7. 人体練成室
「55階です」エレベーターのアナウンスがそう告げる。先生がエレベーターを降り俺も続けて降りる。
まず感じたのは薄いオレンジ色の光だった。どことなく重力が他の場所より軽いような気がする。浮遊感があった。
だけど、足はちゃんと床に着く。クリーム色の床は硬いけれど、どこかスイーツの初めの一口のようで足と接触すると靴底を柔らかく包みこむようであった。
「ここが入学儀礼を受ける場所よ。名前は人体練成室」スカーレット先生がそう言った。
薬品の匂いはしないが、更衣室のような匂いがした。ここにいる生徒の汗や吐息がキュッと閉じ込めて息をひそめているように。
その場所はただ眠っていた。
やっぱりサクラは俺の手を軽く握っていてくれて中に入ってくる。サクラの手は温かったが、室内はひんやりとしていた。
スカーレット先生が奥に進むので俺とサクラも見失わないように後を追う。
白い棺桶の形をしたバスタブが二つ離れてあった。
「このバスタブに入って、安パイ君」
俺は言われた通りバスタブの中に入って寝そべった。
バスタブの上にはやはり金色の蛇口があって先生がそれをひねる。温かいお湯がどんどんと入ってくる。
「頭までもぐっちゃって大丈夫だから。お湯の中では息が出来るわ。魚になった気持ちでいて」先生の声が聞こえてくる。
そのお湯に当たっていると気持ちがとても落ち着いてくる。それは一体感があって、ゆるやかに俺の内部へと入ってくる。
なんだか催眠にかけられるように俺は頭の底まで液体で満たされて、この上ないほどリラックスしていた。
水底から外をのぞき見るとサクラが俺のいるバスタブのそばまで来て顔をのぞきこんでいた。
「いいのよ、アンドー君。眠ちゃっても」サクラは俺をのぞきこみながらそう言う。サクラの声は液体の中から聞くと清らかな乙女のようでなんだか俺はそれに惚れ惚れとする。
俺は眠ってしまった。
気がつくと空のバスタブの底に入っていた。
「あ、起きたみたいね」サクラはそう言って俺に手を伸ばす。俺の片手をつかむと立ちあがらせた。「どう、新しい身体は?」
これが新しい身体か、と思いサクラに掴まれた自分の手を見てみる。青白く透き通るようであった。それでも普通のお肌である。
「待っててね鏡を出すから」サクラはそう言って自分のポケットを漁ってコンパクトの鏡を取り出した。それを俺の顔の前に当てる。
俺の顔はやっぱり男であったが、頼りない美少年へと変わっていた。
「うふっ、可愛い。アンドー君」サクラがそう言って微笑んだ。
「うーん、これはこれで良いかもな」俺はそう感想を言った。いつの間にか服はこの学校の制服になっていた。「身長はやっぱり俺の方が高いな」俺はバスタブから降りてサクラの目の前に立ちそう言った。
「気に入った、安パイ君?それ一生ものの身体だから、大事にするのよ。魂が選びとった身体なんだから」スカーレット先生はそう言って、ブラウンの瞳で笑みを浮かべた。サングラスは今はおでこの上にあった。