休日の遊び
…翌日。土曜日。
美術部に入部している私は、運動部ではなく文化部なので、登校する必要がなかった。そのため、よく外へ遊びに出掛ける。
今日は、夢巻ちゃんと近くのボウリング場へ行き、ボウリングやゲームをした。
「今日こそは…1回でもストライク取りますよ!」
「そのためには投げるフォームを整えなくてはいけません。教えますから、言ったとおりにしてくださいね?」
運動が苦手な私にレクチャーしてくれると言う。そういうところは変わってないんだね、敬語だけの世界になっても。
「まず、自分に合ったポンド数を選んで下さい。無理に重いのを持とうとすると、腕を壊しますからね」
そう言われ、私は丁度いい9ポンドを選んだ。
「次に、投げ方です。まずは右手の親指を大きな穴に、中指と薬指を小さい穴に」
言われたとおりに、指を通す。
「左手を添えて、胸の辺りまで持ち上げます」
言われたとおりに、持ち上げる。
「右手にグッとチカラを入れて、下に振り下ろします」
言われたとおりに、ゆっくりと下げていく。
「後ろに振って、投げる際には勢いをつけます」
言われたとおりに、勢いをつけ、
「投げる瞬間に、指のチカラを抜きます」
投げる。
すると、少し中心からズレたものの、まあまあストレートに投げることが出来た。
「前までの投げ方より落ちないですね!」
以前まで私は、こんな正しい投げ方を知らなかったから、とても喜んだ。が、
「以前より良くなりました。でも、相変わらず足踏みがまだなっていません」
ちゃんと手厳しい指摘があった。
「私が使うのは、5歩で投げる方法です」
それもまたレクチャーが始まる。
「まず、最初の立ち位置は、ボウリング用に設備している段差。その一番後ろに近い所から始めます」
言われた位置に立つ。
「そこから、あのライン手前までを5歩で歩きます。フォームが一番乱れない方法です」
5歩で歩いてみると、本当に乱れなかった。
「イメージとしては、まっすぐ歩くこと。そうしないと球の軌道がブレて、中心からズレます」
歩き方に注意しながら、練習した。
「左足が中心のスパットに…」
専門用語だったので、夢巻ちゃんは言い方を直し、
「…左足が真ん中の▼に乗るよう心がけると、ストライク取りやすいです」
それを心がけて、私は投げてみた。
すると…
「…えっ!? や、やりました…!!」
初めてストライクが取れ、大喜びしてしまった。
「それを意識して頑張りましょう!」
夢巻ちゃんも賛辞を惜しまなかった。
実は、夢巻ちゃんの両親がプロボウラーで、そのためボウリングに詳しい。
そうして1ゲームが終わった時、私は、いつもよりスコアが伸びていて凄く嬉しかった。
「前は100越えられなかったのに、148ですよ! すごく嬉しいです、ありがとうございます!」
レクチャーに感謝したが、夢巻ちゃんのスコアは、
「遊びなので、本気ではないですが…」
なんと、遊び感覚で167を出していた。さすがはプロの娘。
「あの、夢巻さん。今度は本気でやってみてください。まだ本気を見たこと無いので」
自分のことで精一杯だったけど、夢巻ちゃんの本気を見たくて、そう願った。
「…いいですよ。そう頼まれたなら、2ゲーム目は本気でやります!」
目がギラッとし、オーラも感じるくらい威圧感が凄かった。こんな夢巻ちゃんは初めてだ。
そして、2ゲーム目。
私は1ゲーム目よりフォームが整ったものの、スコアは伸びず。
しかし、夢巻ちゃんの本気には驚きを隠せなかった。
「ふぅ。1回だけスペア逃しましたけど…こんなものですね…」
そう言った夢巻ちゃんのスコアは、
216。
「さすが夢巻さん…216って…!」
「このくらいは当然です。プロボウラーは、250越えて当たり前の世界…そんな両親に教えてもらったからには、こうして頑張らないといけないのですよ!」
私は熱くなり、3ゲーム目にもつれ込んだ。
その時だった。
隣のレーンに見覚えのある人が来ていたことに気付き、見入ってしまった。
その人のスコアを見てみたが、なんと8投目1回目で、
「…ひ、188…!?」
その人もプロボウラーじみたスコアだった。
そして、その人は10投目3回目まで全て投げ終わり、凄いスコアを叩き出した。が、
「258…まだまだ行けますね…」
と、喜ばずに悔いていた。
その女性は投げ終わった後、こちらに視線を向け、私と夢巻ちゃんに気づいた。
「あら? 偶輝さんに藍戸さん! …見られてしまいましたね」
そこにいたのは、緋氷先生だった。
緋氷先生も、プロボウラーのようだった。
「緋氷さんもプロボウラーだったなんて…」
そうして緋氷先生も入れて、何ゲームにも及んでボウリングを楽しんだ。
途中で夢巻ちゃんと緋氷先生がデッドヒートを繰り返したけど、その中で私は1人コツコツと練習に励み、気が付いたら、
「ひ、180越えた…!」
短い時間で、とんでもなく急速成長した。
こうして過ごした休日は、私と夢巻ちゃん、そして緋氷先生までもが楽しみまくった。
………その時、実験室の裏で。
?「…ひっひっひ! 実験成功だな! コレで敬語世界は永遠に継続する…! 解毒用のクスリもあるが、私しか持っていない…はっはっは!!」
敬語になっていない唯一の存在たる誰かが、実験室の裏に独り、こもっていた……