

作者: ゴリラ3

 僕はシュークリームが大好きだ。

 好きなお菓子は?と聞かれたら即答するし、テレビ番組のスイーツランキングなんかでトップにないと怒るほど大好きだ。勿論三食シュークリームだっていいし、一か月シュークリーム生活だってどんとこいだ。

 シュークリームを生み出した人を、僕は心から尊敬、いや崇拝しているといっても過言ではないが、ホイップクリームが入っているもの、あれはだめだ。あれを思いついた人は末代まで祟られたらいいと思う。シュークリームにはカスタードだと、相場は決まっているものだ。カスタードにバニラビーンズくらいでいい、シンプルなものこそ真価が光る。

 そんな僕は、夢にまでシュークリームを見る。アレにまみれる子供じみたものから、至高と言えるソレにかぶりつくものまで様々だ。

 ある日、僕は今までにないくらい大きいシュークリームに、夢の中であいまみえた。僕はシュークリームに対して、夢でもリアリティを求めている。いままでは出てきても、大きくても僕の手のサイズを越える程度だったが、今回はそれを遥かに上回っていた。

 

 僕の体そのものがシュークリームになっていた。

 真っ暗な空間で佇んでいた僕は、ただ何となく自分の指にかぶりついた。理由ははない、無意識による行動だった。するとどうだろう、口の中いっぱいに食べなれた愛すべき味が広がるではないか。自分の指ということを忘れて?みちぎった。柔らかい。

 流れるのは血ではなくカスタードだ、あるのは皮膚ではなくキャベツの名を冠する皮だ、支えるのは骨ではなく散りばめられたバニラビーンズだ。

 人差し指から小指までを食い尽くすと、服を脱ぎ捨てた。無事な手で体を確認すると、全身が触りなれたシュークリームの感触がした。 

 僕は歓喜と恐怖、欲望に取り憑かれ手当たり次第に食べ進めた。自分自身が愛すべきモノになった歓喜と、このまま全部食べたらどうなってしまうのかという恐怖。そしてそんな考えはどうでもいい、虫歯に侵された歯のように思考は溶かされ、欲望のまま体にかぶりついた。

 手は残した。変なところで冷静なのか、口が届かない場所を考慮してだった。足首を引きちぎり、へそを抉り、カスタードが詰まった頭を引きちぎった。


 どれほど食べ進めても痛みを感じなかったのに、すでに無くなっている脳天を貫くような衝撃が走った。僕の至福の時間は終わり、最悪な起こされ方で目覚めた。


 目が覚めた僕は、夢の終わりに頭を抱えた。二度寝をしようかと思ったが、薬が切れて眠れる気がしない。朝から絶望感に苛む。

 ふと、自分の手を見た。皮に筋肉やら血管やらが詰まった、シュークリームというよりソーセージと表現した方がいいものを、じっと見つめる。

 そこからは無意識だった。まずペロリと舐めてみる。なんだか甘い気がした。日ごろから手づかみでシュークリームを食べてるからだろうか。何度か舐めて、気のせいレベルの甘さを確かめる。

 下を絡ませるのを止め、歯で挟み込み顎に思い切り力を加える。中々噛み切れない。布団が血で汚れるし痛いが、普段の嫌になる痛みよりマシだと思えた。筋肉や脂肪を削り、血管をちぎり、骨に到達する。硬いが、僕の情けない歯と顎が頑張ってくれた。口の中で鈍い音がして、肉団子より質量があるものが転がる。

 甘くない、けど甘い気がする。甘味を求めて夢を再現する。

 僕の中で痛みと共に幸福感が溢れてきた。

 僕が僕の中に溜まっていくたびに、僕が抜けていった。だんだん思考が鈍り、本当に甘く感じてきて、甘い肉を食らった。いや、肉ではない、これはシュークリームだ。久しびりのシュークリームを食べているんだ。人型のシュークリームを食べたのは人類史上僕が初めてだろう、光栄だ。


 甘ったるい終わりに近づきながら、僕は最後にこう思った。


 ああ、これで虫歯に悩まずに済む。

    


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