2. 生意気な小娘を演じる車
俺は先生に連れられて港の側の駐車場へと向かった。
駐車場はガランとしており広いながらもほんの数台しか車は止まってなかった。
スカーレット先生は黒い車の前で止まる。当たり前だが外国産の車だった。タイヤのホイールが真紅でちょっぴり生意気な小娘を思わせていた。ちょうど外国産の少女が紅を塗った唇を輝くお日様のしたすぼめてその間の空気にキスマークを付けるように。
「この車よ。鍵は外したから乗って安パイ君」
俺は車の助手席に乗ると、続けて先生が運転席に乗り込んだ。
黒い革張りのシートが固くて、シートベルトを付けると更に身が縮こまる気分だった。
おそらく高級車なのだろう。
それは初めての気分にいくらか高揚感を連れてきた。
「ここから飛ばせば30分程で学校に着くからしっかりシートに座っていて」
「飛ばさなくていいですよ。ゆっくり走らせましょうよ」
俺はそう言ったが、突然バカデカイエンジン音がグングンと鳴り響いて俺はガクンとシートに押し込まれるようにしていきなり車が発進した。
タイヤが地面を蹴り上げる回転音がキュルキュルとしたり街並みを見ている所ではなく、ただ先生は車を爆進させる。
幸い一本道のようなのでそこは良かったが霧霞んだ白璧の街並みが残像を残して景色へと消えていく。
見ていると酔ってきそうなので俺は目を閉じて自分の呼吸に意識を集中させた。
そうしていると先生が話しかけてくる。
「ねぇ、安パイ君。きみがこの学校に呼ばれた本当の理由知りたい?」
「知りたいです。スカーレット先生」俺は薄目を開けると横目で先生を見る。
先生はそのブラウンの瞳をサングラスで隠して前面のガラスの向こう側を注視していた。
段々と霧がなくなってきて陽が差してくる。
「もうここまで来ちゃったから言うわね。あなたが国立未来学園に呼ばれた理由、それは学園を救うためなの。拡大解釈すれば世界を救うため」
「上手く理解出来ないです。元の学校の成績も平凡だし、特技は犬の散歩くらいで俺には何も出来ることなんてありません。そんな俺がよりによって何で呼ばれたんですか?」
「学園のマザーコンピュータによってあなたがたった一人、選ばれたの。安心して人身御供とかじゃないから」
「コンピュータに選ばれたのですか」
「そうよ。光栄に思って良いのよあなた」
俺はよくわからなかったが、なし崩し的にどうやら未来学園という所に転校することになった。
別に将来の夢なんてないし、ただ生きていられればそれで良かったので、まあそれでもいいや、と自分を納得させる。
外がかなり明るくなってきていた。
それに伴い気温も上昇する。
「エアコンつけるわね。もっと上は暑いのよ。下はいつも霧で寒いだけどさ」先生はエアコンのスイッチを入れ、ベージュのコートを脱ぐと後部座席に投げ入れた。
車のスピードは相変わらずカッ飛んでいた。
メーターを見ると150㎞出ていた。