32. 白い光の庭園
俺はエレベーターの中に入ると噴水のポスターの黒ずんだ部分を見つけてそこにカードキーを当てる。
エレベーターが動き出す。
上昇していく。
365とパネルに数字が表示され扉が開かれる。
今度は外は真っ白な光の中であった。全てが光に包まれていた。俺はその先に行くのをためらった。
「来て」その中から声がしてきた。
「その声は、サクラか?」
「そうだよ、アンドー君」
「サクラは俺の部屋で寝てるはずじゃないのか?」
「本当は寝ているのはアンドー君なんだ。私じゃない。ここはアンドー君の夢の中」
「俺の夢の中?」
「ちょっと待って、目を無理に開けようとしないで、現実に戻っちゃう」
「ああ、わかった」
「そんなに薄目にならなくていいのよ。普通にしていて。来て」
俺は深呼吸すると中に足を踏み入れた。
白い光の中に目が慣れていく。そこは庭園だった。薄く濁った透明のビニールに包まれた庭園。
植物たちが咲き、その室内はムッとしていた。その中の花柄の模様がついたテーブルの上にサクラは腰かけていた。
サクラは白色のワンピースを着ていて肩もとにヘビのマークがしてあった。そのヘビのマークだけが濃い緑色であった。
「おはようの反対はなんだと思う?アンドー君?」
「おやすみ、じゃないのか?」
「そうね、じゃあおやすみアンドー君って言おうか?」
「夢の中だしな、それで俺をここに呼び出した理由は?なんかあるんだろう?」
「別に理由なんてないわ。ただ呼んだだけ。私がサクラの木から生まれたってことは話したじゃない?」
「うん、話した」
「私は夢の中にも住んでいるの。現実と夢の中の両方に。それでアンドー君の意識を伝ってこの中に入ったの。ちょうど365階は天国だから。コンピュータが作ったんだけどね」
「じゃあここはコンピュータの世界なのか?」
「そうとも言えるし、そうじゃないとも言える。ここはちょうど狭間なの。コンピュータが作り出したものとあなたとの」
「・・・。深淵ということか?」
「そう、深淵なの。ここから先は自分で作らないといけないの。アンドー君あなたが、この先を、結論の先を導き出すの」
「そんなの簡単じゃないか」
「どうして?」
「ただ生きてさえいればいい、俺がここに生きてさえいれば勝手にコンピュータなんて越えていく」
「そうかもしれないわね。あなたが生きてさえいれば」と言ってサクラは微笑んだ。「時々ここに呼んでもいい?夢の世界の私は現実の世界の私と同じものだけど、アンドー君とも夢を共有したいの」
「時々二人きりで会うのか、365階で。いいぞ、構わない」
「ありがとう」サクラはそう言って机から下りた。
ストンと地面に着地する。地面は白い石で出来ていて靴が触れる音がした。
「もうそろそろコンピュータを超える気がしてるの」
「俺がか?」
「そう、アンドー君と私が。じゃあね、さようなら。おやすみ」
そう言った後俺は自分の部屋で目が覚めた。サクラは先ほど売店で買ったパジャマを着て隣に寝ていた。すーすーと寝息を立てている。
俺はカーテンに近付きそれを開けると外を眺めた。外は暗くて月が出ていた。月は半分で黄色く輝いていた。時計の文字盤が暗闇から光って見える。
時刻は午前2時だった。




