表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/85

第三話『約束』―12




(でも、違うんだよね)


 “私じゃ、あそこには入れない”


 以前聞こえた恵未の言葉が蘇った。


(変なトコで不器用なんだもんなぁ……。いや、違うな。泰ちゃんの場合、器用すぎるのかも……)


 倖魅はリモコンの集積回路に左手の指を添え、右手を机に乗っているノートパソコンのUSB差し込み口へ当てた。膨大なデータ量の中から、必要なものだけをパソコンへ流し込み、場所を絞り込んでいく。


 イヤホンとマイクのあるおおよその場所が特定できると、地図上に丸で印をつけた。


 住所は埼玉県になっている。


「ここが目的地だと思うよ。潤ちゃんが居るかは分からないけど。倒産した工場の跡地で、調べてみたら二ヶ月程前に購入されたらしいんだよね。料金の振り込み元はアメリカになってたよ。因みに、桃山咲弥は一ヶ月前までアメリカに居たんだって。因みの因みに、イヤホンとマイクは現在、中央環状線を移動中」


 プリントアウトした地図を泰騎に渡しながら、倖魅が言った。

 そして、思い出す。


「ねぇ。潤ちゃんの腕、どうするの?」


「倖ちゃん、要るならあげるわ。それ見とったら、腹が立って仕方がないんよなぁ」

「え、いや。全く欲しくないし、凄く迷惑なんだけど。取り敢えず、憂さ晴らしに大量殺人だけは止めてね……」

 半眼で呻く倖魅を、泰騎は意外そうな顔で見返した。


「ワシがいつ、自分の憂さを晴らす為に大量殺人なんかした?」

「自分の胸に聞いてみて。少なくとも五人は死んでるから」

「五人じゃ“大量”にはならんで」

「あぁもういいから。いや、良くないけど。場所が山の中だから、外部の目は気にしなくて良いと思うけどさ……」


 倖魅は諦め気味に肩を落とした。


 泰騎はニヤニヤ笑いながら、顎へ手を当てている。

「山ん中……工場跡……こっから車で一時間くらい……うん。丁度ええな」


 何が? と思ったが、倖魅の口からその疑問は発せられなかった。


 相変わらずニヤついている灰色頭は、机に頬杖を突いている紫頭にウインクを飛ばした。


「倖ちゃん。帰ってきたらビックリドッキリ発表するから、覚悟しといてな!」


「あんまり、ビックリもドッキリもしたくないんだけど……言ったところで、泰ちゃんはボクの言う事聞いてくれないもんね。分かったよ」

 頬杖を突いたまま、倖魅は手をひらつかせて送り出す素振りを見せた。だが、手を止め、長い人差し指を口元へ添える。

「そうだ。タイムリミットは今から一時間三十分だよ。時間が来たら――判断は謙冴さん次第だけど、誰かしらが向かうからね」

「あいよ」

 背を向けたまま返事をすると、泰騎は部屋から出て行った。


 残った倖魅は、ちらりと机に乗っている潤の腕を見やった。


(どうすんの……コレ……)


 友人の一部とはいえ、あまり気持ちのいいものではない。倖魅は卓上の腕を意識の外へ追いやると、自分のスマートフォンへ手を伸ばした。




◇◆◇




 少年たちは、与えられた室内で談話をしていた。

 プレイマットの敷かれた床に、ソファーとベッドとテーブルが置かれている。隅には衣装ダンスがふたつ。壁際にある大きな本棚が、存在感を放っていた。

 少年ふたりはソファーに並んで座り、買ってきたお菓子の袋を広げている。テーブルの上には、各々ひとつずつどころか十個ずつくらいのお菓子が、山になっている。


 泰騎の手には、泰騎の顔程大きな渦巻きの飴が握られていた。

 潤の手には、ビーフジャーキーが収まっている。


「潤って、渋い趣味しとるな。オレ、他の子どもってあんまり知らんけど。顔は女の子みたいなのに、食べとるモンはおっさんじゃな」

「前に好きだったものが、あまり美味しく思えなくて……」


 ビーフジャーキーを少しだけ口へ運ぶと、潤が俯く。

 泰騎は飴を噛んだ。ガリゴリと音を立てて飴が砕け、カスが少し床へ落ちた。


「そうなん? それも、蛇さんが中におるからなん?」

「多分……」


 膝を抱えて顔を伏せていた潤が、泰騎の方へ顔を向ける。左目に傷が残ってしまったが、幸いな事に、眼球は無事だった。

 その真っ赤な瞳が真剣に自分を見るので、泰騎は目を逸らせなくなった。

 潤は泰騎を見据えたまま、言葉を紡ぐ。


「泰騎があの時……僕を見つけてくれたから、僕はここに居られるんだよ」

 泰騎は瞬きも出来ず、潤を正視する。


「僕がもし――僕の力が暴走して、人を沢山殺すことがあったら……泰騎が僕を殺して」


 子どものただの“お願い”だと一蹴出来ない程、潤の真摯な表情と口調が、泰騎の首を縦に振らせた。

 潤は安堵の息を吐き出すと、プレイマットの敷かれた床に膝をついた。泰騎の手を取って、長いまつ毛を伏せる。小さく零れた感謝の言葉は、至近距離に居てもやっと聞き取れる程の大きさで――。

 これが、このふたりの間で交わされた最初の約束だった。



第三話終了です。

『ウサギ印の暗殺屋~13日の金曜日~』も折り返しとなりました。

ここまで読んでくださった方々、有り難うございます!


挿絵(By みてみん)

作中にもある通り、ウイルスや寄生虫は潤の体内に入った時点で瞬殺。なので、ネズミも生で食べられます。流石、蛇さん。


関係ないですが、書いている人間が飼っている蛇も、ピンクマウスをモリモリ呑み込みます。可愛い。



挿絵(By みてみん)

倖魅の部屋。

第二話で泰騎が倖魅の部屋に泊まっていた時も、勿論この状態でした。

潤の腕が右手になっているのは私のミスです……。




第四話から、暴力的といいますか……グロテスクな表現が増えて参りますので、苦手な方はご注意下さい。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