表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神殺しの王となる。  作者: 唐松あせび
二章 東ベストロジア戦争
63/80

五話 アーキュリー邸爆破事件

 アーキュリー邸が爆破された。

 アーキュリー冒険者ギルドの会長ナービの使者からそれを聞いた時、ツヅルは数分固まりました。

 恐らく、アルノ公爵陣営の仕業でしょう。その推理もとい断定をするのは難しくありません。しかし、どのようにして? どんな爆弾を使って? 何故、今? など解かねばならない謎が一挙に増えました。

 何より、クラリスの消失というのも気になります。


「やぁ、ツヅルくん。また君と仕事することになりそうだ」


 ツヅルとはアーキュリーの今後のことを考える会議に参加した、というよりはさせられました。

 どうしても、とナービにせがまれたのです。

 彼としても、クラリスに協力すると言った手前、その誘いを無下にすることはできませんでした。

 場所は冒険者ギルドのギルド長室にてです。モハナト革命が終了してから一切入ることのなかった部屋は懐かしく感じられました。

 また、その会議に参加したメンバーもそうそうたる方々でした。アーキュリー遠征部隊隊長のザリ・フロミチ・ツロンダード、ブルーノ商会の副会長トラレル・ブルーノ、アーキュリー=ウロミス教会の司祭ナリオン・バリス、後侯爵、伯爵、子爵家当主など様々です。

 前ギルド長と同じように質素な部屋を好むナービの仕事部屋、即ちギルド長室は座り心地のよさそうなソファーが二組対面させられていて、その真ん中には木材で造られた机が置いてありました。

 それ以外には二段の本棚が部屋の隅にあり、資料と思われる紙の類が隙間もないほどに詰まっていました。

 招集された客人たちはそのほとんどが、重役出勤してきた、まだ少年真っ盛りであるツヅルを訝しげな視線で見つめました。

 当然でしょう。この東ベストロジアでもそこそこの財力、権力を誇るアーキュリーの今後を決める会議に子供が参加することは普通考えられません。

 モハナト革命での、ツヅルの活躍を知っている者は極少数を除いていないからです。

 これは、ツヅルの謙虚さというよりは変に目立つのは好ましくないという考えからでしょう。

 ツヅルは居心地の悪さから、まだ開いていた知り合いのトラレルの横に座りました。彼女は訝しんではいないようですが、驚いているようで、首を傾げていました。


「これで全員揃ったので、始めさせて頂きます」


 しかし、ナービのこの言葉により、ツヅルへの意識は薄れました。一人の子供よりも、一つの街が重要なのです。


「ご存知の通り、本日深夜アーキュリー伯爵邸が爆破されました。死人は確認できませんでしたが、使用人に怪我人多数、特に爆発が酷かったアーキュリー伯爵の寝室は木っ端微塵になっており、死体すらも発見されていません」


 爆発がそれほど大した被害を及ぼしていなくて、ツヅルは安堵しました。しかし、幾つか気がかりがあります。それは先程述べたものもそうですが、一番は何故クラリスの遺体ないし生体を拝むことができないのかというものです。

 どうやら、クラリスの部屋の爆発は相当大きかったらしいです。一応、姿が見えないので生死不明ということにはなっていますが、爆発が起こったのは深夜。とても助かっているとは思えません。

 その他にはカルワナなども含めた使用人若干名が切り傷などの軽傷を負ったのみ。つまり――、


「これは完全に伯爵を狙った犯行です」


 その言葉に各々が頷きました。それは絶対とはいえずとも、明確でした。


「そして、それを行った勢力も既にお察し頂けているでしょう」


 アルノ公爵だ、と誰かが呟きました。

 どうやら、東ベストロジアでもうすぐ戦争が起ころうとしているというのはこの場では共通認識なようです。


「恐らく。さて、今回お呼びしたのは他でもありません。領主不在の際に行われる選挙のことです」


 例えば、跡取りのいない領主が何らかの事故が原因で死亡してしまった場合、王がその街の代わりの領主を任命するまで、街の統治を代わりに行う領主代行を街が選挙で決めることになります。

