敬崩戦・終
敬語世界反対派
・緋氷 瑛華(教師)
・瀬賀 偶輝(2年生)
・浚絞 賢介(3年生)
敬語世界肯定派
・田駒 聖治(教師)
・藍戸 夢巻(2年生)
・瀬城 隼斗(3年生)
緋氷先生とも浚絞先輩とも連絡が取れずにいる私は、窮地に追い込まれていた。
田駒先生により、拘束されてしまったからだ。
「しっかし、何故この“治敬薬”があることを知っていたのでしょうね? ねぇ…偶輝さん?」
そう言い現れたのは、瀬城先輩。
「せ、瀬城…さん…っ」
瀬城先輩は、イスに拘束されている私のもとに歩み寄り、私のアゴに指を当て、クイッと持ち上げる。
「知られたからには帰しませんよ…?」
手も身体も脚もイスに縛り付けられて動けない私に向けて、真実を語り始める田駒先生。
「この“治敬薬”を作ったのは、万が一の保険のためだ。私まで敬語にならないようにな…」
その発言に矛盾を感じた私は、
「…? 世界中が敬語になってほしかったのですか? それとも、敬語は嫌だったのですか?」
と、すかさず突っ込んだ。
その時だった。
自分の行動に矛盾を感じてしまったからか、田駒先生が混乱し始める。
「…私は、敬語が……どうなってほしかったんだ? …今にして思えば、分からんな……」
敬語世界の未来は、完全に狂い始めていた。
そうして田駒先生が少しずつ変わりつつある頃に、
「それにしても、監禁するとは……それこそ犯罪行為というものですよ?」
と、緋氷先生が現れた。
「あ、緋氷……!? 何故ここに……っ」
動揺を隠せない田駒先生。
「田駒さんのこの部屋の事、偶輝さんが連絡してくれましたから…。しかも、何故か分かりませんが、田駒さんが扉を開放していたから入れましたし♪」
そう。田駒先生は鍵を掛けずに、この部屋の扉を開放していたのだ。
だから私も、いとも簡単に潜入できた。
……が、しかし!
その緋氷先生も、突然後ろから誰かに襲われ…
「貴女も帰すワケにはいきません……」
と、口を押さえられ、後ろ手に掴まれる。
「ゆ、夢巻さん!?」
と、私は思わず大声を出してしまった。
緋氷先生を後ろから襲ったのは、夢巻ちゃんだった…!
「ゆ、夢巻さん!? っく……!」
緋氷先生も身動きが取れず、ただただ藻掻いていた。武力行使を躊躇っていたから。
「ふっ……これで肯定派の勝ちだ……!」
と安心する田駒先生だったが…
『誰か忘れていませんか?』
と、どこからか男子の声が…!
その直後、緋氷先生を捕らえていた夢巻ちゃんが気絶させられ、私の目の前で立ち塞がっていた瀬城先輩を引っぺがした。
「偶輝さん、緋氷さん……よかった。間に合ったみたいですね…!」
そこに現れたのは、浚絞先輩だった。
そして浚絞先輩は、田駒先生の事も拘束し、イスに縛り付けられていた私の事も、ヒモを解いて助けてくれた。
「ありがとう、浚絞さん…!」
こうして助かった否定派の私達は、無事に“治敬薬”を3人分だけ手に入れた。それしか無かったから。
「くっ……全員分は無かったか……」
全人類が感染している中、3人分しか無いのは致命的だった。
元に戻るのは、私達だけだから……。
「…田駒さん。これは、敬語概念に汚染された脳を治療してくれる薬なんですよね?」
「あぁ、そうだ。私も服用しているし、間違いなく効く。安心しろ…」
妙に素直に答える田駒先生。だが、実際のところ田駒先生はタメ口を使える。だから、信憑性は極めて高かった。
……そして3人で、服用した。
その直後、私達の脳内に“元の言語”すべてが戻り、敬語だけで話す事も無くなった。
「よかった~! これで堅苦しい敬語ともおさらばだ…!」
私は、ついついはしゃいだ。
「良かったわね、お互いに♪」
緋氷先生も、とても嬉しそうで、笑顔がいつもより輝いて見えた。
「堅苦しい世界は御免だ。よかった…」
浚絞先輩も、とても喜んだ。
……この後、副作用が作動することになろうとは、まだ知る由も無く……
その副作用は、田駒先生すら知らない、未知のモノだった……ーーーーー




