4. ピンク色のサングラス
車内ではエアコンの音と豪快なエンジン音が聞こえていた。
「音楽でも聞く?」先生がそう俺に聞いてくる。
先生はアクセルを黒いエナメルのヒールの付いた靴で踏みしめながらゴソゴソと後部座席に背を向け漁り始めた。
「あった、これこれ。私の中ではカセットテープは現役なのよ」透けて見えるピンク色のテープを片手に持ってそれをカセットデッキに投入する。
すると音楽が鳴り始めた。騒がしい音楽である。シャカシャカシャカとマラカスが鳴り、ピーヒャラピーと笛が鳴る。やがて雷鳴が鳴り響き、ノイズのようなギターの音が爆音で鳴る。
「それじゃ、後少しだからこれ聞いてリラックスしておいて安パイ君」その音楽はジャングルの奥地の秘境でレイヴしているようでとても落ち着いた気分にはなれなかった。
ただ、その音楽は今の車内での猛スピードでの居心地の悪さと共振し、まるで天災かのように僕らをドラマの主役とヒロインに引き立てた。
白い円柱の学校が近付いている。
いやはやこんなハチャメチャなことになるなんて誰が予測しただろう。俺は孤独感を喪失し、車の中でぐらぐらと酩酊し始めた。
学校のパネルを見ると今はスカーレット先生の分身であるドールがリボルバーの拳銃を片手に持ち、カチカチと装弾をしていた。
俺はそれを見ていると視界がチカチカとし始めたので先生にサングラスを借りようと思い口を開く。
「先生、目がチカチカしてきたのでサングラスを貸してくれませんか?」
「あらごめんなさい、気がつかなかったわ」そう言うと先生はまた後部座席に頭を突っ込み(アクセルペダルを踏んだまま)ガサゴソと目的の物を探し始めた。
「見つかったわ。ピンク色のレンズだけどいい?形はハートマーク。こんなん付けてたら君うきうき転校生みたいだけど、まあ楽しそうだしいいんじゃない?」
ホントにサングラスはハートマークのレンズがはめてあり、いかにも派手はでしい代物だったが俺はそれを装備した。
それを装備するとなんだか俺はイケメンになった気がした。サイドミラーに自分の顔を映してみる。
その顔は中々イケイケだったので俺は満足した。
「うっふ~ん、イケてる~!!」先生はそう言うとサングラスをずらしてブラウンの瞳を暗闇から光に差すと俺に向かってウィンクをした。
今になって俺はこの先生はとてもハイでキマっている先生だと理解したのであった。
サングラス越しから学校のパネル動画を見る。
ドールは銃弾を装填したのか、リボルバーの拳銃を両手でしっかり握りしめこちらのほうへ向かって銃口を向けていた。
しかし、その銃は撃たないで手を下してしまうと何気なくポケットにそのでかい拳銃を入れてしまった。
やがてドールはパタリと瞳を閉じた。
その瞬間、人形劇は終わったようで画面が切り替わった。
「あらら、終わっちゃったのね」先生はそう言うと切なげにため息を吐いた。「終わり良ければすべて良し!」
パネルの動画は終わってしまったようで今は何も映されていない。キラキラと陽に輝く白い模様が雪ぼこりのようにパネルに散っていた。
だが今も車内ではやかましい音楽が流れていたが。
そもそもカセットテープって一体なんだ?俺はそんなもの知らない。
学校の道具なのだろうか。