 一つの街の領主とは貴族側から見ても様々な利益を持ち込んでくれるので、まだ自分の街を持っていない公爵たちがこぞってそこの領主となろうとします。

 このため、様々な小競り合いが起きるので、領主が決まるのは数ヶ月と掛かります。

 これだけの期間統治できる人間がいないというのは治安が悪化する可能性がとても高く危険なので、ならば、というわけで創られたシステムなのです。


「つまり、犯人、……アルノ公爵は自分の刺客をアーキュリーの領主代理とするためにこのような事件を起こしたのだと考えられます」


 そう言うと、とりあえず言いたいことは述べた、という風にナービは自分の椅子に座り込みました。

 つまり、この街をアルノ公爵に間接統治されるような事態を避けるために選挙にいかにして勝つか、というのが会議の主題らしいです。

 しかし、敵は東ベストロジア随一の経済力を持つ街の領主、アルノ公爵です。当然、宗教都市バルミザも味方をするでしょうし、アーキュリーの立場は悪いように思えます。

 ですが、このまま虚ろとしていてもしょうがない、と思ったのか、半ば強引に会議は続けられました。そこそこに白熱はしていたのですが、武力と経済力で負けているアーキュリー側がそう簡単に打開策を見つけられるはずもなく、難航しました。 


「皆さんちょっと聞いてほしいっす」


 いよいよ議論が進まなくなった時、トラレルはそれを見計らったかのように立ち上がると、


「今回、この領主代理選挙にはあたし、トラレル・ブルーノが立候補するっす」


と大声で言い放ちました。


「……しかし、これは明らかな負け戦でしょう」

「構わないっす」


 ナービの説得を彼女は言語道断とばかりに叩き切りました。


「そもそも、ブルーノ、いえトラレル様だけで決めて良いんですか?」

「これはお父様の指示っす」

「ラミロス会長の……」


 恐らく、何か策があるのだろう、とトラレルの言葉はあっと言う間にに会議に承認されました。今ここで承認されたということはアーキュリーに認められたといっても過言ではないでしょう。つまり、アルノ公爵率いる刺客とブルーノ商会率いるトラレルが選挙で決戦することになるのです。

 選挙はもちろん投票にて行われますが、ギルド長選挙とは違い、きちんと高い税金を収めている者のみです。彼らをどれだけ買収できるかが運命の鍵となるのです。

 これにて、会議は平定となりました。結局、決まったのはトラレルを全力で持ち上げるということだけでしたが。




 ツヅルは本当にできることがないことに気付きました。前世から持ってきた頭脳や知識も形無しです。それが使えないのならば、彼はただの少年に過ぎないので、何とか解決の糸口を見つけ出したいところですが。

 それはともかく、会議が終了して、残ったのは彼とナービとトラレルだけでした。


「ツヅルくん、でスよね? どうして、ここにいるんすか?」


 どうしても聞きたかったのか、途端にこちらを向くとトラレルは聞いてきます。


「彼はモハナト革命に最も貢献した少年ですからね」


 沢山の重役を相手にしたからか、疲労した顔つきのナービは言いました。


「へぇ。革命を起こした少年の噂は本当だったんすか」

「まぁ、今回は何もできそうにないですけど……」


 ツヅルは自虐しました。


「そ、そんなことないっすよ」

「……そんなことより、本当に良かったんですか? 立候補役を担って」


 心にもない慰めを受け取るぐらいなら、と彼は話を変えました。


「父、いや会長の任務に従うのが、娘であり副会長でもあるあたしの役目なんすよ」

「勝てますかね?」

「……正直、わからないっす。この選挙、どうにも、たくさんの陰謀が渦巻いている気が……いや、それは表現違いっすね。何ていうんスかね。……とにかく、たくさんの人が動いている気がするんすよ」

「陰謀、ですか? 確かにアルノ公爵によるアーキュリー侵略は陰謀といえなくもないですけど」

 

 ナービは彼女の言葉が気になったのか、話に割り込んできました。


「違うんす。そうじゃなくて、あのアーキュリー伯爵邸の爆破は始まりじゃなくて、終わりの気がするんすよ。今まで布石を張り続けてきて、あの爆発によって完了したのではないか。と、そんな気が」

