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神殺しの王となる。  作者: 唐松あせび
二章 東ベストロジア戦争
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三話 大討伐

 次の日になりました。だからといって何があるわけでもありませんが、起きたらテルランが隣で寝ていたことには驚きました。 

 ネリーを起こし、食堂でツシータたちと合流し、久し振りに討伐依頼に行けるということで少女らしくない高揚感により、若干躁状態になっているリーフを少し落ち着けさせたツヅルは「いざ冒険者ギルド」と外に出た直後に、


「……お、久しぶりやな」


 宿屋の入口がある路地にいた精霊族研究会のエルフ族の会長、スラマイナと出会いました。外套を着込んでいて、一瞬誰かなのかと思いましたが、その独特な喋り方からすぐに彼女だと分かりました。

 どうしてこんな朝からこの宿屋に来たのでしょうか。

 聞くところによるとしばらくの暇乞いの挨拶に来たようです。どうやら、彼女ら精霊族研究会は1週間後に故郷である北ミストレア森林の元エルフ族の集落に1ヶ月ほど帰省するようです。

 別に会社でもないのですが、この街で彼女らと関わり合いがある人間は実質ツヅルたちだけなので、これを伝えに来たのでしょう。


「どうやってこの街を出るんですか?」

「そらハニトよ。あ、ハニートーストやないで」


 本当にそれだけを伝えるためにここに来たのか、スラマイナは彼と軽く談笑して帰ってしまいました。それに若干違和感を覚えないでもないですが、友好的に思われているのは良いことだろう、と納得しました。

 



 遥か彼方にそびえ立つ「ドラゴンも越えられない山」と呼ばれているウェート山脈から顔を出した陽の光を浴びながら、ツヅルたちは、いえ正確に言うとツヅルたちを乗せた馬車は、アーキュリー東の巨大な平原地帯を駆けていました。

 今回は昨日のようなものではなく、きちんとした討伐依頼です。

 概要は、


『緊急D級依頼 ダリン近辺の魔物大討伐 報酬 一人3000レー+魔物一体につき500、千、2千レー。 依頼者アーキュリー冒険者ギルド ・本日未明アーキュリーの北東の町ダリン近辺に数百体の魔物の集団を発見しました。至急冒険者200名を募集します。』


ということでした。

 ダリンとはダリン辺境伯が治めている町で、人口、治安は共に一般的な町とそう変わりません。

 報酬の部分はF級の魔物を一匹倒したら、500レー。E級の魔物ならば1000レー、D級なら……。という意味の冒険者ギルド特有の書き方です。

 つまり、貢献度によって報酬が変わるということで、これはこのように参加する人数が多い依頼では顕著に見られます。

 昨日でテルランは魔力の調整を完了したようで、今日は連れてきたのですが、いきなりこんなハードな依頼をやらせるのはどうかとツヅルは不安になりました。

 馬車は完全に人員輸送用の雑な作りの馬車でした。

 ツヅルのパーティーだけを見たら、リーフ、ツシータ、メア、テルランと少女ばかりでしたが、幸か不幸かこの馬車は8人乗りだったので、多少なりとも男性はいました。

 新暦1012年のバラトニーの戦いにおいて誕生した新興宗教、ウロミス教の教徒の14歳の少年や、騎士爵の5男で家を追い出されるようにして冒険者になったらしい青年、そこそこ人気のある被服屋の次男坊など色々と経歴を持った方たちです。

 また、その男性たちと会話を交わす中で意外なことがありました。彼らに一番人気だったのが、テルランだったことです。 

 しかし、考えてみれば分からないことはありません。表向きは差別がないと言われていても、やはり――ツヅルのようにそもそも固定観念がない人以外には――平等に扱いづらい獣人のツシータ、臆病故にツヅルにべったりくっついているリーフ、男らしい口調のメアよりは、――表面上は――寡黙で、どこか守ってあげたくなるような雰囲気を纏わせているテルランの方が選びやすいでしょう。

 もっとも、そのことにより、自画自賛がいつもの倍激しくなったテルランの声を脳内で聞き、更に彼女の元々姿を知っているツヅルにはその選択はナンセンスに思えました。

 そんな風にこれから魔物討伐に向かうのか、と疑問に思うほど日常的な会話を彼らはしていました。

 やがて、それは終わりました。目的のダリンに着いたのです。

 町に降り立った200人の冒険者たちはまずダリン辺境伯の激励を聞きました。彼に特段忠誠心を持っていた冒険者はいなかったので、士気が上がったわけではありませんが、皆報酬のために張り切っていました。


