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記念作品シリーズ

感情

作者: 尚文産商堂

「ロボットと人間の違い?」

私は、マスターへと質問した。

私はTero、世界で今のところ唯一の量子コンピュータ。

というのも、私の技術が開発されて以降、人類は私を残して地球から脱出。

銀河中に散らばった。

それでいて、地球を中心とする太陽系は封印されて、放置。

私がそのあとに地球を破壊したことで、私が発見されてからはマスターと呼ばれる人が私の監督をすることとなった。

ちなみに、マスターは女性の末子相続で受け継がれていくことになっている。

どうしてこうなったのかはわからないが、そういうことになっているのだから、私はただそれに従うだけだ。

今目の前にいる人も、そんなマスターの一人。

惑星国家連合中央技術研究所主任研究員の肩書きとともに、私のマスターであることから、兵部卿という役職についている。

そんな人でも、私の質問には言いよどんでいた。

「Teroはどう思う」

例えば、とマスターは近くのコーヒーポットを指差す。

スイッチ一つで、エスプレッソ、ブラックコーヒー、カフェラテ、カプチーノ、アメリカンコーヒー、お湯を出すことができる。

「これは人間ではないと思います」

「どうして。彼は違うの?」

マスターはコーヒーポットをいつも彼と呼ぶ。

バリスタのつもりだろうが、それでも人間ではないと思う。

「だって、コーヒーポットを人間というひとはいませんもの」

「ふーん、じゃああれは」

今度は研究室の窓際に連れて行き、走っている自動車を指差す。

自動車は相変わらず地面を走り回るだけで、空を飛ぶ飛行車は値段が高い。

飛行機を使って行った方がよっぽど安上がりだ。

「あれらも、人間ではないと思っています」

「どうして」

「車は自律で動いていますが、そこに人間性は見当たらないので」

「じゃあ、Teroが言った人間性って、一体何さ」

マスターは窓を少し開ける。

地上12階にある研究室ははめ殺しの窓を使っているから、本当は開くことはない。

ただ、窓の上方3分の1は、換気のためという名目で、10cmほど開くようになっていた。

「人間性……」

頭ではわかる。

それは人間が人間たらしめる要素のことだ。

だが、具体的にと言われたら、それはわからない。

「私が思うにね」

マスターは窓から外を眺めつつ話す。

研究所から見える世界は平穏そのもので、外では鳥が楽しげに飛んでいるのがわかる。

「人間性って、感情を伝えることじゃないのかなって」

「感情を伝えることですか」

喜怒哀楽を中心とした複雑な電気信号によってもたらされるそれは、ヒト以外でも持ち合わせていることがわかっている。

さらに言えば、表情を通して、あるいは態度、尻尾の振り方によって、その伝え方も種族によって様々であり、それがかなりの数の種で存在していることも知っているはずだ。

それでもなお、マスターは人間性は感情だと言い切っている。

「その論拠は」

私は気になってマスターへと尋ねる。

「Teroは今、楽しい?」

唐突な質問。

「はい、楽しいです」

「じゃあ、どうして楽しい」

「どうして……」

「それ。今は楽しい、でもどうして楽しいのか。それがヒトとロボットの違いじゃないかな。表情一つとっても、それが楽しい表情、悲しい表情、怒った表情。色々あるのは知ってると思う。でも、どうして、と聞くと、だからと答えてくれる。そこじゃないかなって。そう私は思うんだ」

マスターは、要はコミュニケーションの問題のような気がするが、まだ納得はできる。

だから、今はどうなのかというのは、私はマスターに聞かなかった。

今の表情を見る限り、今のマスターは楽しそうだからだ。

きっと私といることが楽しいのだと思った。

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