43. 天へと続く
今度はサクラが先生にドライヤーで髪の毛を乾かしてもらっていた。
「サクラの髪の毛が乾いたら私のお願いね、じゃんけんで負けるんじゃなかったわ。めんどくさっ」先生はそう言う。
サクラは耳にカナル型のイヤフォンを突っ込んで、歌を歌っていた。
「サクラのりのりじゃない」
「誰の歌なんですか?」
「やなぎなぎの『アクアテラリウム』」と先生が言う。
やがてサクラの髪が乾いてしまうと、サクラはドライヤーを片手に持って先生の髪の毛を乾かしていく。
ドライヤーのゴーゴーという音に混ざり、おだやかであたたかなサクラの歌声が聞こえてくる。やがてその曲が終わると次の曲が始まる。おそらくランダムに曲を混ぜているのであろう。
今度は心臓の鼓動の音が聞こえてくる。サクラのイヤフォンは爆音で流れている。俺の心臓が一緒に動いているのがわかった。
その歌を先生とサクラは一緒に歌っていく、混ざり合った歌声はどこかの水辺へ俺を運んでいく。
その曲は霜月はるかの『瑠璃の鳥』であった。化け物じみた曲であった。なぜなら、天へと続く鳥の飛翔を描くルートが誰かの手によって分断されていたからだ。その喪失感がちょうどよく俺の鼓動に響いていた。学園と外の世界のように分断された。
「それでサクラ、ステファニーちゃんの夢の中に入った?」
「入ったよー。新しいことがわかったんだ」
「教えてよ」
「二人はね、全人類を収容できる世界を作ろうとしている。ステファニーちゃんとコンピュータちゃんならそれは可能だと思うわ、私は」
「なるほど。でも途中で神様が現れて、それを壊しちゃうんでしょ?」
「そうなるかもね。そうなる前に二人を学園に戻そう」
「なんでですか?全人類を救えるんですよ?」と俺が聞く。
「全人類を救うのは、安パイ君、あなただけなのよ」とスカーレット先生が言った。
「・・・。別に他の二人でもいいじゃないか」
「だめなの。RPGって知ってる?」
「ゲームですよね。俺もやったことあります」
「この世界はRPGじゃないけれど、あなたはRPGなの」
「俺はゲームの中の住人なんですか?」
「この世界じゃない場所から来た人間だから、あなたはゲームなの」と先生が言う。「本当はあなたは別の世界から来たのよ。学園とも外の世界とも違う」
「じゃあ俺の帰る場所は?」
「アンドー君はここにいればいいんだよ」サクラが俺に近寄ってそう言う。ドライヤーはもう終わっていた。「シャワー浴びてきちゃいな、アンドー君。もしかしたら数時間後にはぷんぷんしてるかもよ?」
「わかった・・・」俺は部屋のシャワー室に向かった。
俺が向かう後ろでサクラは歌を歌っていた。the pillowsの『ハイブリッド レインボウ』だった。




