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スカーレットの森  作者: 結姫普慈子
第一章 学園
22/54

22. ノアの箱舟

「ねぇ、アンドー君。写真屋さんには今度はゆっくり行かない?外の景色見たいでしょ?」

「見てみたいなあ」

「ついてきて」とサクラが言って歩いていく。


 サクラについていくと長いブラックの階段のようなものが自動的に上のほうへと動いていた。

「ちょっと時間かかるけど、これに乗ろう。学園の景色も見れるし」

「この機械なんて言う名前なんだ?」

「ん?ただのエスカレーターだけど?」

「エスカーレット?」

「ううん、違うわ。エスカレーター」

「なるほど」

 俺とサクラは二人で並んでそのエスカレーターと呼ばれる機械の移動する段の上に足を置いた。

「ここでは座るのか?立っているのか?」

「どっちでも良いけど、普通は立っているね」

「わかった」

 徐々に上がって行く階段から学園の景色を見てみる。ここから飛び下りれば死にそうなくらいの地上が見えた。あくまで学園の内部だけでこの建物の外は見えなかった。

「それでさ、サクラ、ノアの箱舟についてちょっと教えてくれないか?俺は詳しく知らないんだ」

「わかったよ、アンドー君。ノアの箱舟はね世界が大洪水で滅ぶ話なの。そして僅かな箱舟に乗った生命だけが生き残るって話よ」

「昨日、夢を見たんだけどさ、その中でサクラが出てきたんだ。妙な現実感のある夢でさ、その夢の中でサクラはこの学園はノアの箱舟だって言ったんだ」

 俺はそう言ったが、サクラは黙って微笑んでいた。サクラの横顔が太陽光で照らされていた。

「夢の中にこそ、もしかしたら、真実はあるかもしれないよ?アンドー君、覚えておいて」としばらく黙った後、サクラは言った。

「夢の中に真実か。もしかしたら何かの予知夢だったのかもな」

「写真屋さんに行ったあと、図書館に行かない?ノアの箱舟とはあまり関係ないけど、アンドー君に読んでもらいたい本があるの」

「どんな本なんだ?」と俺は聞く。

「さっき、私とお姉ちゃんで英語の曲、歌ったじゃない?ノルウェイの森ってタイトルの。その本もノルウェイの森っていう名前なの」

「へぇ、そうなんだ。誰が書いたんだ?」

「日本人の小説家で村上春樹っていう名前の人」

「わかった、写真屋さんに行った後に図書館に行こうな。読んでみるよ」



 数分その動く階段に乗っていただろうか、やがて目的地に着いた。

「ここ、何階なんだ?」

「ここは5階だよ。写真センターって言うんだよ、アンドー君」とサクラは言った。

 5階の写真センターは生徒でごったがえしていた。小さな機械を持った生徒や、アニメの世界から飛び出したような服装をした生徒などがいた。

「すいません、写真立てはどこにあるんですか?」サクラが近くにいた店員にそう尋ねた。店員は男性で眼鏡をかけていた。ほっとするような赤いエプロンを着ている。そしてそのエプロンの真中に『写真センター』と文字がプリントされてあった。

「こっちですよ」と言って店員はテクテクと歩いて行く。しばらく俺とサクラはそのあとを歩いて行き、やがてカウンターが見つかる。「この子たち写真立てを探してるようだから、エリザベスさんよろしくね」カウンターの店員に言って去っていく。

 そのエリザベスと呼ばれる店員は昨日見た生徒会長だった。

「あ、生徒会長じゃないですか。昨日ぶりですね」とサクラが言った。

「こんにちは、サクラちゃん、アンドー君。私は写真が好きだからここで働いてるの。写真立てが欲しいんだって?」

「そうなんです、アンドー君がどうしても必要なんです」

「いや、どうしても、ってわけじゃないんだけど・・・」

「写真立てなら、これがおすすめだよ。最後の一つ。どんな写真立てだと思う?」

「もしかして写真が大きくなるとかですか?」とサクラが言った。

「ううん、違うの。この写真立てに写真を入れるとその写真の中に入れるようになるの。まあコンピュータの仮想空間で現実じゃないんだけどね。それに写真が生きてるように動いたりするんだよ。いいでしょ?あと一つで売り切れだからこれにしちゃいな!」と生徒会長は笑顔で言った。それは営業スマイルと言うよりも本心からの笑顔に思えた。

「それにします!」とサクラが言った。

「毎度あり!」生徒会長は黄色のビニール袋に入れるとサクラにそれを渡した。

「じゃ、行こうっか。ちょっと休憩してから行く?」

「そうだな、ちょっとお茶でも飲んでからにしよう」

「この階の喫茶室はどこですか?」とサクラが生徒会長に聞いた。

「エレベーターの後ろにあるよ。じゃあね、また来てね」

「ありがとうございます!」サクラがそう言った。

 俺たちは喫茶室を目指した。

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