52. 不思議の国
今じゃ、この学園と外の世界は分断されていた。その間には深淵があり、その先は何処にも続いていなかった。
俺とサクラはスカーレット先生のあとを追いかけ、パーティー会場から外に出る。
俺たちは住み慣れた学園から外に出ようとしていた。過去という外へ。
不思議の国のアリスのワンシーンのようにスカーレット先生の後ろを追いかけていくと、道の途中で先生は振り返り、微笑みかける。
「あら、あなた達も過去に行きたいの?」
「世界を救おうと思って」
「やり直すのね、本当の意味で過去を」
「はい、先生」
「やぁね、今じゃ私はあなたの先生じゃないのよ。お姉さんでしょ?」と先生はやはり微笑んでいる。
「スカーレット姉さん、世界を救う手助けをしてくれますか?」
「私はいつでもあなたのガイドよ」
「ありがとう、姉さん」俺はそう言うと先生はそのツヤツヤとした唇を横に引き延ばしてから俺の耳元にその唇を近付ける。
「じゃあ、行こうか世界を救いに」それから姉さんは俺の耳のすぐそばでそう言った。「ついてきて」
俺とサクラは姉さんのあとをついていく。
エレベーターに乗り込むと姉さんは364階にボタンを押す。エレベーターが上昇する。
「アンドー君、どうやって世界を救おうとしているの?」サクラが聞いてくる。
「モノガタリを作る、過去の世界で」
「ふーん、小説でも書くつもり?」
「とびっきりのライトノベルをな」
「私も読んでみたいな、アンドー君のライトノベル」サクラはそう言って、クスクスと笑う。
サクラはやはりウルトラマリンの香水をつけていた。
やがて364階に到着する。
「さぁ、行くわよ、ラノベ主人公くん」と姉さんが言う。
姉さんはスタスタと奥に進んでいく。
そして一番奥へと到達すると、そこには古ぼけたエレベーターがあった。
「これは未来と過去のどこの世界のエレベーターとも通じてるの。ここが入口よ」姉さんがそう言ってエレベーター脇のボタンを押す。
中に入ると湿気た匂いとグリーンの植物の匂いがしていた。閉じ込められた庭園を想起させる。
「えっと、行く時間は二十年前でいいわね、世界がちょうど滅亡した頃」姉さんがそう言い、マシンのボタンを弄る。
「ねぇ、アンドー君。ワクワクしない?」
「俺は生まれて初めて緊張してるかもしれない・・・」
「ワクワクしようよ、アンドー君。世界を始めるんだよ?」
「ワクワクしなきゃ、始まらないか、そうだな、サクラ」俺がそう言ったらサクラは笑いながら俺のほっぺたに口づけをした。「アンドー君、ずっと一緒だよ!」
「俺たちはずっと一緒さ」
エレベーターが過去へと転送を始める。
二十年前、世界が滅んだ頃。