「さて、ツヅル。作戦はどうするの?」


 ツヅルの思考を信頼しているツシータはまずそう問いました。その腰にはベルトが巻いてあります。

 魔物がやってきているのは東方面で、今現在彼らは全く舗装されていない町から数百メートル離れた平原で待機していました。

 日はそろそろ最頂点に上がろうとしていてました。

 町からそこまでは歩きだったので、一年前よりは使い勝手も良くなり、軽くもなった改良版杖槍を持っていたメアは疲労しました。結局杖槍は改良されても、彼女の体力は向上しなかったようです。

 作戦を、ということですが、この依頼では各パーティーが担当する場所が定められていたため大したことは思いつきません。


「1人だけが防衛ラインからはみ出さないように、奇襲や追撃をするときには注意し、魔物に囲まれたら助けを呼ぶこと、くらいだな」


 その考えが案外普通のものだったので、ツシータはつまらない顔を見せました。彼女はツヅルの頭脳によって、普通では敵わなかった相手が倒されるのを見るのが好きなのです。


「……あ、そうそう! リーちゃんの火属性魔法で全部吹き飛ばせばいいんじゃない?」

「有事の場合には仕方がないが、できるだけ報酬が残る形に留めてくれ」


 何故か魔法の威力が膨大になる、というリーフの性質は未だに治っていませんでした。

 しかし、それは対集団戦に掛けて非常に有効でした。


「メアもなるべく闇魔法は使わないように……、大丈夫か?」


 メアにもそう注意をしようと思い、ツヅルは振り向いたのですが、彼女が地面に寝転がっていたため聞きます。

 ああ、というかすれた声が聞こえました。


(そういえば、テルランはどんな魔法が使えるんだ?)


 今度はテルランにそう声を掛けると、藍色の髪の少女が所々に橙の模様が描かれている濃い青色のスカートを翻して、こちらを向きました。

 そう、彼女は折角人間になったのだから、ということで戦闘服らしくないスカートを着てきたのです。

 紺色で縁取られている灰色の布の服に、赤と黒のマントとミサンガなんて奇妙な格好をしているツヅルが言えることでもないのでしょうが、魔物討伐には実に不釣り合いでした。


(闇属性以外なら、下級、中級魔法は殆ど全部使えるようになったのじゃ)


 ツヅルはレパートリーの多さに驚きました。もし、その言葉が本当ならば万能な戦力へとなれるでしょう。


(も、もちろん、光れるし、魔力は吸収できるぞ!)


 彼の無反応を悪い方向に考えたのか、テルランは狼狽した様子で言いました。いや違う、とツヅルはすぐに返して、彼女を褒めます。

 变化魔法万歳、と叫びたい気分でした。


(えへ、えへへ)


とテルランは滅多にもらえない褒めを受け取って、気恥ずかしそうに体をよじらせました。表情はいつものジト目スタイルだったため、何ともおかしな光景でした。


「何をしているん、ですか?」


 そう思った内の1人でしょう。リーフは訝しげな眼で見てきます。


「心理学の勉強だ」

「結果は、どうなったんですか?」

「ちょろい」

「……ツシータさんが、ですか?」

「ちょっとなんでそこでアタシが出てくるのよ!」

「なんか、簡単になびきそうじゃないですか」

「……それは勝負を申し込んでいる、という結論でいいのかしら?」

「では、今回どれだけ魔物を倒せるか、というのは?」

「ふふふ、いいの? アタシはC級よ」

「ちょろい検定が、ですか?」

「……その勝負、乗ったわ」

「メアもいるぞ!」


 何故か、知らぬ間にツシータとリーフの勝負の話になっていました。ツヅルは止めようとしましたが、体力を回復させたメアの臨時参加と「無理はしないから」という2人の説得に乗せられて、勝負の審判を承ってしまいました。

