それは必然的なのか
「ゆ、夢巻さんも放課後に用事ですか?」
「は、はい…。そういう偶輝さんも?」
「そうですよ?」
私と夢巻ちゃんは、別々の部屋に用事があった。
…何か嫌な予感がし、私は緋氷先生と一緒に夢巻ちゃんを探してみた。
が、学校中どこを探しても、夢巻ちゃんの姿は見あたらなかった。
「ど、どこに消えたんですかね…!?」
「私にも分かりません…」
緋氷先生も全く分からず。探し求めるも、全く見当がつかない。
そんな時だった。
実験室の奥の方で、何やら話し声が聞こえてきた。それも、男女あわせて3種類くらいの声がする。そして、その中の女性の声を聞いた私は…
「ゆ、夢巻さん!?」
と、小声で少し叫んでしまった。
「えっ!? た、偶輝さんの幼なじみ、夢巻さんが居るのですか!?」
それには驚きを隠せず、緋氷先生も小声で叫んだ。
そして、私と緋氷先生が聞いたのは…
『…とにかくキミ達は、緋氷先生や偶輝ちゃんと親近な存在なのですから、2人には気づかれぬように!』
『はい!』
『分かりました』
『そして何としても、この世界の“真実”に辿り着かせてはならない…のです! 分かりましたね?』
『『はいっ!』』
その声の主には、間違いなく夢巻ちゃんと、
田駒先生 がいた!
…もう1人の男子は、私は知らなかった。
私達は知らないフリをし、その場を後にする。
……そして私は、緋氷先生と空き教室へ。
誰も来ないよう鍵を閉めて、また話し合い。
「緋氷さん…明らかに田駒さんは何かを隠してますし、それどころか感染してません…!」
「感染…!? どうして? 話してる時、敬語だったと思いますけど…」
そう。わずかに違う言動に、私は気づいた。
「まず、緋氷さんのことを『緋氷…っ、先生』と呼んでいましたし、私のことも『偶輝…っ、ちゃん』と呼んでいました…。そして、『あなた達』と全員が言ってしまうハズが…『…キ、ミ…達』…でした…ッ!」
(くそっ! これを言うのも脳内信号に必死で逆らわないといけないからツラい…っ!)
「そして、途中で敬語に躊躇いがありました。まるで
“感染しているように見せるため”
のような…そんな感じの話し方でした…」
田駒先生は、確実に『主犯』か『共謀者』のどちらかであることは間違いないハズ。そう思った私は、少しずつ詮索していこうと緋氷先生に意思表明してみた。が、
「…もし、それで私達が真実に辿り着いても、全世界に渡ったかも知れない大災害を、再び戻すことは出来ますか…?」
「…あっ…」
その可能性を私は考えていなかった。
緋氷先生は続ける。
「そう。もし私達がそれを解決したとしても、田駒先生が主犯でなく『共謀者』だった場合、その根源である人物を捜さなければなりません。仮に『主犯』だったとしても、解毒薬を作るために協賛を得なければ始まりません…。どちらの選択肢も、私達2人だけでは無力に近いです…」
確かに、私には、これといって卓越した武力があるわけでもないし、緋氷先生も空手部顧問だからといって、武力行使は簡単に出来ない。仮に先にこちらから仕掛けると、その時点で暴行の罪に問われてしまう可能性もあるし、口封じのために私達2人が捕らわれてしまう可能性も高い。そう考えると、向こうから行動に出ない限り、何も出来ないのである。
…ここまで考えた時、私の脳裏に引っかかった事があった。
なぜ田駒先生は、私達に『協力する』と言ってきたのだろう? その割には、協力もせず、ただただ実験室の裏部屋に引きこもっては怪しげな実験をしている(チラッと見えた限りでは)。そして、その部屋に繋がる“秘密の経路”を私と緋氷先生には共有していない。
つまりは、協力するフリをして、私達のことを軽く監視…つまりは、スパイなのかと思う。
「…偶輝さん。田駒さんは、きっと私達に協力するのではなく、私達に自分を信頼させ、真実から遠ざけさせるために“監視”しているとしたら…それはスパイ行為…ですよね?」
その一言で、改めて気づいた。
田駒先生は、最初から私と緋氷先生が
“タメ口の記憶を持っている危険因子”
だと知っていたとしたら辻褄が合う。
そして更には、仮に同じ思考を持つ2人の生徒がいたとして、その2人を上手い具合に言葉で包み込み、共謀者として参戦させているとしたら…、私や緋氷先生では不可能な“読心術”を身につけていて、生徒を選抜してるようにも見える。
様々な可能性が見えてきた頃、目の前に、最悪な状況下で…
「あれ? 偶輝さん…。…同じタイミングで終わったなら、一緒に帰りましょうか」
と、少し怪しげに笑う夢巻ちゃんに出会ってしまった…