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第三話『約束』―5

 ファイルの中には、数人の顔写真と身体的な特徴が簡易的かつ簡潔に記されている書類が二枚と、日時や場所、地図の記された書類が一枚挟まれていた。それを取り出す。ちらりと数行だけ目を通し、また戻す。


「なぁ、社長。福岡日帰りって、ちょいハードじゃねぇ?」

「え? 木曜日は有給使って、温泉にでも浸かって帰っておいでよー」


 雅弥は平然と言って退けた。が、血相を変えたのはまたしても倖魅だ。


「何、当たり前みたいに言ってんの!? 泰ちゃんは居なくても問題ないけど、潤ちゃんが居ないのは大問題なんだから! その仕事、凌ちゃんと尚ちゃんに回して、泰ちゃんと潤ちゃんには他に来てた千葉県の仕事に行って貰ってよ! それなら日帰り出来るから!」

「なんか、グサッとくる事、サラッと言われたような……」


 泰騎がポツリと呟く。本心は微塵もダメージを受けていないのだが、無視するには面白くないひと言だった。

 その場に居る者たちには、案の定見事に無視されたのだが。


 泰騎はファイルを雅弥へ返した。

「じゃって、社長。コレは営業コンビに渡して、ワシ等には千葉の仕事頂戴(ちょーでー)

「そう? 福岡は泰騎の大好きな“組潰し”だったんだけどなぁ。五十人規模の組なんだけど。総本部から依頼が来て――」

「五十人!? なんソレめっちゃ楽しそうじゃがん!」

「でしょー? 泰騎ならそう言うと思ったんだー。泰騎と潤がダメだとすると、どうしようかな。凌と尚巳だったら三十分くらい掛かりそうだし……双子コンビに頼もうかなぁ……」


 『双子コンビ』。そのひと言に、凌と恵未が雅弥を振り向いた。


「先生たち、日本に帰って来てるんですか!?」

「前に会ったのいつだっけー。先生たち、いつまで日本に居るんですか!?」


 青ざめている凌とは反対に、恵未は瞳を輝かせた。

挿絵(By みてみん)

「うん。今週帰って来てね。あ、まだ家には帰ってないみたいなんだけど。来月の半ばまでは居ると思うよ」

 ファイルを謙冴へ渡し、別のファイルを受け取る。雅弥はそれを泰騎へ向けた。


 中身を取り出し、泰騎が目を通す。つまらなさそうに、書類で顔を扇いだ。


「人身売買の極小グループなぁ。んで、建物内で十人? 潤とじゃったら五分で終わるわ。あ、誘拐された子どもの保護は本社(そっち)に任せるで」

「良いよ。子どもたちのデータも粗方揃ってるし。親御さんのところへ帰すのは、予定が空いてる工作員に行かせるから」

「そ。ならええわ。んで、(れい)ちゃんと(れん)ちゃんって、今どこにおるん?」

 泰騎が書類をファイルへ挟み直したと同時に、会議室の扉が勢いよく開いた。


 室内に居る全員の視線が、扉に向かう。


「こっこでぇーっす!」


 一際明るい声が、室内に響く。

 ウェーブ掛かった長い黒髪を、扉を開けた時に巻き起こった風に(なび)かせている。真っ赤な口紅の女性。年齢は――見た目からして、雅弥と同じくらいだろう。

 そんな彼女は、年に似合わず……は、逆鱗に触れる言葉なのだが。ともあれ、ハイテンションで揚々とその場に仁王立ちしていた。『先生たち』と呼ばれた内の、ひとりだ。


 元々濃い茶髪だった凌の髪を、白髪へと変貌させた元凶でもある。


「可愛い教え子の誕生日に日本へ帰って来られて、嬉しいわー。プレゼントは無いけどね」

 黒のパンツスーツを着用した身体をS字にくねらせ、目尻の下がった目を細めて笑っている。


「麗ちゃん、ありがとー! プレゼントなんてええよー。元気な顔が見れただけで、ワシは嬉しいで。蓮ちゃんも、そんな所におらんで入って来てやぁー」


 女の後ろから、同じ顔の男が顔を出した。髪はやはりウェーブ掛かっているが、肩くらいの長さだ。女と同じ顔だが、右目の斜め下辺りに小さな切り傷跡があった。顔は中性的だが、体格は男のそれなので見分けはつく。身長も女より少し高い。

 賑やかな女とは反対に、その影に黙って立っていた。


 先程から『麗』と『蓮』と呼ばれているが、本名は(れい)()蓮華(れんげ)だ。一卵性の双子なので、顔が似ている。麗華が姉で、蓮華が弟である。蓮華は本名で呼ばれることを――女の名前のようだと――嫌っているので、皆は『麗』や『蓮』と呼ぶようになった。

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