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第五話『こんばんは、侵入者です』―9




「おるぁあ! おっさんばっかで暑っ苦しぃんだっつぅの!!」


 巻き舌気味で叫びながら、サブマシンガンを撃ちまくっている金髪青年。人に当たらず壁が蜂の巣になっているが、咎める者は居ない。


「ホントだよなぁー。もっとこう、ボンキュッボンのお姉ちゃんが良かったよなぁー」


 ボヤいているのは、伊織と背中を合わせて立っている英志だ。こっちは、相手の心臓部と額をピンポイントで撃ち抜いていた。片手ずつベレッタが握られている。


 この部屋には比較的多くの人物が集まっていた。八人だ。その面々を見て伊織は「綺麗なおば様じゃなくて良かった」と喜んだ。英志は「綺麗なお姉ちゃんがいねぇじゃんか」と嘆いた。


 目の前に立っている人間が居なくなっても撃ち続けている伊織の正面に位置する扉が開いた。

 凍った弾がいくつか床へ落ちて、風鈴のような軽い音を奏でた。目の前に立っている人物を見て、伊織が顔面を強張らせる。


「伊織。無駄撃ちしてると弾代で破産するぞ。あと癖になるから気を付けろって、前にも言っただろ」


 天后を背後に連れた凌が入ってくる。室内を見回しながら、

「伊織、お前自動拳銃(オートマグ)も持ってるだろ? 狭い室内はそっちの方が良い」

挿絵(By みてみん)


 小うるさいのが来た。と書かれた顔で、伊織が渋々「はぁい」と返事をする。

 凌は足元に転がっている、蜂の巣というには崩壊が著しい赤い塊を眺めながら続ける。


「分かったら返事だけじゃなくて、実践しろよ? お前、筋は良いんだからさ。勿体ないだろ」


 説教に縮こまっていた伊織だが、最後に褒められて表情を明るくした。足元を見ている凌は、気付いていないが。

 色々なものが体から出てきている赤いそれらを数え終え、凌は顔を上げた。


「銃器の事なら尚巳が専門だけど、オレでも良ければ練習相手になってやるから。伊織ももうすぐ十八歳になるんだし、抑える事も覚えなきゃな」

「凌さん、とても嬉しいんですけど、言ってる事が世話焼きのおっさんみたいですよ。凌さんだってまだ十九歳じゃないですか……。ボクとひとつしか違わないじゃないですか」


 半眼で、伊織が指摘する。

 この場に尚巳が居たら、笑い飛ばしていただろう。が、残念ながら彼は独り屋根の上だ。

 と、凌の背後から甲高い笑い声が響いた。


『あっはっはっは! 言えてるわぁー。凌ったら、やけに年寄り臭いトコがあるのよねぇー。まぁ、そこが良いんだけどぉー』


 天后が、身体を震わせて笑っている。ゼリーのような毛先がぴちゃぴちゃ音を立てて跳ねた。

 凌は一瞬、苦虫を噛んだような顔を天后へ向けたが、溜め息をひとつ。


「もう、何とでも言ってくれ。それで、この部屋には八人だな? 廊下に八人、透の所に三人……二階には二十人くらいだったかな。恵未と祐稀は……無線で聞く限り、厨房で四人。恵未の奴、『甘味がない!』とか何とか叫んでたけど……まぁ、それは置いといて……」


 凌は背後を気にしながら、「ところで」と続けた。


「恭平が『一階の部屋で伊織がサブマシンガンを乱発してて廊下を渡るのも命がけ』だとか言うから、ここに来たんだけど、少し前から通信繋がんなくて……」


 「恭平君、後でシメる」と逆ギレ気味に呟く伊織は取り敢えず無視し、凌が渋い顔を廊下へ向けた。足も向ける。


「今、透が各部屋のパソコンを入り口付近に運んでるから、ふたりも手伝いに行ってくれ。オレは先に進む」


 室内に居るふたりに告げると、凌は走り去った。纏わりつく天后を背後にくっつけたまま。




 走ると、左側の前髪が靡いて視界が開けた。

 何故前髪を伸ばしているのかなんて、正直忘れてしまった。遠近感がどうのとかという理由で、訓練中アイパッチを付けていたのだが……それがどうにも恥ずかしく、髪を伸ばしてパッチの代わりにし始めたんだと記憶している。


 凌は数部屋走り抜け、正面奥に立派な扉を確認した。その手前で、立ち止まる。室内が未確認の部屋だ。

 ドアノブに手を掛けるが、反射的に手を放してしまった。


 熱いのだ。ドアノブが。


(ねつ)……?)


 何故ドアノブが熱いのか。凌の思考が頭を満たす前に、馴染み深い声がスライディングしてきた。イヤホンからではない。左手奥の、装飾が施された扉の奥からだ。

 一秒も待たず「ええ加減にせぇよ! ボケ!」という怒鳴り声が、先程よりも大きな声で耳へ届いた。

 思わず声の方へ顔を向けてしまうくらい、意外だった。


(……泰騎先輩の怒鳴り声、初めて聞いた気がする……)


 向こうの部屋も気になる。気になるが、今は目の前のコレだ。

 凌はドアノブと自分の手の間に冷気を滑り込ませて、ドアノブを捻った。


 熱気の籠った室内で一番に目に飛び込んできたのは、金髪碧眼の美少年がふたり。どちらも年は十歳前後だと思われる。ふたりとも、鏡のように似た顔をしている。双子だろうか。

 片割れは、苦悶の表情を浮かべて腹を押さえて蹲っていた。

 部屋の中はガラス戸付きの棚や、血液保冷庫が並んでいる。


「あ、凌先輩だぁー。はははっ。あー、マジいってぇー」


 だらしのない声が聞こえた。

 凌が、声のした左手側の壁を見やる。

 両腕と両脚にひどい火傷を負った恭平が、壁に背を預けてへたり込んでいた。脚は爛れている程度だが、腕の方は肉が抉れて赤黒く、深い傷となっている。

 凌は眉ひとつ動かさず、眼前の少年に視線を戻した。天后へ指示を出す。


「天后。恭平の手当てを頼む。ある程度治ったら室外へ」

『はぁい』


 緩い返事で、青白く光っている神様は恭平の元へ飛んで行った。恭平の負った火傷に、自身の(てのひら)から出した水を掛ける。(ただ)れていた皮膚が、少しずつ回復していく。


『水は生命の源なのよぉー。うふふ。表面はすぐに治るけど、内側はもう少し時間が掛かるわよ。あんまり動かさないでね』


 天后が注意を促すと、恭平は諾了の返事と共に礼を述べた。

 恭平が大きな溜め息を吐く。眉を下げて凌を見上げた。


「すみません。前に、火を生む超能力者(パイロキネシス)の炎発生の原理は静電気だって聞いたから、イケると思ったんスけどねぇ。ホラ、俺って透の相手でそういうの慣れてるし。はは」


 自嘲する恭平に、凌は少年を見据えたまま嘆息した。


「それだけ喋れれば喉と肺は大丈夫だな。痛いだろうけど、もう少し良いか? あいつら、パイロキネシスなのか?」

「そっスよ。先天性か後天性かは分かんないスけど。ふたりいっぺんに相手するのは、けっこーキツイっスね」


 恭平はやれやれ、と両手を上げる素振りを見せたが「(いって)!」と手を引っ込め、悶えている。

 凌は嘆息して、腰に下げている刀を鞘から抜いた。

 少年たちは動かない。こちらを警戒している事は感じ取れる。

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