第2話
「じゃあ授業始めるぞー!」
ホワイトボートの前に立ち、10人強の生徒と対面する
凄い圧迫感…
というのは初期の俺であって今はもう先生としてしっかりと威圧をかけつつ授業を展開できるようになったと自負している。
まぁ部長のスパルタ模擬授業(業務時間外)をあれだけやったら流石になw
ただ、今日の授業は違った。
「先生!彼女いますか?」
愚問である。
というより、お前らに俺の恋愛事情は関係ないだろう。
「いないよ」
嘘はダメという気持ちで正直に答えると
「えー!いそうなのに!」
「家帰ったらひとりですか?」
「寂しくカップラーメン食べるんですか?」
「てか何歳だよw」
「だめだよそういうこと聞いちゃ、多分バツイチなんだよ」
「えー!」
「バツイチなの?」
「ごめんね先生w」
ガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤ……
そして、なにかの糸がきれたように
「うるさい黙れ!」
とてつもなく大きな声が教室に響いた。
そして俺は、この声が自分の声であることに気づいた。
本心だった。心の底からの叫びだった。
彼女がいるとかどうとか一番どうでもいいと思っていたが違った。この響きが真実なのだ。
自分が分からなくなっていた。
何人かの生徒が泣き始めた。
「先生怖っ」
「なに泣かせてんだよ!」
「最低!」
ガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤ……
頭が働かなかった。
自分が一番驚いていた。
たちくらみのようなグラグラ感のなか、目の前の地獄絵図と化した教室を風景のように眺めていた。
ガチャ!
突然ドアが開いて部長が顔を出す。
「ちょっと水野先生来てくれる?ちょっと生徒のみんなは落ち着いて自習しててね」
その後部長にこっぴどく叱られたのはいうまでもない。
生徒を泣かす先生なんてありえなさ過ぎる。
自分がなんのか、怖い、怖い。
耳鳴りがひどい。
身体の感覚がなく、地面の底に沈んでいく。
部長の言葉は耳に入らなかったが、最後の一言だけ鮮明に聞こえた。
「もう明日から来なくていいから」
と、今日までの給料を渡された。
それから報告書を書くのだがあまり良く覚えていない。
気がつくと追い討ちをかけるような豪雨のなかひとり雨に濡れて帰っていた。
金の入った封筒を握りしめ、雨なのか涙なのかわからぬまま歩く。
早く帰ってモナと寝たかった。