12. 365と書かれたカードキー
サクラが部屋から帰ったあと、俺はサクラに借りた白いふわふとした生地のパジャマに着替える。パジャマはほんのりストロベリーの匂いがしていた。
白いふわふわのパジャマにストロベリーの匂い。それに俺は苺パフェを連想する。パジャマの下には何も着ていないためふわふわの生地と自分の素肌が接触していた。
サイズはちょっと小さかったが着心地が良かった。ああ、これがサクラの寝る時に着るパジャマなんだなって俺は思った。
そしてベッドに横になる。
今日はとても疲れていた。長い船旅にそれから直ぐにスピードを出しすぎた黒い外車に乗り込み学校へ行く。そして俺は生まれ変わった。
コンピュータで出来ている人肌は以前の身体よりも、もっと俺に相応しい気がこの時してきた。
俺は本当の自分を手に入れたのだ。魂には身体がなくてはならない。その時サクラの横顔がふと脳裏によぎった。
サクラはあの時、なぜ悲しそうな顔をしていたのだろう。俺はそれを考える。
考えている最中に俺はストンと眠ってしまった。
これは夢の中だろうか、夢にしては半分だけ現実感があり、もう半分は何か得体のしれない神秘性があった。
やはり寝る前と同じく部屋はオレンジ色の光で照らされていて、枕元のそばのランプスタンドに一枚の封の切られていない手紙があった。
手紙はブルーの蝋で閉じられてあった。俺はそれを開けてみる。
そこにはカードキーと紙が入っていた。カードキーは銀色で真中に大きく黒色で365と書かれてあった。
紙は万年筆で書かれたのかブルーブラックの発色で文字があった。
その文字を読んでいく。
「この学園の秘密が知りたければエレベーターを乗って最上階の365階まで来て、エレベーターでカードキーを使えば直ぐに行けるから」紙にはそう書かれていた。文字は流麗で最後に緑色のヘビのスタンプがしてあった。
緑色のヘビのスタンプは可愛い絵柄でつぶらな目が可憐だった。
俺はベッドから抜けると部屋の扉に向かう、忘れずに自分の部屋のカードキーと365と書かれたカードキーを持って部屋を出た。
それからスタスタとエレベーターに向かう。
道中、誰にも会わなかった。
エレベーターに着き、開閉ボタンを押してエレベーターを呼ぶ。
直ぐに着て、中に入るとカードキーを触れさせる場所を探す。どこにも見つからない。
キョロキョロとあたりを見回しているとエレベーターの扉が閉まってしまった。
エレベーターの奥に行くとポスターがあった。そのポスターは学園の入口にあった噴水の絵であった。
ポスターの一部が薄く黒ずんでいた。
試しにそこに365と書かれたカードキーを触れさせてみる。エレベーターが動き始めた。
今いた101階からどんどん上にいく。
十数秒で200階を超える。
このまま365階に行くのではないかと俺は思っていたら、本当に365とパネルに表示されエレベーターの扉が開いた。
365階の中は霧が広がっていた。その空間はどこまでも続いてるように思えた。何しろ壁がないのだ。
床は小さな白い石が敷き詰められていた。
俺は奥に進むがどこに進むかわかっていなかった。
やがて濃い霧の中から声が聞こえてきた。
「来たのね、アンドー君」
「その声はサクラか?」
「そうよ、サクラ」その声は聞こえていたがサクラの姿は見えなかった。しかしその姿はゆっくりと見えてきた。足元の石をジャリジャリと踏みながらサクラがこちらに歩んでくる。「アンドー君、私のパジャマ着てるのね」
「それより、何でこんな場所に呼んだんだ?この学園の秘密って言ってたけど」
「そう、この学園の秘密」そう言ってサクラは言葉を区切り俺の瞳を見つめてきた。サクラの瞳は不安げで俺はサクラが心配になった。「この学園の秘密はね。この学園はね、ノアの箱舟なの。これから世界は終わるの」
「世界が終る?」
「そう世界が終るの。ここに住んでいない人たちはみんな死んでしまうの。悲しいね・・・」サクラはそう言って静かに涙を流した。
「そんなこと聞かされていないぜ、一体どうやって世界が終るんだ?」
「この世界は元々、寿命があったの。世界自体に寿命があるなんておかしい、ってアンドー君は思うかもしれないね。でもそれは本当なの。この学園はその終わりのあと、生き残る人類を収容するために作られたの」
「そんな話信じられないな。世界に寿命があるなんて」
「たとえば小説には世界があるでしょ?でもその世界は最後の一行で終わってしまう。読んだ人の心には残るけど、世界はそこで終わりなの」
「それはなんとなくわかるが、現実だぜ?この世界は」
「全てを理解出来なくてもいいわ。それでね、アンドー君がこの学園に呼ばれた理由。あなたが救世主だって言われる理由。それはねこの世界を救うためにコンピュータが出した結論なの」
「コンピュータが出した結論か・・・」
「それには新しい物語を始めなければならないの」サクラはそう言って泣き顔で微笑む。
「新しい物語?」
「そう、新しい物語。夢の中にいるアンドー君を私が呼んだのはそれを始めるためなの。いつも物語は夢の中で始まるの。それじゃあ始めるよ、新しい物語を」そう言ってサクラは俺に近付いてきた。
サクラは突然俺の唇にキスをしてきた。
「どうしたんだ、一体!?」俺は驚いてそう言う。サクラの唇は甘いながらもピリッとした辛さがあった。ちょうどシナモンのように。
「ごめんね、アンドー君。世界を救うためなの」またサクラは俺にキスをする。「私のファーストキスだから受け入れて」
俺は自分の身体、自分ではないかのように感じ始めた。身体が勝手に動いた。
気がつくと俺はベッドの上で起き上がっていた。夢だったのだろうか、それはわからなかった。
部屋のカーテンを開けて外を見ると朝の日差しが出ていた。
その時またピンポーンと間延びした音がした。
「サクラです」と天井から聞こえた。
俺は今見た夢のことを一旦忘れて扉を開いた。
制服を着たサクラが扉の前で立っていた。
「昨日、明日は学校の案内してあげるって言ったでしょ?準備出来てる?アンドー君。あら、まだパジャマじゃない。着替えてきて出発しよ!」
「ごめんシャワーもまだなんだ。しばらく部屋の中で待っていてくれるか?それと学校の案内はスカーレット先生の車から荷物を持ってきてから行きたいから、いいか?」
「いいよ。スカーレット先生はまだ部屋で寝てたから、私の部屋に行こうね」
「じゃ、シャワー浴びてくる」俺はサクラにそう言って部屋の中にあるお風呂場に向かった。「直ぐ出てくるから」後ろのサクラにそう言った。
「うん、待ってるー」