 リーフは時たまに嗜虐心を発動させる傾向があります。

 恐らく、いつもしている仕事で生じたストレスの発散なのでしょう。うぶなのでからかいやすいメアや口論に滅法弱いツシータなどがよくその対象に選ばれていました。たまに解読不可能な発言をするネリーや、単純に子供に比べたら口論の強いツヅルにはあまり喧嘩をふっかけてきません。

 もっとも、ツシータたちもリーフを捕まえてくすぐったり、トランプゲーム――に良く似た遊び――で2対1の状況にしたり、とどっちもどっちなのですが。

 

「……あっ」


 そんな子供らしい一面に安心すればいいのかどうかよく分からない気持ちになったツヅルはそのツシータが漏らした吐息に気付きました。

 振り向いてみると、氷も凍てつくのような冷たい彼女の表情が見えました。これは戦闘に集中したときになるツシータの癖です。

 これが意味するところはつまり、そう考えたツヅルは東方向に目を向けました。しかし、彼の一般的な人間の視力では何も見えません。ですが、心なしか周りの獣人の冒険者がざわついているような気がします。


「『照準』」


 遠くを見えるようにする魔法をツヅルは唱えました。

 

「見えた……」


 その言葉により、リーフは座り込み「炎可視(フレイムスナイプ)」の準備を、寝転んだままだったメアはとりあえず起き上がりました。




 次第に人間の肉眼でもぼんやりとですが、数百メートル先に魔物の大軍が見えるようになりました。

 ゴブリン、ハーピー、ウルフという下級な魔物から魔物の中ではトップクラスの知能を持つオーク、巨大な体と絶大な力を誇るサイクロプス、魔法文明が産んだ悲劇ともいえる物理攻撃無視のフレイム、逆に魔法の効かないゴーレムなど様々な種類の魔物が軍を成しています。地も空も埋め尽くされていました。

 魔物たちは200人の冒険者に覆いかぶさるような数、500体はいるのではないでしょうか。

 それが突撃してくる光景は圧巻でした。


「ツヅルさん。もう撃っていいですか?」


 黄色と青の戦闘服のまま地面に寝そべったリーフは「炎可視」の準備が完了すると問うてきました。

 それは彼女は今も頭に付けているリボンカチューシャの効果によって、まるでスナイパーのように遠くの敵に火の弾を当てる魔法です。

 一年ほど前に彼女はツヅルのアドバイスと彼女自身の性質も相まって、「魔法武器」より銃を創りだし、「照準」により視界を確保して、数百メートル離れたところにいる魔物を丸焦げにするという攻撃手段を手に入れました。

 彼女は史上初めて300メートル狙撃を成功させたスナイパー――狙撃手なんて役職は存在しないので、あくまで非公式ですが――なのです。


「ああ、この距離でもあれだけ魔物がいるんだ。当たるだろう」


 現在、冒険者がいる場所は高所なので、まさに絶好の狙撃ポイントです。

 彼女は許可を貰うと、息を吐ききり、数秒間スコープを覗き、


「『炎可視』」


と呟きました。

 小さな魔法詠唱音を伴って、小さな火の玉が銃口から放たれました。それが余りにもしょぼいものだったので、初めて見る銃を不思議に思っていた周りの冒険者たちは嘲笑を浮かべました。 

 しかし、次の瞬間には表情は驚愕に移りました。

 小さな火の玉が魔物の一匹に当たった瞬間に爆発を起こし、一気に数体の魔物を焦がしたからです。

 その光景はツヅルと同じく「照準」を使っていた冒険者を大きく驚かせました。

 この世界では静止状態での魔法の有効命中距離、つまり射程は長くても100メートルほどだと知られています。

 それをこの紺の髪の少女はいとも容易く破ったのです。

 この「炎可視」に釣られて、他の冒険者は己の報酬のために魔法を放ったり、頭の回らない者は1人で突撃しに行きました。

 ですが、それだけで魔物の動きを完全に止めることができるわけありません。魔物の集団は依然として、こちらへと猛突進していました。

 ツヅルは自分がどういう手段をとればいいのか、悩みました。彼は一年前と比べたら、そこそこ魔法も習得していました。

 前世で学んだ物理学や化学などが、イメージを大事とする魔法習得の支えをなっていたからです。また、英語、いえメラルト語がまぁまぁ読め、多少なりとも数学的な思考ができることも助けになっていました。

