3. ドールと自画像
「きみはまず、入学儀礼を受けないとならないわね。コンピュータによる新しい身体を手に入れるの」
白い円柱の学校が近付くにつれ大きくなっていく。それはまるで要塞であった。あまりにも大きな学園はそれ自体が建物ではなく、山のように大きな街に見えた。
今車が走っているのは霧の上で学園の建物のつぶさな部分まで遠目から見てとれた。
外側から見るそれはつるつるとした真っ白い壁で出来ており小さな窓が壁面に散らばっている。それは模様を描き、絵になっていた。
その絵はアニメチックで扇情的なドールの絵だった。赤いドレスを着込みピンクのガラスの靴を素足に履いて髪の毛を片方の手でいじくっている。
しばらく見ているとその絵は動き始めた。
「ああ、あのパネルを見ているのね。校長先生の趣味で生徒の書いた絵をパネルに映してるの。時々動くでしょ?あれはコンピュータが操ってるのよ」
俺は近付きつつある学園がとても高度な科学の領分にあることを悟った。
パネルに描かれた人形を書いた生徒が俺は少し気になった。
その人形は、人形というものはどこか寂しげだと俺は思っていたがそれは満ち足りたような表情をしていた。
やがてそれは立ち上がり顔がアップで表示される。暗闇から浮き上がるように目元だけ光に照らされる。
その瞳の色はブラウンだった。別に珍しい色ではないが、ちらりと隣の席にいるスカーレット先生を見る。人形とスカーレット先生は瓜二つだった。ベージュのコートを脱いだ先生は赤いシルクの服に漆黒の膝まで隠れるスカートを履いていた。
人形と瓜二つ。
「もしかしてあの絵は先生が描いたんですか?」
「御名答。昔、私が生徒だった時代に描いたのよ。中々上手いでしょ?察しの通りモデルは私。自画像と言ってもいいかな」