「もう既に私たちは包囲されていると?」

「そうっす。何か動かされている気がするんすよね。うちの商会もこの冒険者ギルドも、唯一例外があるとしたら……」


 トラレルはツヅルをジッと見つめました。

 ツヅルは彼女が自分と同じ、とはいわずとも似たような感覚を味わっているのだと察しました。

 何かが脳裏に引っかかる。思いつかないということは、その「何か」自体は特筆すべきこともない平凡なものなのでしょう。

 しかし、それが重要な気がしてならない。


「ま、まぁ、お互いがんばりましょう」


 埒が明かないと思ったのか、急に話を切ったナービにより、今度こそツヅルとトラレルはギルド長室を出ました。


「ツヅルくん。暗闇にはどうか気をつけてくださいっす」

「え?」


 トラレルは去り際、そう呟きました。




「あら……、ツヅル。お帰りなさい」


 宿屋に戻り、自分の隣の部屋のをノックして入ると、酷く憔悴した様子のツシータが出迎えてくれました。クラリス信者と称してもいい彼女はアーキュリー邸の爆破を知り、クラリスが行方不明になったと聞くと、ベッドにこもってしまったのです。

 彼女の自傷行為が行われていない綺麗な腕や首を見て、ツヅルは安心しました。ナービに呼ばれて、会議に向かったときには自殺していてもおかしくないほどに落ち込んでいたからです。


「しばらくは外に出ないほうがいい」


 彼はとりあえず忠告しました。これから、選挙やら何やらで街の治安が一時的に下がると推測したからです。自分が被っている布団に視線を向けたまま、ツシータはゆっくりと頷きました。

 名残惜しい気持ちもありますが、ここにずっといても仕方がないでしょう。ツヅルは部屋を出ました。


「ツシータの様子、どうだった?」


 すると、廊下には心配げな表情でそう投げ掛けてきたメアの姿がありました。簡単な食事が入ったお盆を持っています。偶にいがみ合っていることもある彼女たちですが、友人であることには変わりがないようです。


「良い、とは言えないな」

「……アーキュリー伯爵は本当に死んだのか?」


 メアは諦めの籠もった眼差しを向けてきます。


「ああ、恐らくな。……身体はともかく心の怪我は時間を掛けるしか治す方法がない。だから、――もちろん、僕も手伝うが――しっかりと見てやってくれ」


 その言葉にメアが深々と頷くのを見届けると、ツヅルは自分の部屋に入りました。今後のことを考えたいからです。現在、ネリーとテルランは食堂に行っているので無人でした。

 部屋にはネリーと共用している三段の本棚と、ベッド二組、机一式しかありません。これはこの部屋の住人である彼ら2人が、おもちゃなどよりも思考を重要視する性格だからでしょう。

 さて、ツヅルは自分のベッドに座り込むと、様々なことを考え始めました。

 ひとまず、生活費は一ヶ月ほどは大丈夫でしょう。ツシータやメアに浪費癖が垣間見えるときもありますが、彼女らは資金がないことの恐ろしさは身を以て体験しているので貯蓄は半ば習慣になっているのです。

 次に本題。選挙のことです。

 少し整理しましょう。現在、選挙では2つの陣営ができています。

 一方はアルノ公爵率いる港街陣営。他方はブルーノ商会率いるアーキュリー陣営です。

 第三者が戦いに乗り込んでくる可能性はなきにしもあらず(・・・・・・・・)といったところでしょうが、仮に乗り込んできたとしても前2つの陣営に勝る経済力、武力を持っているはずがありません。もう、東ベストロジアの半分以上の勢力は港街陣営かアーキュリー陣営に属しているのです。

 この複雑怪奇とは言えない、分かりやすい対立の中で、ツヅルは一体どういう行動をすればいいのでしょうか。

 聞くところによると、選挙は9月20日に行われ、翌日結果が公表されるようです。明日までにクラリスが帰ってくれば別ですが、その可能性は考える必要もないでしょう。


(……やはり、どうやっても港街陣営に勝てる展望が見えない)


 アーキュリーという一つの街の中で完結しているアーキュリー陣営とは違い、港街陣営はサーヴはもちろん、宗教都市バルミザまで関与しているのです。

 そんな絶望的な状況を考えるのは無駄だ、と思ったのでもっと別のことに思考を移しました。


『暗闇にはどうか気をつけてくださいっす』


 先程のトラレルの言葉です。彼女が放ったこの言葉には一体どういう意図が含まれているのでしょうか。まさか、お前を殺してやる、なんてことはないでしょう。

 