 その反面、身体能力は少ししか向上しておらず、ツシータはもちろん、リーフにもたまに負けることがあります。

 そんなツヅルの今の主戦力は「心討ち」、中級火属性魔法「火炎球」の二つです。この他にもありますが、大抵これだけで戦闘は済みます。

 頭を悩ませている間にもどんどん魔物軍は迫ってきます。やがて、お互いの距離は100メートルを切りました。途端に戦闘の音は激しくなります。

 ゴブリン、オークたちが弓を放ち、それをメアなどの長距離魔法が苦手な魔術師が「魔法壁」を用意し防ぎます。

 ハーピーやガーゴイルなど空を飛ぶ魔物が爆撃をしてくるのを、また「魔法壁」で防ぎ、別の魔術師が攻撃魔法で返します。

 そして、ツシータなどの獣人が示し合わせたように魔物たちへと一斉に突撃を始めました。

 ツヅルは魔物大討伐に参加したのは今回が初めてだったので、立ちすくみました。しかし、すぐに「心討ち」で空の魔物を殺しに掛かりました。

 メアが時折闇属性魔法を使用しながらも、「魔法壁」で攻撃からパーティーを守り、リーフが遠くにいる魔物を「炎可視」で、近くにいる魔物を「炸裂」などで一掃し、ツシータが前線で敵意を集めながら、戦う。これがクラン「アーテル」の戦術でした。

 なので、ツヅルは指示に回るか、戦力の足りない部分の補助を行うだけで本格的に魔物と対峙することはあまりなかったのです。


「『心討ち』!」

 

 そう詠唱すると、コンマ数秒という時間で空を泳いでいたハーピーは地に落ちました。「心討ち」の素早さと攻撃力はまさに戦車でした。


「『火炎流』!」


 それを放ったのはリーフでした。もう敵が近くに来たので、「炎可視」が必要なくなったのです。

 ツヅルの頭よりも3倍以上大きい火の玉が放たれました。ツシータはそれを見て、魔物の足止めのためにメアが作った目潰しの魔法薬を周りにまきます。避けようとしていたところに不意打ちをくらった魔物の近くに火の玉が飛んでいき、やがて地面に付くと鮮やかな赤の波が生まれ、洪水となって十数体もの魔物を一斉に包みました。

 このツヅルたちのいる右翼だけを見れば、冒険者軍が優勢に見えましたが、「魔物軍の主力が集まった中央が押されている」との情報がギルドお付きの伝令兵によって伝えられました。


「包囲だ!」


 途端にツヅルは空に「心討ち」を放ちながら、叫びます。

 戦術の知識がない冒険者たちには何のことか分かりませんでしたが、包囲戦という言葉を知っている一部の者には伝わりました。

 つまり、押されている冒険者軍の中央が少しずつ後退し、右翼と左翼が前に出て、魔物主力を囲むのです。

 伝令兵にはそれが伝わったようで、左翼へと全速力で駆けていきます。

 右翼の冒険者も包囲戦の旨を叫び、どんどん前進していきます。




 いつの間にか、冒険者軍と魔物軍の形勢は逆転していました。残りは100匹ほどでしょう。それに対して、冒険者は150人以上無傷です。

 そして、右翼と左翼の努力によって魔物主力は半包囲されていました。

 

「戻ったわ」


 攻撃が集中する包囲の中心で接近戦を行うのは同士討ちの可能性が生まれるので、返り血塗れのツシータは急いで戻ってきました。 


「……『破裂』」


 それを見ると、リーフは自分が行える攻撃魔法の中で最も範囲が広い「破裂」を放ちました。

 攻撃速度は「心討ち」、「一閃」などに劣りますが、それでも目で追いきれないほどに速い「破裂」はリーフの特性と組み合わさって今日一番の大爆発を起こしました。

 その火薬の臭いがしない爆発は冒険者全員が見ることができるほど大きなもので、ツヅルも含めたほとんどの冒険者が息を呑みました。

 しかし、それも束の間です。彼らは曲がりなりにも戦いを本職とする冒険者です。そんな彼らが戦場で呆然としているはずもありません。

 「火炎波」、「火炎球」、「濁流」、「地震」、「暴風」などありとあらゆる魔法が飛び交いました。

 圧勝と言うべき勝利でした。




 そんな戦いを終えて、ツヅルたちはアーキュリーへ戻ってきました。派手な爆発で冒険者たちを魅了したリーフのおかけで、26,500レーを手に入れることができました。

 一日を消費した甲斐があったというものです。

 最近、彼ら「アーテル」はアーキュリーのD級クランの中ではトップクラスに戦闘が上手いと一部の冒険者たちに噂されていて、特にリーフとツシータには他のクランからの勧誘がよく来るようになっていました。

