26. 仮想夏世界は写真の中に
エレベーターで俺の部屋のある101階に着くと音楽が流れていた。その音楽は俺も知っていた。
「新居昭乃の金の波 千の波だな」と俺は言った。
「そうね、アンドー君。きっとステファニーちゃんがまた選曲してるのよ」
「そっか」俺はそう言って自室へと続く道を歩いていく。音楽が鐘のように鳴り響く。それはきらびやかな金色でまるで太陽のスポットライトのような音だった。
カードキーを使い、自分の部屋に入る。俺は袋に入れてあった写真立てを取り出した。
それをベッドの上に張ろうとする。
「たぶん、ピッタリ壁に吸いつくと思うからそうしてみて」サクラそう言った。
サクラの言うとおりしてみると本当に写真立ては壁にピッタリと張り付いた。
「そう言えばこの写真の中に入れるらしいな、入ってみるかサクラ?」
「そうね、入ってみよう」
俺は写真に手を触れた。そうしていると意識が絵の中に少しずつずれていく。部屋の向こう側に行くようで、その向こう側にはさきほどの『金の波 千の波』が流れていた。
サクラもそれに手を伸ばす。
そうして俺とサクラはコンピュータの仮想空間である、写真の中身へと入った。
写真の中は夏のようで太陽の日差しがそれをものがたる。
写真の中のサクラは静かな寝息を立てており、俺と現実のサクラはベッドのそばに立っていた。
「私もこの写真のサクラと一緒に寝ちゃおうっと」サクラはそう言ってベッドの中に入った。そうして陰陽のマークのように自分自身と重なり合う。
やがて二つの寝息が聞こえてくる。それはシンクロしており、ここ仮想空間と現実もまたシンクロしているようであった。
ここはサクラとスカーレット先生の部屋のようで、俺はサクラとは別のベッド、もぬけの殻になったスカーレット先生のベッドに横になった。
その時枕元の棚からオルゴールの音が聞こえ出した。その曲はスガシカオの『NOBODY KNOWS』だった。
そして俺は清らかに眠った。




