第二話
「なんだこれ」
突然聞こえてきた声に意味もなくつぶやく。
脳に直接響く声だった。
部屋の中をきょろきょろ見渡すけど声の主は見つからない。
なんかのゲームが起動したのか?
それにしてはどこから聞こえたのかがわからない。
困惑しているとまた同じ声が聞こえた。
『これから東京人を判別するテストを行います。第一回はクイズです。ゲームオーバーは東京人とはみなされないので注意してください。みなさん東京人目指して頑張ってください。第一回は五分後に始まります。』
そこで声は止まった。
東京人?テスト?
意味が分からない。
部屋の真ん中で今の意味を探しているとドアの向こうからどたどたと騒がしい音が聞こえた。
そういえばいたな、俺にも相談できるというか、知り合いが。
ついにガチャっとドアが開けられた。
俺以外がこのドアを開けるのはいつぐらいぶりだろう。
「ねぇ!今の聞いた!?」
高いところに結んだポニーテールを許しながら入ってきたのは隣に住んでいる高校二年生の高崎くるみだ。
一応同じ幼稚園から同じところに通っていた幼馴染だ。
クルミの首には俺と同じ首輪のようなものがついていた。
俺だけじゃないのか。
クルミにも同じ声が聞こえてたらしい。
「何が起きてるの!?」
「俺にもわかんねぇよ」
クルミはほぼ引きこもりに等しい俺にも愛想をつかさずにこうやってたまに会いに来る。
来るたび来るたびうるさいけど。
「五分後に始まるって言ってたけどどこかに集まるのかな?」
どこかに集合なんて言われてないけど。
「たちの悪いいたずらだろ」
「じゃあこれは?」
クルミは自分についている首輪を指した。
とろうにもなにかわからないから怖くて何もできない。
「なんもわかんねぇよ。なんなんだよ。」
そうつぶやいたとき、目の前が一転した。
「は・・・?」
部屋にいたはずが一面が真っ白な空間に立っていた。
どこだここは。
目の前にはさっきと同じようにクルミが立って何が起こったかわからない顔をしている。
そしてここには俺たちと同じように若い男女が至る所に俺たちと同じような顔をしたやつらが立ってた。
状況がつかめない。
俺たちの共通点は若いことと、同じような首輪がついていること。
そこでまた同じ声が響いた。
この声はここにいる全員が聞こえているようだった。
『みなさんお集りいただき光栄です。』
その声に腹が立った。
俺は好きでここにいるわけじゃないのに。
それは違うやつも同じようで。
「だれだよお前!なんだよここは!」
近くで同じくらいの男が声を荒げた。
『これはさっきも言ったように東京人にふさわしい人を選別するテスト、いやゲームといいましょうか』
声の主は楽しそうに言った。
俺たちの声は聞こえているようだ。
「お前は誰だ。」
さっきの男までとは言わないが、俺も思ったことを口に出してみた。
『失礼。紹介がまだでしたね。私はこのゲームの支配者。どうぞゼロとお呼びください。』
いつの間にか隣に来たクルミが小さい声で質問にした。
「ゲ、ゲームってなんですか?ここはどこですか?」
『今から説明しましょう。これは何回も言ってるように東京人を選別するテストです。ここには十歳から三十歳までの男女が集められています。このゲームから脱落すると東京人失格。すなわち死です。』
ぞっとした。
ゼロと名乗った男はさっきと変わらない声で恐ろしいことを言ってのけたのだ。
隣でクルミが息をのんだ気配がした。
まわりでちらほらと怒号や怒鳴り声が聞こえた。
それを気にしないようにゼロは話を進めた。
『ここは私たちが作ったバーチャル空間。実際には存在しない場所です。』
そんなこと言われたって信じることができなかった。
バーチャル空間なんて何百年後の夢物語だと思っていたから。
『今東京は悪い素材と良い素材が集まっています。そこから未来を担う良い素材を選び出すためにこのテストを行います。』
クイズに正解できる=良い素材ということか。
今更ながら最悪なゲームだ。
『ここが最初のクイズの会場となります。ここでは東京人にふさわしい学力があるかをテストします。ルールは簡単です。五人組を作っていただき、その五人で問題に挑んでもらいます。問題は全部で十問で一つでも間違った場合その五人はゲームオーバーとなります。』