 もちろん、金銭などの条件付きで、です。中には10万レー以上を払う、と言ったクランもありましたが、有り難いことに彼女たちはそれに乗ることはありませんでした。


「じゃあ、リーちゃん。倒した魔物の数、いっせーのーせで言いましょう」


 ツシータは勝負の話を忘れていなかったようです。


「いっせーのー」

「22体だわ!」

「少なくとも35体です」


 残念ながら、こういう対集団戦では広範囲の魔法が使えるリーフに分がありました。


「……あ、そういえば、アレの分も合わせたら、36体だったような気がするわ」


 しかし、負けず嫌いなツシータはそっぽを向きながら、呟きます。


「じゃあ、わたしは、37体で」

「……38体!」

「思い切って、40体」

「張り切って43体!」


 戦果がオークション形式で上がっていくのも良くある話でした。


「はいはい。もう終わりだ。今日のところは帰ろう」


 メアは疲労感から、そう促して帰ろうとしました。


「あっ、ツヅルさん~!」


 しかし、受付の方からアールナの声が聞こえました。そのときのメアの、まだ何かあるのか、というこの世の全てを呪ったかのような表情が見えました。なので、とりあえず、彼女ら4人を帰そうとして、


(あれ、そういえば、テルラン、お前何やっていたんだ?)


 彼女の姿が戦闘中全く見えなかったことに気付き、そう問います。気付かれたか、と動揺するかのようにビクッと震えた彼女は青白い手で口元を隠しながら、


(……地面の上で寝ていたのじゃ)


と呟きました。

 ツヅルは今年で一番絶句したかもしれません。




 ともかく、彼女たちを宿屋に帰したツヅルはアールナの方へと寄っていきました。もうすぐ夜となる時間なので、ギルドは報酬を持ち寄った冒険者たちで溢れていました。


「ルナマリア様からです」


 ツヅルはもう手紙の返事が来たことに驚きました。彼女は相当暇なのでしょう。

 綺麗な羊皮紙を受け取って、ギルドの隅で開きます。


『なんと! あのモハナト革命に参加なされたのですか! あの戦いは騎士クラリス・アーキュリー様による正義の戦いだと聞いております。確かに、モハナトがアーキュリーになってから、スラム街は縮小し、経済は向上し、豊かになった気がします。

 そう、モハナト革命といえば、一時期「あの革命は10歳の小さな少年が企てたものだ」という噂がハルミリの社交界で流行りましたが、ご存知ですか? もちろん、私も信じていません。大方、噂好きの夫人がルリガイア王国の少女王リトイ12世を模したものなのでしょう。ツヅル様はどう思われますか?

 P.S.手紙はもっとラフな感じで構いません。』


 ハルミリでそんな噂が流れていたのか、とツヅルは肝を冷やしました。このことがバレて、クラリスの威信に関わってしまっては大変です。

 ツヅルは再び、少年からペンを借りて、慎重を期して返事を書きました。




 宿屋に帰ると、エントランスにクラン「アーテル」の面々とテルラン、ネリーが一つの書状を囲んでいました。


『ツヅル・トヴァーリ様へ。9月9日にアーキュリー伯爵邸まで』


 意味深な文面でした。


「……ツヅルずるいわ! クラリス様と2人でお話するなんて! アタシも着いてくわ!」


 クラリスの信者で暇な時はいつも構ってもらっているツシータは不満を呟きます。


「いや、でも……」

「行くわ!」

「……はぁ、分かったよ。ただ大事な話をするときは部屋から出てってくれ」

「ええ、それはもちろんよ」

「自分も行く!」

(妾も!)


 リーフとメアは、わざわざ呼ばれてもいない堅苦しいところへ行きたくないということで断りましたが、結局、3人は連れて行くことになりました。


(これは……)


 何かが始まろうとしているのが、ツヅルには分かりました。

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