「……わからないな」


 しばらく考えていましたが、やはり何も思いつかず、やがてツヅルは項垂れました。

 そんな時、コンコンと扉がノックされる音が聞こえました。ネリーやテルラン、メアならそんなことはしませんし、今現在落ち込んでいるツシータが彼の部屋まで来たというのは考えにくいです。

 恐らく、リーフでしょう。

 そんなツヅルの考えを後押ししてくれるかのように、


「あの」


と扉の向こうから、淡々とした声が聞こえました。


「入ってくれ」


 返事をすると、扉は開けられました。


「ツヅルさん。すいません、お邪魔、しちゃいましたか」


 リーフは開幕一番におずおずとそう尋ねてきました。ツヅルが首を横に振ります。


「じゃあ、ツシータさんのことで、お聞きしたいのですが」


 人と話すのが苦手なリーフにとって、話し掛けてくれるツシータは友好を感じる存在というよりは尊敬の対象らしいです。

 父を失った時にツヅルに依存したように、彼女は精神的なストレスを感じると誰かに頼ってしまう性質があるように思えます。


「何だ?」

「あの、何故クラリス伯爵をツシータさんがあんなになるほど慕っているのかが分からないのですが」


 予想以上に辛辣、というか淡白な質問でした。お前が言うな的な質問かもしれませんが、彼女の依存は無意識によるものなので、性質は違ってくるでしょう。


「何でも、獣人と人間を差別しないことと、時折開かれている武器の訓練会のときにクラリスが見せた剣技が凄まじかったかららしいが」

「なるほど」

 

 リーフは案外あっさりと納得しました。


「それだけか?」

「はい。ちょっと気になっただけなので」


 そういうと、本当に彼女は去ってしまいました。




(妾は可愛い!)

「かわいい!」

(妾は凄い!)

「すんごい!」

(妾は天才!)

「てんさい!」


 もう、夕焼けが茜色に輝く夕方でした。今日一日は時間が過ぎるのが早かったような気がします。やっと、秋初旬の暑さも収まったか、とツヅルは思いながら、夕食を食べに食堂に行くと何とも奇妙な少女2人がいました。

 ネリーとテルランでした。

 自分の知人関係についてもっとよく考えたほうがいいのではないか、と自分自身に追求した彼はため息を吐きました。


「何をしているんだ?」


 食堂に入ってすぐの机の近くで叫んでいる彼女たちにツヅルは呆れながら、聞きます。


「あ! ツヅル! テルランが元気の出る言葉だっていったから!」


 ネリーは彼に気付くと、言いました。聞く限りだと、テルランなりの励ましに思えなくもないですが、これに意味があるとは思えません。


(まぁ、多少なりとも落ち込んでいたネリーの気が紛れたのなら、いいか)


 ネリーもツシータの寝込んでいる姿を見て、言動が暗くなっていたのです。

 ツヅルが納得すると、丁度良くリーフが夕食を持ってきてくれました。この世界では調味料や香辛料の類が高く、料理は大抵味気ないのですが、贅沢は言ってられません。

 彼はライ麦で作られた固いパンを手に取りました。


「ツシータ嬢の様子はどうだ?」


 ネリーはツヅルの眼を見つめながら、問うてきました。今日でどれだけその質問をされたことでしょうか。ツシータが愛されていることが分かりました。


「しばらく様子見としかいえないな」

「……そうか」

 

 ネリーは渋々ながらも頷きました。

 しばらく、静寂な食事が続きました。世間話をする気にもなれなかったからでしょう。テルランも気を使ってか、そうでないのかは分かりませんが、ぼーっと食堂の天井を見上げていました。


(明日から、どうなるんだろうか)


 クラリスが死んだことにより、街はざわついていました。敵討ちをしようと、冒険者たちが犯人探しに躍起になっているらしく、ギルド前の大通りは慌ただしい様子でした。

 中には自分こそが真のアーキュリーの領主だ、と主張する者もいるらしく、また,この街に領主はいらない、と宣言した団体もあるようです。

 そんな若干混乱状態に陥っている街に2つの陣営がぶつかろうとしています。

 もしかしたら、アーキュリーが地図上から消える可能性もあるかもしれない。ツヅルはそんな想像、いえ妄想をしている自分が馬鹿らしく思え、すぐに考えを取り消しました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