実験
「ん…」
次に目が覚めた時は、廊下に電気が付いていて少し騒がしかった。なんだろうと思い、ドアに近づく。ゆっくりとドアを開けると一気にアルコールの匂いが強くなる。
廊下を進むと、下へ続く階段があった。この下から、騒がしい声やら物音やらが聞こえてくる。私は、恐る恐る階段を降りる。
「“実験室”…」
目の前にあるドアには、そう書かれていた。ここが、私を実験台に“なにかをしていた”場所。本能的に、直感的に、見てはいけない気がした。でも、見ずにはいられない。静かに、少しだけ、ドアを開ける。
「No.001失敗か…。」
「でも何故、いきなり意識が戻ったんせしょうか。その時のデータ、残ってますか?」
No.001…?失敗…?もしかして、私のこと?
「残ってない。その時だけのデータが消えてるんだ。」
「精神病人には限界か。人格をコピーするのに、本体にもストレスが与えられていたかもしれんな。しかし、なぜデータは残ってないのか…。」
人格を、コピー?どういうことだろう、一体、なんの話をしてるの…?私は、なんの実験に使われたの…?なんで、どうして…。
ふと奥を見ると、懐中時計が置いてあった。
「…あ..」
…思い出した。
私は16の頃、過度なストレスで倒れて、精神病院に送られた。母親の虐待が原因だった。毎日毎日ベットの上で、でもそれが幸せだと感じた。ご飯は毎日出るし、寝る時間もたっぷりある。こんな贅沢はなかった。
そんなある日、白衣の男性がやってきて私にこう言った。「人類の研究をしたいのだが、協力してくれないか」と。
私は、幼い頃から役立たず、無能、などと罵倒されていて、誰かに必要とされるのは初めてで、快く引き受けたんだ。
でもまさか、ここでの記憶を一時的に消されて、人格をコピーされいたなんて…。