全員がこの声に集中していてシンと静かだ。
『クイズは今から三十分後に始めます。それまでに五人組を作ってください。では、よーいスタート!』
その声で張りつめていた糸が切れたように騒がしくなった。
「なんかよくわからないね。」
クルミが見た目に似合わない気弱な声を出す。
「とりあえずあと三人探さなきゃいけねぇだろ。」
俺がそういうとクルミは分かりやすく顔を輝かせた。
「私も人数にいれてくれてるんだね!」
「仕方ねぇだろ俺にまともな知り合いお前ぐらいしかいねぇんだから。それよりお前は・・・」
お前はほかにグループ作るやついないのかと聞こうとしてやめた。
俺は知っている。
こいつは高校に通っているけど、友達なんていないことぐらい。
こいつは正義感が強すぎてだれも近づいてこなくなった。
こんな俺にもいつも普通に接してくれてる。
「・・・なんでもねぇ。」
クルミから目をそらすと嫌な奴が視界に入った。
同じ高校の奴ら。
会うたび会うたび俺に突っかかってくる面倒な奴ら。
クルミもそいつらに気付いたのか俺の背に隠れるように立った。
面倒なことは巻き込まれないことが一番。
そいつらがいる方向と逆にクルミの腕を引っ張って歩き出す。
真っ白な空間を歩いているといつもの感覚が狂ってくる。
ここには床や天井などの概念がなくまるで浮いているような感覚に陥る。
本当にここに東京の十歳から三十歳がいるのかもわからない。
しばらく歩いていると急に肩を強い力で引かれた。
なんとかバランスを崩さずに後ろを振り返るとさっきのやつらが気持ち悪く口角を吊り上げて笑っていた。
わざわざ追いかけてきたのかよ。
「久しぶりだなぁタツオ君。元気か?」
リーダー格の奴がそういうと周りの奴らがそんなわけねぇだろと笑った。
いつ会っても下品な奴らだ。
「お前らに会ったせいで今元気がなくなったよ。富岡。」
にやにや気持ち悪い笑みを浮かべる富岡に負けじと睨む。
「なんだよここ。まさかお前が作ったっわけじゃねぇよな?オタクのタツオ君」
クルミを守るように後ろに立たせる。
「誰がこんな趣味悪いゲームなんて作るかよ。頭の弱さは変わらねぇみたいだな。」
「ちょっとタツオ!」
後ろでクルミが俺を止めようとする。
富岡から笑みが消えた。
「そうやってよってたかって大人数で俺みたいな弱い人間を攻撃するのが楽しいか?どんだけ暇なんだよ。」
富岡の顔がぴくぴくとひきつっている。
「お前っ黙って聞いてりゃ好き放題言いやがって・・・!」
そういうとこぶしを振り上げた。
やば、怒らせすぎたか?
衝撃に備えて目をつぶる。
・・・が何秒経っても痛みは来ない。
その代わりに耳が破けるようなブザーが鳴り響いた。
驚いて目を開けるとブザーの発信源は富岡の首についてる首輪からだった。
周りの関係ない人が何が起こっているのかと集まってきた。
富岡も何が起こっているのかわからないみたいだ。
「う、うわああああああああああああ!!!!!!!」
すると突然富岡が首をおさえ苦しみ始めた。
「どうしたんだよ富岡!」
周りの奴らが心配して富岡の元へ駆け寄る。
富岡は何かを言いたそうに口を動かすけど口からはヒューヒューと細い息しか出ていない。
なにが起こってるんだ?
ついに富岡は倒れてばたばたと暴れた後、静かになった。
富岡の目は焦点があっておらず、口からは泡が出ている。
シンとあたりが一瞬静寂に包まれた。
そして誰かが叫んだのを始まりにあたりが騒然となった。
もしかして死んでる・・・?
するとまたあの男の声が聞こえた。
『えーさっき言うのを忘れておりましたが、第一回クイズ大会に置いて暴力行為はルール違反とみなし、ただちにゲームオーバーとなり首についているものが締まり死に至ります。注意してください。』
ゼロの声が聞こえると、倒れていた富岡の体が光になって消えた。
「う、うわあああああ!」
富岡の仲間らが倒れるように逃げていった。
今、何が起きた?
後ろでクルミが座り込むのがわかった。
「死」
さっきからよく聞いた言葉だったけど、改めて実感した。
今までこれは夢なんじゃないかと心のどこかで思っていた。
でもこれは違う夢なんかじゃない。
直感でそう思った。
『それでは!続けて仲間を探してください!』
ゼロの声が遠くで聞こえた気がした。